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「──ねぇー。エドガー様?あたしは、いつまでここにいなきゃいけないのー?」
メティスリア城へ、メルドラについての伝令が出発した翌朝。城内でガレスが報告を受けている同時刻の宿屋の一室。
赤髪の少女がベッドへ腰掛けた状態で、足をぶらぶらと揺らしている。その両手首には金色の腕輪、両足首にはどす黒い足輪が装着されている。
その視線の先では、金髪の青年が床へとしゃがみ込み、トランクの中へと部屋の荷物をまとめているところだった。その青年が、ふと手を止めメルドラを振り返る。少女を見る深い青の瞳が、物言いたげに細められたが、結局、彼は何も言わずまた作業を開始した。
「えーー!!なんで、無視するわけ!?──分かった!あたしが『束縛の激しいやばい男』って言ったのを根に持ってるんでしょー?」
メルドラがケタケタと笑いながら、エドガーの様子を窺う。
──カチャリ
小さな金属音が聞こえたかと思うと、エドガーがゆっくりと立ち上がる。振り返った彼の手には銀色の輪っかが握られている。そして、何も言わずにメルドラへと近付いていく。
「⋯⋯な、なによ。何をするつもりなの?」
「あまりにもお喋りが多いのでな。その忙しなく動く口を休ませてやろうかと思ったのだが」
エドガーは、端正な顔に黒い笑顔を貼り付けてメルドラへと詰め寄る。彼の手の中では、銀色の輪が鈍く光っている。
「──ごめんなさい!静かにします!!」
メルドラは、恐怖で引きつった表情でエドガーへと懇願する。
──カチリ
メルドラの懇願も空しく、銀色の輪は少女の首へと装着された。
「いやーーー!!こんな奴隷みたいな扱いされるくらいなら、死んだほうがマシよ!!」
メルドラはベッドへと仰向けに転がり、手足を激しくばたつかせて抗議──しているつもりだが、鈍足の足輪の効果で、少し揺れるくらいにしか動かせない。
「それは、お察しの通り隷属の首輪だ。しかし、お前自身や、私以外の他者が、お前の命を奪うことを禁ずるための物だ」
メルドラは、口では激しく抗議しているが、その動きの遅さのせいで、傍目にはベッドに転がりながら足を優雅に揺らしてリラックスしているように見えてしまう。そんな少女を見て、エドガーはふっと笑ってしまう。
そんなエドガーの様子を見逃さなかったメルドラは、ガバリとベッドから起き上がりエドガーの顔を下から覗き込む。
「エドガー様ぁー??今、あたしを見てバカにしたでしょ??」
「いや⋯⋯バカにしてはいない」
「じゃあ、なんで笑ったのよ!!」
ぷっくりと両頬を膨らませて怒ったように振る舞うメルドラを見て、エドガーは堪えきれず声を上げて笑う。
「ははははっ!!」
「────っ!!」
メルドラはエドガーが破顔するのを見て、一瞬目を見開いて驚いたのち、顔を真っ赤にする。
(⋯⋯なによ、ちょーイケメンじゃない!)
メルドラは、自らの顔が熱いのを自覚して照れ隠しに俯きながら悪態をつく。
「⋯⋯もぅ!!いつまで、笑ってるのよ!束縛男!!」
「──すまなかった!私の知っている人の⋯⋯幼い頃の言動にあまりにもそっくりだったものでな」
エドガーは笑い終えてから、何かを思い出すように遠い目をしてから、メルドラへと視線を戻した。
「昨晩、陛下へお前についての報告を送ったところだ。これから、お前の身柄をメティスリア城へと移送する。そこで、裁判が開かれるのを待つことになる」
「⋯⋯サイバンって何?」
「お前が犯した罪の重さによって、罰が与えられるのだが、その罰の重さを判定する会議のようなものだ」
メルドラは、へー、そうなんだ。と言うと、エドガーへ質問を投げ掛ける。
「メティスリアまでは、エドガー様が付き添ってくれるの?」
「いや、今、転移魔法陣を用意したところだ」
エドガーがトランクを退かすと、そこには小さな魔法陣が淡い紫色に光っていた。彼は、メルドラの腕を掴むと魔法陣へと連れて行く。
「エドガー様は、これから何をするの?」
「⋯⋯私は、もちろんフェリシア様を探しに行く」
「探すって⋯⋯だって、エドガー様から逃げたんでしょ?彼女の想い人が自分じゃなかったら、どうするの?」
エドガーは、メルドラの言葉にビクリと身体を強張らせる。そして、最悪の結末を想像したのか悲しい表情になっていく。それでも、メルドラへの返事にはエドガーの揺るぎない決意が籠もっていた。
「それでも、私は彼女を手放すつもりはない。この腕が、彼女にとって居心地の良いものとなるよう永遠に努力するだけだ」
メルドラは、それを聞いて薄く笑うと、自ら一歩踏み出して魔法陣の上へと立つ。そして、エドガーを振り返ると真剣な表情を見せた。
「一つだけ教えてあげる。愛しのフェリシア様が持っている変化の薬は、私がすり替えた模造品よ。使用する前に止めたほうが良いわ」
──じゃあね!と言うと、メルドラは淡い紫の光に包まれて消えていった。
「──模造品とすり替えただと!?」
彼女の言葉の意図を理解した途端、エドガーは凄まじい焦燥感に駆られた。
(きっと、ルカがフェリシアと合流すれば「認識阻害のポンチョで変装していたことがエドガー様にバレた」と報告するだろう。そうなれば、ポンチョではなく変化の薬を使用する可能性が高くなる。)
そこまで考えてから、エドガーは悩み始める。
(私が追い掛けるから逃げるのだとすれば、私ではない者が追い掛けたほうが安全なのでは⋯⋯?)
エドガーが頭を抱えて本気で悩んでいる頃、あっという間にメティスリアの王城へと転移したメルドラは、大きな熊男と、王冠を被った偉そうな男(メルドラ目線)に睨まれていた。
「おじさんたち、こわーい」
メルドラは抑揚の無い声で言ったが、当人たちへのダメージは大きかったようだ。
この少女に聞きたいことは山ほどあったはずが、ゼノの口を突いて出た言葉は一つだけだった。
「⋯⋯そんなに老けて見えるのか?」




