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奪ってしまえ!  作者: 松原水仙
第六章

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29.潰れた陰謀

イスラン王太子殿下とライト・ウィリアムとの定期会談に、私も同席した。イスランの後ろで向かい合って座る二人を眺める。

葵の予想通り、葵は元の世界に戻った。


今、私の目の前にいるのは本物のライト・ウィリアム。サンドラを殺し、トニーを殺人鬼に仕立て上げた張本人だ。


白を基調に緑の装飾が施された部屋で、暖炉の薪が爆ぜた。


「よく来てくれたね、ライト。最近はしょっちゅう合っていたから特別話し合うこともないし、今日は雑談でもして友好を深めようじゃないか」

「殿下のためなら、いつだって参りますよ」


空々しい言葉を吐きながら、紅茶に手を付けるその姿を私は睨みつけた。

今日、これよりお前を潰す。


イスランが穏やかに声を掛ける。彼にもライトのことは既に話している。


「美味しいかい?」

「ええ、とても。ベリーのような香りが鼻から抜けて、ほのかな甘みもある」

「ところでパール嬢の体調はどうだい?」

「彼女は実家で出産したいと言うのでブライト家に戻りました。やはり来たばかりの我が家より落ち着くのでしょう。寂しいですが彼女の精神の安定が一番なので」

「そうか。では無事に産まれてくるのを待とう。ワインを用意している」


イスランが呼び鈴を鳴らすと、すぐに執事がワインを持ってきた。イスランがグラスに注がれたワインに問題がないことを確認すると、執事は静かに姿を消した。


イスランがワイングラスを持ちあげる。


「さあ、乾杯しよう。我々で創るこの国の将来に」


ライトもグラスを掲げ、天へと腕を伸ばした。まるで群衆を導く王のような姿だ。

せいぜい今のうちに勝利に酔うといい。

私はサイドテーブルの上にある木箱を確認した。これこそ、奴を地獄へ突き落す魔道具だ。


「君たち二人の子どもなら将来有望だね。今から楽しみだ」

「ありがとうございます。これから増々殿下の御力になれるよう尽力して参ります」

「堅苦しいな。君の忠誠心は十分伝わっているよ」


ライトは人当たりの良い笑みを貼りつけ、頷く。


「良かったです。ところで、殿下。連続殺人の件ですが、なぜ教会を罰しないのです?」

「なぜとは?」

「あれだけの事件の、そもそもの原因は教会の不祥事にあるのですよ。処罰がないなんて、国民感情を考えてもおかしいです!」

「不思議なことを言うね。結婚式を挙げた教会で不祥事があっては困るといったのは、君じゃないか」


初耳だというように、ライトが目を見開いた。二の句が継げなくなっている。

私は目を細めた。


彼が教会を潰したいと思っているのは間違いない。教会が同性愛を禁じているからだ。

トニーを操って連続殺人を犯させ、サンドラを極秘に抹殺し、同時に教会にも痛手を与える計画だったのだろう。


結果として、教会は何の痛手も被らなかった。葵が先手を打ったからだ。


イスランが私に目配せをした。

サイドテーブルにあった木箱を、奴の前に置く。赤茶けたアンティークの木箱は上部に蔓の柄が丁寧に彫られている。王家の重要書類を保管するための箱だ。


私は鍵穴に鍵を差し込み、蓋を上に持ち上げた。二枚貝のように口を開けた箱の中には、赤いリボンがついた書類が一枚、大切そうに仕舞われている。


私は白手袋をした手でリボンを解き、イスランに書類を手渡した。

場の緊張感が肌で分かるほどに増していた。


悠然と構えた振りでライトが問うも、警戒心が伝わってくる。


「そちらは?」

「先日、君たちがサインしてくれた契約書だ」


顔色が変わったことを私は見逃さなかった。

無理もない。この書類を書いたのは葵なのだから。


「拝見しても?」

「構わないが、既に王印が押してある。取り扱いには気を付けてくれ」


王印と聞き、奴が顔を引きつらせた。恐々とした様子で書類を受け取っている。

目を通した瞬間、面白いほどに血の気を引かせた。元々白い顔が、真っ青に変わる。


「君たちの子どもを王位から外すという契約書だ。これにより何があっても、君たち二人の子が王になることはない。貴族たちの計略に我が子を巻き込みたくないという、君たちの深い愛情を感じたよ。同時に私への忠誠心にも感謝する」


契約書には、葵とパールのサインがある。

これでお前は摂政になることはできない。


握り潰される前に、私は契約書を取り上げた。


「大切な契約書だ」

「……し、しかし、その契約書のサインは私とパールのものです」


往生際の悪い男だ。だが、そうくると思っていた。


彼はプレゼンをするように、私たちの顔を見ながらいう。


「領主である私の両親が異を唱えれば、その契約は無効になるかと」

「心配ない」


私は刺すように、声を発した。


「心配ないとは? 私の両親はあの性格です。こんな契約を認めるはずがない!」


声を荒げた彼に、私は非情に言い放った。


「君の両親も賛成してくれた。安心するといい」

「え…………」


呆然と私を見上げた彼は、言葉を失っている。


私は胸元から書類を取り出した。

彼に渡す。

それは領主である彼の両親がサインした同内容の契約書だった。


「捏造だ」


彼のやっとの声は掠れていた。諦め悪く、主張する。


「あの両親がこんな利のない契約にサインするなんて考えられない! 認められません」

「王家が偽造したとでも?」


イスランに問われ、ライトがハッとなる。


「い、いえ。しかし両親がサインするとは、とても」

「彼らはあっさりサインした。これを見せたらな」


私は書類の束をテーブルに置いた。それはウィリアム家がこれまで行っていた不正の証拠が揃っている。

彼はすぐに内容を理解したようだった。


「これ……」

「ライト卿。君が提出してくれた書類だ。この証拠のおかげで彼らはすぐにサインに応じた。ご苦労だった」


それは葵が提出した、屋敷内で極秘に仕舞われていた書類たちだ。

私の言葉は彼にとっては死刑宣告に等しいだろう。二度と王家に逆らえなくなったのだ。


「ハハッ。ハハハハハハハッ……」


彼は狂ったように笑い出し、体を揺すりながら顔を手で押さえた。

私はそれを眺める。


安心するといい。

一応ウィリアム家は王族派だ。潰れるとこちらも困る。

生かさず殺さず、一生飼い殺しにしてやる。


パールを侮辱した罪を、生涯をかけて償うがいい。


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