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【本編完結】白銀の王女と黄金の騎士─婚約者が私を殺しに追ってくる─  作者: Piko-Lele
第二章 闇夜の逃避行

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急接近


魔道具店の店主は、オズワルドという名前だという。第一印象そのままで、とても気さくで心優しい人物だった。二人は親しみを込めて「オズさん」と呼ぶことにしたのだった。


二人がフードを脱いで素顔を晒しても、魔物との戦闘で薄汚れた顔だからか、それとも王族の参加する式典などを見たことがないのか、メティスリアのフェリシアだとバレる事はなかった。


オズワルドに盛大な勘違いをされた二人は、何故か駆け落ちを応援される形となっていた。店の手伝いをする代わりに、空いている部屋へ無償で泊まらせてくれることになった。



「⋯⋯わしも、若い頃に愛してやまない女性がいたんだがな。その人には、婚約者がいたんだ。それでも、お互いに気持ちを伝え合って、いつか一緒になることを夢見ていたんだよ。⋯⋯あの頃のわしに、勇気があったらな」



店主は若い頃を思い返すように、遠い目をしていた。思い出に浸った後、スッと真剣な眼差しをルカへと向けた。



「いいか、アレクシス。何があっても、セレーネの手を離したら、絶対にダメだぞ。」



「⋯⋯はい。私は、彼女を命に代えても守り抜くことを誓っているので、大丈夫です!」



男二人、熱い想いが通じ合ったのか、ガシッと抱き合っている。



「オズさん。私達、そんな事情だから変化の薬を探しにこの街へ来たのだけど、ここに置いてあるかしら?」



フェリシアが、この街へと訪れた目的を伝える。

すると、オズさんは──そうだな、セレーネは少し目立ちすぎるな。と頷くと、店の方へと歩いて行った。



「これが、変化の薬だ。最近、闇市や裏通りで粗悪品が出回っているらしいが、わしの店で取り扱っているのが正規品だ」



そう言って、テーブルの上に置かれたのは、小さな透明の瓶だった。中身は瓶と同じく無色透明で、水のようだった。



それとは別に、新しいフード付きポンチョがテーブルに置かれる。フードの縁には金の刺繍が施され、一級品だということが見ただけで分かる。



「このポンチョは、認識阻害の魔法が込められた金糸が使用されているのだが、簡単な変装で良いならこっちがオススメだ」



フェリシアは、悩んだようにルカを見る。



「セレーネ、何があるか分からないから両方買おう」



その言葉にフェリシアはコクリと頷き、ポケットから小型化したトランクを取り出す。その小さなボタンに触れるとあっという間に、元の大きさのトランクに戻る。



(これまた、高級な魔道具だな⋯⋯相当に高貴な身分のご令嬢だとしか考えられんな。)



オズワルドは目を見張りながら、フェリシアの動きを見つめる。



「オズさん、これで足りるかしら?」



フェリシアがトランクから取り出したのは、一着のドレスだった。


絹の青い生地に、細部まで拘った繊細な金糸の刺繍が施されているだけではなく、全体には小さなダイヤモンドが、これでもかと散りばめられている。どこから見ても、ダイヤモンドが光を反射して、キラキラと神秘的な輝きを放っていた。



