24.犯人
「まさか、お前が犯人とはな」
王城の地下にある尋問室には、重苦しい空気が充満している。グリーンを尋問した時とは非にならないほど、肌がひりつく。
私は犯人と向き合った。
「トニー」
私が名を呼ぶと、トニーはいつもの無邪気な顔で、私たちを順に見やった。耳元のチェーンがトニーに合わせて可笑しそうに揺れる。
私の後ろには、団長のグリーンと副団長のオルセンが控えている。腰には剣を付けており物々しい。
犯人が騎士だということが分かり、出勤記録から全ての事件で犯行可能な人間を絞り込んだところ、グリーン率いるこの隊に犯人がいることが分かった。
私が睨むと、トニーが拗ねたようにそっぽを向く。
「何で俺? グリーン団長やオルセン副団長でも犯行は可能なのに」
トニーが後ろの二人を指さした。
私は彼らには目を向けず、その質問に答える。
「この二人には無理だ。グリーン団長は身長百九十センチ。暗闇で会えば被害者だって逃げ出しただろう。それに落書き事件のあった夜、グリーンは墓参りのために帰省していたことが確認できた。夜遅くまで父親と飲んでいたと、近くの料理屋の店主が証言している。」
「じゃあ、オルセン副団長は?」
「彼にも無理だ」
「副団長もアリバイあり?」
「いいや。彼にはアリバイはない」
「じゃあ」
「しかし、彼には無理だ。被害者は全員、何の警戒心も抱かず正面から刺されている。オルセン副団長を見て見ろ」
トニーがオルセンを見上げた。本人は意識していなくても、鋭い目つきに加えて威圧するようなオーラが漂っている。
「ハッ。なるほど」
ククク、とトニーが笑い出した。
私は彼が笑い終わるのを待たず、尋問を開始する。
「オルセン副団長の鋭い目つきを見て警戒しない人間はいない。ましてや夜に二人きりだ。正面に立たれると逃げ腰になるだろう。その点、君は違う。友好的で人の懐に入るのが上手い。被害者も簡単に警戒を解いただろうな」
「まあね。暗がりでも簡単について来たよ」
トニーが自慢げに頬を持ち上げる。
自白とも取れる発言にグリーンが我慢できず口を挟んだ。
「なぜだ? 騎士たる者、命を守るのが仕事だろう」
「だって娼婦だよ? ただの社会のゴミじゃん。事件を怖がる人は多いけど、被害者に同情する人の声って聞いたことある?」
「トニー!」
グリーンが声を張り上げた。自信が疑われた時でさえ落ち着いていたのに、今は剣を握りそうなほど憤っている。
「どうして怒るの? 神の意志に反するって司祭もあんなに言ってたのに」
「司祭様は彼女たちも救われるべきだと仰ったんだ」
「なぜ神があんな女どもを救わなきゃいけない!」
私は指でコツコツと机を弾き、二人の会話を止める。
「教会への手紙や落書きも?」
「そうだよ。教会は潰れるべきだ。神の意志を伝える義務を怠り、権威を盾にやりたい放題。ありえないよ」
トニーが親指の爪を噛む。
彼の教会への恨みは相当なものだ。しかし調べてみると彼は二年前まで熱心な信者だったという。ともに遠征に行った騎士によると、聖典を常に持ち歩き、寝る前には必ず祈りを捧げていたらしい。
「二年前に何があった?」
トニーは指を口から離し、打って変わって惚けた顔で顔を上げた。
「天使に会ったんだ」
「天使?」
「そう。あんなに美しい存在は見たことがない。穏やかで神々しくて、声まで澄み切っていた。その天使が言うんだよ、教会が腐敗しているって。調べてみると、聖イニフィス教会の関係者は教会の金を横領し、売春や賭博、阿片にまで手を出していた。許せない。神のために使われるべきお金なのに」
また爪を噛み始めた。苛立った時の癖なのだろう。
吊り上がった目が、いつもの彼の人懐こさを消している。
「天使はどんな姿だった?」
「それは言えない。天使のことは言っちゃ駄目なんだ。俺が特別だから俺にだけ姿を見せてくれたって」
「男か、女か?」
「知らないの? 天使に性別はないんだよ」
トニーはそれ以降、天使については発言を避け続けた。
特別という言葉はそれだけ彼に甘美な優越感を与えたようだ。
私は天使については諦め、別の角度から攻めることにした。
「教会が憎いなら教会の人間をターゲットにすればいいだろう」
「教会はあくまで加害者だ。事件のせいで被害者面されたら虫唾が走る。罪と向き合って一生神に詫び続ろ」
「娼婦を狙った理由は何だ?」
「彼女たちは存在自体が罪だ。快楽を装って人を堕落へと追いやる悪魔たち。教会の罪を暴く犠牲としては、うってつけだろ」
背後でグリーンの殺気を感じるが、彼はもうトニーと会話をする気はないようだった。飲み込んだ言葉の数だけ空気が重い。
私はグリーンの代わりに質問した。
「罪を暴くとは?」
「世間は事件に注目している。皆、事件の真相に興味津々だ。この状況で教会の腐敗を大々的に告発すれば、一気に教会に批判が集中するだろう。俺は神に選ばれた改革の使者だ」
「ご満悦のところ悪いが、お前は死刑になる」
「それが何? 改革に犠牲は付き物だ。俺は喜んで神の元へいく」
トニーの表情は達成感で溢れている。
私は嫌悪感と憐れみが混同した目で彼を見ながら、立ち上がった。
「お前はただの殺人鬼だ」
私の言葉も、妄想に憑りつかれた彼には届かなかった。自分は神に選ばれた特別な存在で、人々にとっての英雄であるという自惚れに満ちた確信が、トニーの表情からは見て取れた。
これからトニーは裁判にかけられ、そう遠くないうちに死刑になるだろう。




