ポルト村防衛戦②
──グォォォォォン!!
──ギェェェェェェ!!
──ジュワッ! ジュウッ!
ポルト村が岩壁に完全に覆われてから、一刻も経たないうちに魔物の巣窟から這い出てきた魔物は、岩壁まで辿り着いていた。
魔物たちは、狂ったようにその岩壁を攻撃し続けている。しかし、祈りの塔の上からはポルト村の魔法部隊が地道に敵を討伐していた。
時折、岩壁をよじ登り祈りの塔への侵入を試みる知能の高い個体もいたが、それらはドームの上へと降り立ったルカと警備兵たちによって蹴散らされていた。
そして、ドームの周囲では、レナたち人間の存在に気が付いた魔物たちとの戦闘が始まっていた。
「おいおいおい!シリル!ロイズ様は、本当にこんな量の魔物を俺たちだけで殲滅できると思ってんのかよ!?」
「分かりません。しかし、勝機がなければこのような無謀な策は実行なさらないはずです」
「この状況のどこに勝機があるんだよ!メティスリアの奴らがいなければ、俺らなんて──お前はロイズ様のこととなると盲目だからなぁ!」
タイロンは、ヴェノム・ファングを数匹、相手にしながらシリルに問い掛ける。シリルは、飛びかかってくる小型の魔物を一刀両断しながら、タイロンの戦闘を援護する。
タイロンが上空のフェリシアへとちらりと目線をやる。
(あっちも、まだ生きてるようだな──!!)
その一瞬の隙を見逃さなかったヴェノム・ファングが、顔を激しく振り、酸の唾液を飛び散らせる。
「タイロン!」
いつもは叫び声など上げないシリルが、珍しく声を張り上げた。
──ジュッ!!
タイロンの顔面に直撃した酸の唾液は、一瞬で顔を溶かしていく。
「ギャァァァァァァ!!」
顔を両手で覆って絶叫するタイロンを目掛けて、別のヴェノム・ファングが大口を開けて突進していく。
「ノワール・ランサー!!」
シリルが放った黒い硝子のような複数の矢は、タイロンを狙っていたヴェノム・ファングを岩壁へと張り付けにした。このまま、とどめを刺そうと走り出したシリルを、突然、横から猛烈な衝撃が襲った。
「うぁぁっ!!」
砂の上へと弾き飛ばされたシリルは、痛みを堪えながら上半身を起き上がらせる。さっきまで自分がいた場所には、ヴェノム・ファングが小さく見えるほど巨大なヘビの魔物──デザート・サーペントがいた。
「なんて巨大なヘビ⋯⋯私はこのヘビの魔物の尻尾による打撃を受けたのですね」
シリルはなかなか立ち上がれず、ただヘビの魔物を見上げるしかない。そんな彼女には目もくれず、デザート・サーペントは、身体をうねらせて岩壁へと近付く。
──ガリガリゴリゴリ!
ヘビの魔物は、張り付けになっているヴェノム・ファングを、その岩壁ごと削り取って飲み込んでしまう。さらに、ヴェノム・ファングがいた場所ばかりを狙い、繰り返し体当たりを始める。
「薄くなった壁を狙っている⋯⋯まさか、この中にいる人間の熱に反応しているというのでしょうか」
シリルがヘビの行動の理由を模索していると、その足元で顔を抑えて縮こまり動けなくなっていたはずのタイロンが、やっとの思いで立ち上がったところだった。
「タイロン!動いてはいけません!」
「──シリル、どこだ?」
ヴェノム・ファングの酸で顔の大半を溶かされてしまったタイロンは、目が見えないのか周りの状況を把握できず怯えた様子で、フラフラとシリルの声を頼りに、こちらへ向かって歩いてくる。
「ダメです!動かないで──!!」
──バクンッ!!
シリルの叫びも空しく、タイロンはデザート・サーペントに頭から一口で飲み込まれてしまう。
巨大なヘビの身体の中を、タイロンがぬるぬると下へと移動していくのが、皮膚の外からでも分かった。
「わぁーーーーーーっ」
シリルは勢いよく立ち上がると、魔法を発動する。
「シャドウ・アンカー!」
シリルは巨大なヘビの影を縫い止めようと試みたが、その上半身は自らの牙で抉った岩壁の陰に入っており、うまくいかない。
「──ノワール・ランサー!」
無数の硝子のような黒い矢を叩き付けても、その頑丈な皮膚に傷一つ付けることができない。
「───ダーク・レイ!」
デザート・サーペントが作り出す巨大な影が、そのままヘビの身体へと絡み付きギュウギュウと締め上げ始める。しかし、ヘビは激しく抵抗しその巨体を滅茶苦茶に振り回した。
──ドガァァァン! ビダァァァァァン!
