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【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
第三章 動き出す黒い欲望

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狂気


──キラッ キラキラッ



遮る建造物、植物すら一切無い砂漠の景色の中、地面から少し上で何かが煌めいていた。


それは、一定のリズムで明滅を繰り返しながらポルト村へと接近してきているようだった。


そして、そのすぐ下には漆黒の影から、チラチラと赤い炎のような輝きが見え隠れしながら、これもまた、こちらへと近付いてきているようだった。



「やっと来ましたね。夜通し、ここで見張っていた甲斐がありました」



ポルト村の入口のすぐ近く、無数に生えたナツメヤシの陰からフェリシアの乗った白馬の姿を見付けたシリルは、胸ポケットに入っている懐中時計に聞こえるように、ポツリと呟く。


そして、その足元を駆ける黒馬へ視線を向けると、静かに魔法の詠唱を開始する。



「フェリシア様さえ、お連れすれば良いので。彼は必要ないですね」



シリルが魔法を詠唱するのに合わせて、彼女の1メートル以内にある影がザワザワと波打ち始める。


そして、黒馬の姿がハッキリと確認できる距離まで来た瞬間、シリルは魔法を発動した。



「ダーク・レイ」



シリルの周りで怪しく蠢いていた影が、一筋の黒い線になり、鋭い速さで黒馬へと飛んでいく。


黒馬の額──その先にあるルカの胸を貫こうとする軌道で一直線に飛んできた黒の線に気がついたルカは、素早く燃え盛る手綱を引く。



──シュンッ!



直撃を免れたが、黒い線はルカのポンチョへと突き刺さっていた。

通り抜けることなく、突き刺さったままその場へ留まっている。



(なんだ?これは──)



ルカは不審に思い、その黒い線に目を向けるが──観察する間もなく、黒い線だった物は、全身を包むような黒い網へと変質していく。

そして、あっという間にルカと黒馬全体を網の中へと閉じ込めてしまう。



──ジュウッ!!



黒い網に触れている部分が、音を立てて溶けていく。黒い線は太陽の光を吸収して、とんでもない高温になっているようだった。



──ギィィィィィンッッッ!!!



黒い網の中へと絡め取られた黒馬の全身に、鋭い痛みが走ったのだろう、聞いたことのないような甲高い悲鳴を上げたかと思うと、ルカと共に砂へと激しく倒れ込む。


その黒い網は容赦なく身体へ食い込むように、範囲を縮めていく。



 「くっ……黒馬もろとも、私を焼き切るつもりか……!!ぐわぁぁぁっ!!」



上空で異変を察知したフェリシアが、黒馬の下へと行こうと進路を変える。急降下しようとした刹那、ルカの叫び声が聞こえる。



「フェリシア様!!近寄ってはなりません!!──敵が近くにいます!!」



フェリシアは、ルカの鬼気迫る叫びにビクリと身体を強張らせ、白馬を急停止させる。

その間にも服や肉が焦げる音、濃い血の匂いが漂ってくる。



──ジュウウウウッ!!



ルカは、強烈な痛みに顔を歪めながら黒馬の首元へと自らの掌を添える。そして、治癒魔法を展開する。



「ブリーズ・ヒール!」



ルカの掌から緑色の風が広がり、黒馬を包んでいく。それと同時に黒馬の身体に食い込む、黒い網の進行が止まる。ルカの治癒魔法が、黒い網によって生じる傷を瞬時に回復させているようだった。


しかし、治癒魔法は黒馬にしか、かけられていない。未だにルカの身体には、ジワジワと服を焼きながら黒い網が範囲を狭めていた。



──ハラハラ



ルカの黒髪が焼き切られて、黄色い砂の上へと落ちていく。頬や額にも鋭い痛みを感じるが、ルカは黒馬へと魔法をかけ続ける。


黒馬の傷が深くなることはなくなったが、依然として黒い網に絡め取られている状態のため、黒馬は苦しそうにもがき続けている。


自分へ治癒魔法をかけずに黒馬へと魔力を使うルカは、肌の傷だけでなく、焼き切れた服の隙間からも血が出ていた。


遥か昔に、城の裏の森で見た壮絶な光景がフェリシアの脳裏をよぎる。



(このままじゃ、ルカたちが危ない!何か打破する方法を探さなくては──)



フェリシアが黒い線が飛んできた方向──ここからほんの少し先にあるポルト村へと視線を向ける。そこには、無数のナツメヤシが生えた奥に、砂岩が組み立てられた建造物が見える。



(魔法をかけている敵は、どこにいるの!?)



フェリシアは、ポルト村のどこかにいる魔法を発動した人物を、目を凝らして探す。


その最中、ポルト村のすぐ入り口付近にだけ、影が一切存在していないことに気が付く。



(もしかして、影を操る魔法なのかしら……だとしたら!!)



フェリシアは、影のない場所に向けて白馬を急降下させる。護身用の短剣を構えると、影の存在しない一帯の中心へと狙いを定め、勢いよく白馬から飛び降りる。



──カキンッ!



