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奪ってしまえ!  作者: 松原水仙
第三章

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16/32

16.宝くじ

キリアとともに街を歩きながら、「一攫千金! 宝くじ」と店舗や掲示板に貼られたポスターを確認する。

隣には字が読めない人のために絵で賞金を示した図も用意されている。

フェザー家が運営している店舗でのみ販売する予定だ。


店先で配られたポスターを片手に立ち止まっている人たちもいれば、素通りする者もいた。

横から興奮したような話し声が聞こえてくる。


「宝くじだって。当たれば私たちでもお貴族様になれるよ」

「えー、あんた、こんなの信じてんのかい?」

「夢くらいみさせなよ。一度でいいからドレスを着て歩いてみたいんだよ。手にいっぱい宝石をつけてさ」

「あたしは、やっぱり豪華なお肉だね。骨付きのやつ」


女性たちが地面に座り込み、高揚した声で話をしている。痩せた体を継ぎはぎの服で隠した彼女たちの目が輝いている。

キリアが顔を綻ばせた。


「宣伝はうまくいったようですね」

「いや。まだだ」


破られたポスターの残骸が風に吹かれて飛ばされた。踏みつけられて足跡だらけのポスターも落ちている。

前を歩いていた三人の男たちがポスターを丸めて道に投げた。


「馬鹿にすんなよ、クソ貴族が。こんな旨い話があるかってーの」

「どうせ金だけ取る気なんだろ。ハッ。カモられたいやつは行けよ!」

「こんなもんに金払うくらいなら、酒で酔いつぶれた方がマシってもんだ!」


男たちが周囲に聞こえるように叫んだ。そのまま酒場に入っていく。

眉を顰める者もいたが、男たちに同意して頷くような仕草をする者も目に付いた。


やっぱり、来て正解だったな。このままでは俺の新事業の雲行きは怪しい。


俺は一人一人の顔を観察しながら、街の空気を感じ取った。現実離れした浮つきと、白けた卑屈さが入り混じっている。疑心暗鬼になっているのだ。

キリアもそう感じたようで、俺を見て眉を下げた。


「どうします?」

「次の一手を打とう」


俺はニッと口の端を上げた。


馬車で向かった先は、聖イニフィス教会だ。

悪魔祓いの時とは違い、今日はハーブティーが用意され、すっきりとした香りが仄かに漂っている。

ホワイト司祭が呆れたように俺を見た。


「私はまだ、あなたを完全に信じたわけではありませんよ」

「分かっています。しかし、どうしても司祭様の御力をお借りしたくて」


カップを手に取り顔に近づけると、香りが鼻を抜けた。

湯気の立つハーブティーを一口飲み、司祭に目を向ける。


「私は常々、貧しい人たちも幸せになれるように何かできないかと考えてきました。司祭様も同じでしょう?」

「もちろんです。しかし賭け事には協力できません」

「なぜです? 少額で買える宝くじであれば、皆が平等に夢を見られる。富の分配ができるのですよ。オスカー侯爵家が運営しているような、貴族の娯楽と化した賭博とは全く違う」

「しかし、当たらなかった者はより貧しくなる。そしてライト卿はより多額のお金を手にすることになる」


ホワイト司祭の眼鏡が光った。その奥で、俺を吟味するように目を開いている。


「ご安心を。私はお金には興味がないのです。ですので、集めたお金は運用費を引いて国や教会などに全額寄付を、と考えています。これだけ立派な教会であれば修繕費も大変でしょう」


司祭がピクリと鼻を動かした。

俺は全体を俯瞰するように部屋を見渡したあと、ゆっくりと司祭に目を向けた。


「聖イニフィス教会は我々国民にとって不可欠な場所です。心の平穏が保てるのは教会があってこそですから。つまり、当たらなかったとしても教会に資金がいく事で、巡り巡ってその人のためになるのですよ」


考える猶予を与えようと、ハーブティーを手に取った。香りを楽しんで、最適な温度になったハーブティーを喉の奥へと流し込む。


「具体的に我々は何をすれば良いのです?」


司祭の言葉にすぐには答えず、俺はカップを戻して司祭の目を覗き込む。興味の色が見て取れた。

長い足を組み、勿体ぶって言う。


「何も」

「……何も?」

「ええ。司祭様にしていただくことは何もございません。私が欲しいのは『信用』です。ウィリアム家とフェザー家の名があれば上流・中流階級の者たちは説得できます。しかし、私が本当に富を配りたいのは貧しい者たちなのですよ。我々貴族では彼らに強制はできても、自主的に行動を起こさせることはできない。ですが、教会が賛同しているとなれば話は別です」

「なるほど」

「お名前さえお借りできれば、宣伝はこちらでします。お手間は取らせません」


俺が柔和な笑顔を向けると、司祭は再度「なるほど」と口にし眼鏡を人差し指で押さえた。


「開催は一か月後です。すぐにでもお返事をいただきたいところですが、そちらの事情もおありでしょうし、今日のところはこの辺で。色よい返事をお待ちしています」


反応を見る限り、司祭は断らないだろう。


その予想通り、後日教会から了承の手紙が届いた。


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