裏通り
フードを深く被った影が二つ並び、街外れの路地を進んでいく。街の中心部は、様々な店が所狭しとあるせいか、魔道具の灯りで煌々と照らされていた。しかし、裏通りに行くにつれて住宅が増え、魔道具の灯りが減ってきた。そして、目指す店が近付くにつれ薄暗い場所が多くなり、人通りもまばらになっていく。
「フェリシア様。この角を曲がった先に、保存食の店が見えてくるはずです!」
「美味しそうな食べ物があると良いわね」
親しげに言葉を交わしながら、ルカが角を曲がる。そのすぐ後について、フェリシアも角を曲がった。
──ドンッ!
「きゃっ!」
フェリシアは突然の衝撃で、後ろへ弾かれるように尻もちを付いてしまう。その拍子に、ポケットから小瓶が転がり落ちる。
「大丈夫!?」
ルカが駆け寄るよりも早く、フェリシアの側にいた人物がフェリシアへと手を伸ばす。
見上げると、薄暗い中でもはっきりと見える、燃えるような赤髪が揺れていた。
「考え事をしながら歩いていたら、あなたにぶつかってしまったみたい⋯⋯ケガはない?」
フェリシアと同じ年齢くらいの少女が、申し訳なさそうな顔でこちらを見つめている。
「⋯⋯えぇ、大丈夫よ。ありがとう」
フェリシアは、その少女の手を取るとゆっくり立ち上がる。慌ててフェリシアの真横へやって来たルカも、心配そうに身体を支える。
「大丈夫ですか!?」
「尻もちをついたくらいだから、問題ないわ」
フェリシアが服についた汚れを手で払っていると、──これは、あなたのかしら?と、赤髪の少女が小瓶を差し出してきた。
「ガラス製の小瓶が割れなくて、本当に良かった。ぶっかってしまって、本当にごめんね」
「いえ、あなたこそケガはない?」
フェリシアが小瓶を受け取りながら聞くと、少女はその場でくるりと回って見せた。
「ほら!この通り、全然大丈夫!」
少女は、口元から八重歯を覗かせながらニッコリと笑って見せた。その髪色に負けないくらい、明るく印象的な笑顔だった。
「さてと、あたしはもう行くね!」
少女は、フェリシアたちに向けて、ばいばーい!と手を振ると、足早に中心部へ向かって去っていった。
「不思議な人だったわね」
赤髪の少女が消えていった方向を見ながら、フェリシアが呟く。拾ってもらった小瓶を眺めるが、ひびなども入っていないようだった。
「私が角を曲がる時には、確実にいなかったのですが⋯⋯フェリシア様の悲鳴が聞こえて振り返ったら、あの方がいたので驚きました。一体、どこから現れたのか」
ルカもフェリシアと同じ薄暗い道の先を見つめながら、不思議そうに首を傾げた。
「何かの魔道具を使用していた可能性もあるし、危害を加えられたわけではないから。私達も、お店へ向かいましょう」
フェリシアに促され、ルカも歩き始める。角を曲がった先には「保存食の館」と書かれた看板が掲げられた店が見える。看板には、色取り取りに光る魔道具の灯りが取り付けられており、薄暗い中でもとてもよく目を引いていた。
「なかなかに派手なお店ね」
「そうですね。ちょっと不安になるくらい、華美な装飾ですね」
二人は躊躇いながらも、オズさん推薦のお店だから大丈夫だろう、と店内へ吸い込まれるように入っていった。
赤と黒を基調とした、豪華な装飾が施された食堂にある、大理石のテーブルで二人の人物が食事をしている。一人は、傍らに白く光る板を置いている。
「⋯⋯ザザッ⋯⋯⋯これは、あなたの⋯⋯ザザザザッ⋯⋯ケガはない?⋯⋯ザザッ」
板からは、絶えず音声が流れている。その音声を聞きながら、ピンクの瞳が嬉しそうに細められた。
「アンナ。君のお姉さんへの僕からのプレゼントが、ちゃんと届いたようだよ」
ロイズの言葉に、洗練されたテーブルマナーで食事を勧めていたアンナが、ハッと顔を上げる。
──カチャンッ
「つまり、エドガー様からの呪縛を逃れたお姉様が、私たちの元へと来てくれる日が、近付いたということですね!」
アンナは喜びのあまり、カトラリーが音を立ててテーブルへと落ちたことにも、気が付かないようだった。
「そうだね。後はフェリシア様が“アレ”を使用してくれるだけで良いんだ。──二人の輝かしい未来に、乾杯」
「乾杯!!」
ロイズとアンナが、グラスを掲げ喜びを分かち合う。そして、上機嫌で食事を再開した。
──バァァァン!
「ロイズ様!ただいま戻りました!」
赤髪のツインテールを揺らしながら、少女が食堂へと姿を現した。食堂の灯りに照らされた少女は、無駄のない均整の取れた体躯に、まるで吸い付いているかのような服を纏っている。
「メルドラ。今回は、見事な働きだったな。後で褒美を贈ろう」
「ありがとうございます!それにしても、フェリシア様⋯でしたか?女の私でも目を奪われるほどの美女でした!!」
興奮気味のメルドラに、アンナが満足そうな顔を向ける。
「そうでしょう!?私のお姉様は、誰よりも高貴で美しいのですっ!この国には、お姉様の魅力を分かってくれる人がたくさんいて、アンナは嬉しいですっ!」
二人の少女が、キャッキャッと騒ぐのを横目に、ロイズは傍らの板を愛おしそうに撫でる。
(あぁ、早くその美しい輝きを、僕の黒へと染めさせてくれないだろうか。)