フェリシアの短剣での一撃は、シリルが持つ剣によって防がれてしまった。──が、シリルは突然フェリシアが目の前に飛び込んできたことに驚くよりも、喜んでいるかのような台詞を吐いた。



「ロイズ様。私の目の前にフェリシア様が自ら現れてくださいました」



──今度こそ、絶対に捕らえます。と言うと、シリルはフェリシアへと真っ直ぐに飛び掛かってくる。


フェリシアは素早く横へ飛び退き、すかさず短剣を構えてシリルの脇腹を目掛けて突き立てる。



──キンッ!



フェリシアの一撃は、またもやシリルの剣によって弾かれてしまう。フェリシアは、短剣を握り直し体勢を整えシリルを見据える。


臨戦態勢のフェリシアを見たシリルは、やや間があってから口を開く。



「フェリシア様に怪我をさせることは、許されていないのです。ですから、剣を収めて一緒に来てください」



そう言ったシリルは、何かを思い出したように、ふと動きを止める。その瞬間、彼女の周りに漆黒の影がスッと戻ってきた。どうやら、ルカたちに使用していた魔法が解除されたようだ。


そして、解除した魔法の影を踏みしめながら、フェリシアがいる方へ数歩、歩いた所で立ち止まる──と同時に、急に自らの左腕へと剣を深々と突き刺した。



──ザクッ!!



剣が刺さった場所からドクドクと血が溢れ出す。シリルは無言で剣を引き抜くと、またその傷口へと剣を突き立てる。



──ザクッ!ザクッ!



傷口が抉られ、深くなっていく。剣を突き立てるたびに黄色い砂へと鮮血が飛び散る。

砂の上へと落ちた血は、その場に留まらず砂の中へと赤い染みだけを残して、吸収されていく。


フェリシアは、その狂気の光景を絶句しながら見つめる。


その視線に気が付いたのか、シリルが自らの血が付着した顔をフェリシアへと向ける。



「お待ちください。今、私の手足を貴女様への献上品としてご用意いたしますので」



フェリシアは、目の前の女性の狂気を目の当たりにして、短剣を持つ手がぶるぶると震えるのを感じる。



(自分の手足を献上品に⋯⋯!?側近の命をまるで使い捨てのように──一国の皇太子であるはずのロイズ様は、一体何を考えているの!?)



フェリシアが恐怖で動けなくなっていると、シリル

が何かの気配を感じ視線を上へと向けた。視線はそのままで、瞬時に腕の剣を引き抜くと、頭上から攻撃に備え剣を構える。



──ガツンッ!



白馬がシリルを目掛けて硬い蹄を振り下ろしたが、剣によって防がれてしまう。白馬はまたひらりと空へと駆けると、フェリシアを背後に庇うように、シリルとの間へと降り立つ。



「羽駆馬は始末しても差し支えないでしょう」



だらりと下がったままの左腕から鮮血を流しながら、シリルは右手に剣を握り白馬へと突進していく。


白馬の前まで来て剣を振るが、白馬が展開した風のヴェールに遮られ、その刃は白馬の身体に届くことはなかった。


シリルは、剣を頭上へ振りかざすと魔法を発動する。



「シャドウ・アンカー」



白馬の頭上に出現した無数の黒い針は、風のヴェールを貫通しその影を砂へと縫い留めていく。


影を縫い留められた瞬間、白馬の周りに渦巻いていた風のヴェールは消失してしまう。シリルは動けない白馬を目掛けて、新たな魔法を発動する。



「ノワール・ランサー」



真っ黒な硝子のような鋭利な刃が、シリルの周りに無数に出現したかと思うと、弾丸のような速度で一斉に白馬へ向けて突っ込んでいく。



──ギィィィィィンッッッ!!



白い身体に無数の黒い刃が直撃した白馬は、悲痛な叫び声を上げる。突き刺さった鋭利な刃は、白馬の身体に深い傷を負わし消失していく。


身体中から流血する白馬へと、ゆっくり近付くシリルは右手の剣を握り直す。そして、白馬の急所に狙いを定め止めを刺そうと動く。



「やめて!!」



白馬の前へと身を挺して飛び出して来たフェリシアの首筋に剣が刺さる直前で、シリルはピタリと動きを止めた。



「フェリシア様、選んでください。馬たちもあの衛兵も殺して、貴女を連れ去るか。それとも、私の手足を献上品として受け取り一緒に行くか」



その二択には答えず、フェリシアは自らジリッと一歩を踏み出す。シリルは慌てて剣を引くが、時はすでに遅かった。フェリシアの首筋には薄っすら傷ができ、血が滲み始めていた。



「──私に、傷を付けてはいけなかったのよね?」



フェリシアは、不敵な笑みを浮かべてシリルを見る。目の前のシリルは、表情こそ変えないがどうしたらよいか判断できないようだった。



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