↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奪ってしまえ!  作者: 松原水仙
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/32

24.犯人

「まさか、お前が犯人とはな」


王城の地下にある尋問室には、重苦しい空気が充満している。グリーンを尋問した時とは非にならないほど、肌がひりつく。

私は犯人と向き合った。


「トニー」


私が名を呼ぶと、トニーはいつもの無邪気な顔で、私たちを順に見やった。耳元のチェーンがトニーに合わせて可笑しそうに揺れる。

私の後ろには、団長のグリーンと副団長のオルセンが控えている。腰には剣を付けており物々しい。


犯人が騎士だということが分かり、出勤記録から全ての事件で犯行可能な人間を絞り込んだところ、グリーン率いるこの隊に犯人がいることが分かった。


私が睨むと、トニーが拗ねたようにそっぽを向く。


「何で俺? グリーン団長やオルセン副団長でも犯行は可能なのに」


トニーが後ろの二人を指さした。

私は彼らには目を向けず、その質問に答える。


「この二人には無理だ。グリーン団長は身長百九十センチ。暗闇で会えば被害者だって逃げ出しただろう。それに落書き事件のあった夜、グリーンは墓参りのために帰省していたことが確認できた。夜遅くまで父親と飲んでいたと、近くの料理屋の店主が証言している。」

「じゃあ、オルセン副団長は?」

「彼にも無理だ」

「副団長もアリバイあり?」

「いいや。彼にはアリバイはない」

「じゃあ」

「しかし、彼には無理だ。被害者は全員、何の警戒心も抱かず正面から刺されている。オルセン副団長を見て見ろ」


トニーがオルセンを見上げた。本人は意識していなくても、鋭い目つきに加えて威圧するようなオーラが漂っている。


「ハッ。なるほど」


ククク、とトニーが笑い出した。

私は彼が笑い終わるのを待たず、尋問を開始する。


「オルセン副団長の鋭い目つきを見て警戒しない人間はいない。ましてや夜に二人きりだ。正面に立たれると逃げ腰になるだろう。その点、君は違う。友好的で人の懐に入るのが上手い。被害者も簡単に警戒を解いただろうな」

「まあね。暗がりでも簡単について来たよ」


トニーが自慢げに頬を持ち上げる。

自白とも取れる発言にグリーンが我慢できず口を挟んだ。


「なぜだ? 騎士たる者、命を守るのが仕事だろう」

「だって娼婦だよ? ただの社会のゴミじゃん。事件を怖がる人は多いけど、被害者に同情する人の声って聞いたことある?」

「トニー!」


グリーンが声を張り上げた。自信が疑われた時でさえ落ち着いていたのに、今は剣を握りそうなほど憤っている。


「どうして怒るの? 神の意志に反するって司祭もあんなに言ってたのに」

「司祭様は彼女たちも救われるべきだと仰ったんだ」

「なぜ神があんな女どもを救わなきゃいけない!」


私は指でコツコツと机を弾き、二人の会話を止める。


「教会への手紙や落書きも?」

「そうだよ。教会は潰れるべきだ。神の意志を伝える義務を怠り、権威を盾にやりたい放題。ありえないよ」


トニーが親指の爪を噛む。

彼の教会への恨みは相当なものだ。しかし調べてみると彼は二年前まで熱心な信者だったという。ともに遠征に行った騎士によると、聖典を常に持ち歩き、寝る前には必ず祈りを捧げていたらしい。


「二年前に何があった?」


トニーは指を口から離し、打って変わって惚けた顔で顔を上げた。


「天使に会ったんだ」

「天使?」

「そう。あんなに美しい存在は見たことがない。穏やかで神々しくて、声まで澄み切っていた。その天使が言うんだよ、教会が腐敗しているって。調べてみると、聖イニフィス教会の関係者は教会の金を横領し、売春や賭博、阿片にまで手を出していた。許せない。神のために使われるべきお金なのに」


また爪を噛み始めた。苛立った時の癖なのだろう。

吊り上がった目が、いつもの彼の人懐こさを消している。


「天使はどんな姿だった?」

「それは言えない。天使のことは言っちゃ駄目なんだ。俺が特別だから俺にだけ姿を見せてくれたって」

「男か、女か?」

「知らないの? 天使に性別はないんだよ」


トニーはそれ以降、天使については発言を避け続けた。

特別という言葉はそれだけ彼に甘美な優越感を与えたようだ。

私は天使については諦め、別の角度から攻めることにした。


「教会が憎いなら教会の人間をターゲットにすればいいだろう」

「教会はあくまで加害者だ。事件のせいで被害者面されたら虫唾が走る。罪と向き合って一生神に詫び続ろ」

「娼婦を狙った理由は何だ?」

「彼女たちは存在自体が罪だ。快楽を装って人を堕落へと追いやる悪魔たち。教会の罪を暴く犠牲としては、うってつけだろ」


背後でグリーンの殺気を感じるが、彼はもうトニーと会話をする気はないようだった。飲み込んだ言葉の数だけ空気が重い。

私はグリーンの代わりに質問した。


「罪を暴くとは?」

「世間は事件に注目している。皆、事件の真相に興味津々だ。この状況で教会の腐敗を大々的に告発すれば、一気に教会に批判が集中するだろう。俺は神に選ばれた改革の使者だ」

「ご満悦のところ悪いが、お前は死刑になる」

「それが何? 改革に犠牲は付き物だ。俺は喜んで神の元へいく」


トニーの表情は達成感で溢れている。

私は嫌悪感と憐れみが混同した目で彼を見ながら、立ち上がった。


「お前はただの殺人鬼だ」


私の言葉も、妄想に憑りつかれた彼には届かなかった。自分は神に選ばれた特別な存在で、人々にとっての英雄であるという自惚れに満ちた確信が、トニーの表情からは見て取れた。


これからトニーは裁判にかけられ、そう遠くないうちに死刑になるだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。