信頼
恐る恐る「保存食の館」の中へと入ったフェリシアとルカだったが、外見の派手さとは真逆で木の温もりが感じられる質素な作りだった。
「いらっしゃいませ!何か、お探しですか?」
誰かが入店した気配を感じたのか、エプロン姿の青年が、カウンターの向こうから明るく声を掛けてくる。
「美味しく食べられる、保存食が欲しいのだけれど」
フェリシアが不安そうに訊ねる。ルカは、少し離れた場所で棚に並んでいる商品を手に取っては、疑心暗鬼な表情をしていた。
「当店で扱う保存食は、どれも鮮度を保ったまま保存してあるので、美味しいですよ!」
青年は自信満々にそう答えると、カウンターの内側からこちら側へ出て来る。そして、「当店の人気ランキング」と書かれた張り紙のある棚から、三つ取り出してきた。
「当店の人気第三位の、豚肉のパン粉揚げです。ジューシーな味わいが、そのまま保存されているボリューミーな商品です」
1cmほどの厚さのトン豚の肉が、パン粉を纏ってこんがりきつね色に揚げられたものが、何枚かまとめて薄い膜に包まれている。
「これは、美味しそうね!」
フェリシアは、興味津々で青年の説明を聞く。その様子に気を良くした青年は、さらに二位と一位の商品も説明を始める。
「続いて、当店の人気第二位は、こちらの『果実のパウンドケーキ』です! じっくりと蜜に漬け込んだ洋梨やベリーを練り込んで焼き上げてあります。魔道具の膜で密封してあるので、何ヶ月経っても、まるで焼き立てのようにしっとりとした贅沢な甘さが楽しめますよ!」
青年が次に棚から取り出したのは、ずっしりと重みのある長方形のケーキだった。
薄い透明な膜の向こうで、琥珀色の生地のあちこちから、宝石のように色鮮やかなドライフルーツが顔を覗かせている。ほんのりと甘く芳醇な香りが、膜を透過してこちらの鼻腔をくすぐるようだった。
「わぁ……美味しそう! 旅の途中で、こんなに贅沢な甘いものが食べられたら、それだけで疲れが吹き飛んでしまいそうだわ」
フェリシアの瞳が、少女らしい純粋なきらめきを取り戻してケーキに釘付けになる。その様子を横目で見ていたルカの表情からも、先ほどまでの疑心暗鬼な硬さが、少しだけ和らいだように見えた。
「人気第一位は、果物を丸ごと保存したこちら!収穫したての果物を瑞々しいままで保存してあるので、数ヶ月先までもぎたての果物の食感や果汁を楽しめます!」
色とりどりの果物が、一つずつ薄い膜に包まれて陳列されている様は、見ているだけで幸せな気持ちにさせる。
「オズさんが、オススメしたのも頷けるわ!素晴らしい品揃えと品質ね!」
フェリシアは、少し悩んでからパウンドケーキと食べやすい大きさの果物を数種類、手に取る。
「これをいただけるかしら?」
商品を渡された青年は手際良く紙袋へと詰めていく。おまけに保存食の紅茶クッキーも同封してくれた。
「セレーネ、私が払うよ。私も少しなら持ってきているから」
ルカの言葉に──ありがとう、と応えたフェリシアは紙袋を持って一歩下がる。
「ありがとうございました!またのお越しをお待ちしております!」
青年の明るい声に見送られ、二人は店を後にする。
薄暗い場所から見上げた空には、無数の星が輝いていた。
「明日も晴れそうね。あ、そうだ。ルカ、ちょっと待っていてくれる?」
フェリシアは、紙袋をルカへと渡すと右掌を上へ向けて魔法を詠唱する。
──パルス・コンパス
フェリシアの掌の上に現れた、赤々と燃える矢印は西を指していた。
(フェリシア様の愛する人が、西にいる)
ルカは、この魔法の発動条件を知っていた。知っているからこそ、胸がチクリと痛むのを感じる。
「まだ西を指している⋯⋯つまり魔物の巣窟の手前にあるポルト村かしら」
「⋯⋯ポルト村だと、ここから少し距離がありますよね。移動は、どうしますか?」
フェリシアが、どうやって移動するかを考えている間に、矢印はフワリと消失した。その光の残像を見つめていた瞳が、ふと思い立ったように前へと向けられる。
「──そういえば、オズさんのお店に馬呼びの笛があったわよね。ディルムントの周りには、羽駆馬がよく出没していたはず。手懐けて、一気に駆け抜けられれば⋯⋯!」
羽駆馬は、見た目は美しい白馬だが、足首の周りに小さな羽のような柔らかな毛がフサフサと生えている魔物だ。
性格は非常に温厚で人懐っこく、走る時に風の魔力を身に纏うため、足音がほとんどしない。
さらに、少しの段差や崖ならフワリと滑空するように飛び越えられるため、逃避行の長距離移動にはうってつけの移動手段だった。
「ですが、馬呼びの笛は羽駆馬だけではなく、馬の魔物なら種類を問わず呼び寄せてしまいます。少し、危険な気もしますが⋯⋯」
フェリシアを危険に晒すことは避けたいという、ルカの心情がその言葉から感じ取れる。
「もし危ない目に遭っても、貴方が私を守ってくれるのでしょう?」
フェリシアがいたずらな笑顔を浮かべて、ルカを見る。
「⋯⋯まったく、命が幾つあっても足りないですよ」
ルカは、溜息混じりにそう言ったが、でも頼られたことが嬉しいようで口角が少し上がっている。
「そういえば、あなたは何歳なの?私は18歳なんだけど……なんとなく、歳が近いかなって感じているのよね」
「私は、19歳です。だから、一つ上ですね」
「やっぱり!ほぼ同い年みたいなものね!」
フェリシアは、ルカが紙袋を持つ手に自らの手を重ね、強く握る。
「いつになるか分からないけど、必ず無事に帰りましょうね!」
ルカの瞳に映るフェリシアは、茶色の髪と瞳でも、その美貌や芯の強さが霞むことはなかった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
フェリシアとルカの逃避行は、うまく進むのか!
エドガーとフェリシアの関係はどうなっていくのか!?
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