「なんと⋯⋯こんな上等なドレス、見たことがない」



オズワルドが目を丸くして、驚きを隠せないでいると、フェリシアが口を開いた。



「もしかしたら、私たちを探して誰かがやってくるかもしれないの。でも、その時には知らないと答えてほしい。このドレスの価値には、その口止め料も入っているわ」



フェリシアは真っ直ぐにオズワルドを見つめる。紫水晶の瞳には、成し遂げなければならない何かへの、強い気持ちを映しているようだった。



「⋯⋯分かった。これは、預かっておくよ。いつか、二人が堂々と表を歩けるようになった時、またここへおいで」



オズワルドは、やはり全てを理解した表情で、二人を包み込むような優しさを見せてくれる。



「さぁ!まずは、二人とも荷台から荷物を降ろすのを手伝ってくれ!」



オズワルドの言葉に、二人は元気よく椅子から立ち上がる。フェリシアは早速、ボロボロのフードを脱ぎ捨てると、認識阻害のポンチョを身に着けた。




「⋯⋯魔道具って、こんなにすごいのか⋯⋯」



ルカが驚いたように、フェリシアを見つめる。

そこには、どこにでもいる茶髪を肩まで伸ばした、これまた、よくあるブラウンの瞳の少女が立っていた。



「⋯⋯よいしょっと」



フェリシアが、荷台の中から荷物を持ち上げ、外で待っているルカへと手渡す。

軽々と受け取ったルカは、それを店の中へと運んでいく。


何度かこのやり取りを繰り返した時、視界の端にキラキラと輝く何かが見えた。



(何がこんなに眩しく光っているの──。)



フェリシアが見つめる先には、黄金に輝く髪をなびかせて歩くエドガーがいた。


フェリシアの心臓が緊張でギュッと縮む。



(この距離で、下手に隠れたりしたら絶対に怪しまれる──!!)



フェリシアは、ふっ、と短く息を吐き魔道具店の店員になりきることにした。

エドガーから視線を逸らし、荷台の荷物を運び出しやすいように、奥から手前へと移動して整理をする。


しばらく、整理を続けたところでふと顔を上げると、荷台の目の前にエドガーが立っていた。



「────っ!!」



フェリシアは、驚きすぎて声も出ず、ただ茶色の瞳を大きく開く。



──ガシャンッ!!



驚きで手元が狂ったフェリシアは、小瓶の入った箱を落としてしまう。

その音を聞き付けたルカが店の中から、慌ててやって来る──が、エドガーの姿を見つけると、素早く店の入口の扉の影へと身を隠した。



(エドガー様⋯⋯まさか認識阻害の魔法を見破れるのか!?)



ルカが、どうしようかとオロオロしていると、その様子に何かを察知したオズワルドが、ルカの肩に手をポンと置き、ゆったりとした足取りで店の外へと歩み出た。



「こんにちは、騎士様。何か、魔道具をお探しですか?」



「⋯⋯あぁ、変化の薬を探している」



エドガーは、オズワルドから話し掛けられているはずなのだが、何故か茶髪の少女の方を向いたまま答える。



(嘘でしょ!ここでバレたら、お兄様を探しに行けない──!!)



焦るフェリシアに、至って冷静にオズワルドが声を掛ける。



「セレーネ、店の中から変化の薬を持って来てくれるかい?」


「⋯⋯はい。今、お持ちします」



フェリシアは、オズワルドの声に弾かれたように馬車の荷台から降りようとする。



「⋯⋯きゃっ!」



荷台から降りるために、エドガーの直ぐ側で身を屈めた時、エドガーが急にフェリシアへと腕を伸ばした。



──フワッ



エドガーは何も言わず、少女を優しく抱き上げると、壊れ物を扱うようにそっと地面へと降ろす。そして、目の前の少女の正体には気が付いていないのか、すぐにフェリシアの身体から手を離した。



「お嬢さん、こんなところから飛び降りたら、怪我をするかもしれない。気を付けるんだ」



エドガーの優しい甘い声が、フェリシアの耳に届く。彼の手が離れてから、吸い込まれるようにフェリシアはエドガーを見上げた。



大好きなエドガーの美しい顔。

大切な物を扱うようにそっと触れる感触。

私を見つめる温かい眼差し。

そこには、昔から変わらない誰よりも騎士らしいエドガーがいた。



(──でも、今の彼を完全に信じることができない──。)



フェリシアは、何も言わずエドガーにペコリと深くお辞儀をすると、店内へ駆け込んだ。



「⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯」



駆け込んだ先で、ルカが心配そうに近寄って来る。

フードの下でさらに俯くフェリシアの顔を覗き込んだルカは、息を呑んだ。


今は茶色になっているフェリシアの瞳は、涙を限界まで溜めていた。

溢れそうになる想いを押し留めて、零れ落ちないようにと必死に耐えるフェリシアの姿は、ルカの胸を激しく揺さぶるのであった。



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