第7話 天国と地獄
現在、男性看護師の割合は、あまり多く無い。 男性1:女性9の割合だ。 しかし、男性看護師の割合と需要は、確実に増加している。
確かに夜勤を含め、看護師さんのお仕事は激務の極みだ。 性差をどうこう言うつもりは無いが、男女の割合は同等にすべき、と思ったりする。
さて、前回から登場した『陽向 元気』さんも、男性看護師だ。
ここ『東戸市中央クリニック』に新設された、私と同じ『健康推進事業部』に所属する事になった、四十代のベテラン看護師さんである。
『健康推進事業部』の事務室は、未だ工事中の為、暫くの間、陽向さんと私は検査センターを拠点として活動する事になった。
彼の人となりは追々紹介していくが、特筆すべきはお子様の数だ!
なんと!
4人のお子様がいる。 双子×2組だという。
更に更に、もう一組が奥様のお腹の中にいらっしゃる! 奥様は20代だ。 あと数ヶ月で出産予定らしい。
陽向さんは『子煩悩』を絵に描いたような人で、休憩時間に、スマホに送られたお子様の動画を、慈愛に満ちた微笑みで眺めている。 ……その姿は、年上に対して言うのは失礼かも知れないが、ちょっと可愛い。
愛する奥様と、6人のお子様に囲まれる陽向さんの姿を思い浮かべると、何とも暖かい気分になる。
私は、流石に6人の子供を育てる自信は無いが、せめて2人位は欲しいな……などと、未だ彼氏もいないのに考え、ぼ〜っと陽向さんを見ていたら、ついウトウトしてしまった。
この頃は『PCR検査センター』の開設準備も一段落し、世間では『サターンウィルス』防止策として『緊急事態宣言』が発令されていたので、感染者もやや落ち着き、検査数もかなり減っていた。
主な仕事は伝票や患者様にお渡しする説明書等の印刷と、ウィルス搬送用容器の作成だった。
サターンウィルス検体の搬送は、通常の方法では行えない。 厚労省が定めた正しい方法で搬送する必要がある。
……サターンウィルスを入れたスピッツは、万が一、液漏れした時の為、ろ紙に包む。それを『二次容器』と呼ばれるジップ袋に入れて密閉し、『三次容器』と呼ばれる、安全性を担保された小型のダンボール容器に入れる事で、やっと搬送が可能となるのだ。
……実は、このダンボール作りが、大きな声では言えないが、それなりに退屈で面倒臭い。
その、退屈な作業を、陽向さんは楽しい『競技』に変えてしまった!
……スマホで、運動会の定番音楽をかけ(剣の舞? とか、天国と地獄? とか……)、どちらが早く綺麗に作れるか……を競うわけだ。 ……漫画家を目指していた私でも、この発想は無かったなあ〜
「今回は俺の勝ち~!」
「ぐ! ぐやじぃ~! もう一勝負お願いします!」
「仕方ないなあ……。 じゃあ、今度は、新レコードを目指すかな!」
「いいえ! 今度こそ、私が勝ちますっ!」
元来、競争欲が無い私をここまで乗せる陽向さん! かなりの策士と見た!
……そんな呑気(?)な日々を過ごしていたのだが、サターンウィルスの脅威は、着実に迫っていたのである……。