シリルは、暴れ回るヘビへと近付こうとするが、よくしなる尻尾の一撃を恐れて二の足を踏んでいた。
(今なら、まだタイロンを助け出せるかもしれないのに──)
シリルが諦めかけたその刹那──目の前を白く染め上げる強烈な閃光が走る。慌てて目を伏せたシリルの耳には、とてつもなく重い何かが砂の上へ落ちる音と、遠ざかって行く重低音を鳴らす蹄の音だけが聞こえていた。
ポルト村へと到着したエドガーは、目の前にいたデザート・サーペントを一刀両断にした後、そのまま村の入り口を探すため、ドームに沿って馬を走らせる。
「フェリシアーーーーー!!」
愛しい婚約者の名を叫びながら、ドームの周りにいる魔物たちを蹴散らし、無力化し、塵にしていく。
エドガーが通り抜けた場所だけ、魔力の残滓が輝き太陽の欠片が散りばめられているようだった。
あともう少しでドームを一周する、といったところでレナとネロがいることに気が付いたエドガーは、急ブレーキをかける。
「レナ!!フェリシアはどこにいる!?」
「エドガー様!!あそこでワイバーンと戦っておられます!!」
「エドガー!どこで道草食ってたんだ!早く、姫さんを助けろ!」
レナは、エドガーへ言葉を返しながら、上空のフェリシアを狙うワイバーンの攻撃に合わせて、小さな障壁を作りダメージを軽減している。
その横では、精悍な顔付きの青年が、上空へ向けて銀色のサーベルから幾重にも連なる斬撃を放っていた。
「俺は、ポルト村の村長の孫ラシードだ!あんたが、噂の黄金の騎士様だろ!?早くフェリシア様を!」
ネロは、上空へ意識を集中させている二人を守るように、地上で襲い掛かってくる魔物をその自慢の爪で切り裂き続けていた。
エドガーが上空のフェリシアを認識した時、フェリシアと羽駆馬が必死にワイバーンの攻撃を躱しながら、戦闘を繰り広げていた。
「プラズマ・ウィップ!」
フェリシアの指先から放たれた、紫の雷を纏ったムチに打たれたワイバーンの羽が、ゴキッ、と音を立てて折れる。それによって体勢を維持できなくなったワイバーンは墜落していった。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
フェリシアは肩で息をしながら、ワイバーンの数を確認しようと視線を走らせるが、無駄なことだと気が付く。
白馬は、疲れ始めたフェリシアを気遣うように、白い霧を発生させ身を隠そうとする──が、ワイバーンたちが一斉に羽ばたき風を起こして、霧を掻き消してしまう。
フェリシアが、地上へ戻るよう白馬へ指示を出しても、ワイバーンたちが邪魔をするように飛び回り、上空から抜け出せない状況になっていた。
(もしかして、私が人間だから異常なまでに執着してくるのかしら⋯⋯?)
──ガチンッ!
フェリシアが悩んだ隙に、ワイバーンの鋭い爪が迫ってきたが、レナの障壁が攻撃から守ってくれる。しかし、小さな障壁は一度攻撃を受け止めると、すぐに砕け散ってしまった。
──バシュッ!バシュッ!バシュッ!
小さな斬撃が、一体のワイバーンの首元へと連続で衝突してその首を落としていく。ラシードも、地上から確実にワイバーンの数を減らしていた。
──ズバァァァァァァン!!
フェリシアの真横を、物凄い轟音と共に大きな斬撃が飛んでいく。その斬撃が通った一帯のワイバーンは全て消滅していた。
この斬撃に、フェリシアは胸がドキリと跳ねるのを感じた。
(まさか──来てくれたの?)
フェリシアが眼下を覗き込むと、地上に太陽があるかのように燦々と光り輝く金髪が目に入る。
「フェリシアァァァァーーーー!!!」
「エドガーーーーーー!!!」
フェリシアは、自分の頬に涙が伝っていることに気が付く。その涙が、この現状への恐怖によるものなのか、はたまた愛する人が助けに来てくれたことに対する歓喜なのか、判断することが出来ないほどにフェリシアは疲れ果てていた。
やっと⋯⋯やっとエドガーが来ました!!
本当に、遅いよ!!
レナみたいにさっと来てくれよぉ!!
さて、ポルト村で巻き起こった魔物との戦闘は、エドガーの到着でどのように決着するのか!?
次回は一気に読んで欲しかったので、少し長いですがお付き合いくださると有り難いです。
そして、ブクマや感想などもお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします!




