第5話 クラスター
医療廃棄物と資材、そして大切な検体をワゴン車に詰め込み、帰る準備が整った。
私は運転免許を持っていないので、帰りも墨台さんに運転して貰う事になる。 せめてコーヒーくらい飲んで貰おうと思い、近くの自動販売機で缶コーヒーを買った。
この時、初めて着信に気が付いた。 上長の大東風さんからだった。
留守電を聴くと……
え〜〜〜〜〜〜!
明日も……出張PCR!? 規模はほぼ……同等!?
ただ、明日はグループ内の看護師さんが応援に来て下さるそうで、私は出張しなくて良いそうだ。
「陽向さん、申し訳ありません……。 明日も行かれるなら、せめて私が運転出来れば良かったですね……」
「だーいじょぶ! 運転好きだから!」と言って例のガッツポーズをキメてくれた。
以前から思っていたのだが、私は陽向さんが疲れた顔をしているのを見た事が無い。 もうすぐ6人目のお子様が産まれるし、無理だけはしないで欲しい。
途中、パーキングエリアで、胃に夕食を詰め込み、18時半にクリニックに戻った。 まあまあ予定通りに到着出来て良かった〜。
予定では、すぐ帰宅するつもりだったのだが、今回は検体数が多い上、明日の事もある。 陽向さんには先に帰って貰い、残業する事にした。
『サターンウィルスPCR検査』……なんて聴くと、時代の『最先端』技術で、凄い近未来的な印象を持たれると思う。
確かに、検出率や偽陽性率は以前に比べて格段に進歩し、正確に結果を提出する事が可能になった。
ところが!
実は、非常に泥臭い部分が多い。
装置に搭載する容器には、油性ペンで小さ〜く『1、2、3……』と、番号を手書きしている!
更に、前処理でRNAが抽出された検体を入れる容器にも、同じように手書きしなくてはならない。 しかも、この時に番号がズレてしまうと検体の取り違えになるので、充分注意が必要である。
昭 和 か !
今回は、約200検体なので、元検体に振る連番を含めて、200✕3で、約600回、数字を手書きする。 明日の用意も含めると……1,200本か(泣)
ひたすら、前処理を続けていると、明日、訪問するご施設から名簿が届いた。
良かった。 表計算データだった! これならコピペ出来るので、ラベルからワークシートまで、手入力しなくて済む。
……容器にマジックで手書きする手間は変わらないが……。
『ブーッ、ブーッ』
スマホが振動した。
また、大東風部長から着信だ。
……!
……うそ……。
町野の関連施設で……クラスター発生!?




