第4話 闘い
穂上さんは電話で『必要書類が一切無い』って言っていたそうだ。
確かに、今まで臨床検査技師が居なければ『検査室』に必要な書類については、判らないだろう。
どんな事務所や施設でもそうだと思うが、事業を始めるには『必要書類』を準備しなくてはならない。
臨床検査室を開設する際にも、当然たくさんの書類が必要となる。
『検査室開設手続き』だけは済んでいたようなので少しは安心したが、その他、ざっと挙げても……
検体受領標準作業書
検体搬送標準作業書
検体受付及び仕分標準作業書
検査機器保守管理標準作業書
測定標準作業書
精度管理標準作業書
検体処理標準作業書
検査依頼情報・検査結果報告情報標準作業書
苦情処理標準作業書
教育研修・技能評価標準作業書
検体受領作業日誌
検体搬送作業日誌
検体受付及び仕分作業日誌
検査機器保守管理作業日誌
測定作業委託検査管理台帳
試薬管理台帳
温度・設備管理台帳
統計学的精度管理台帳
外部精度管理台帳
検体保管・返却・廃棄処理台帳台帳
検体依頼情報・検体結果情報台帳
検査結果報告台帳
苦情処理台帳
教育研修・技能評価記録台帳
ふぅっ……。
以上が、最低限必要な書類だ。
これを10日で集めろと!?
さて、賢明な読者の方は『町野中央病院の書類を借りちゃえば良いんじゃ無ぇ?』……と仰るかも知れないが、実は病院の検査室と、このPCR検査センターは、扱う検体や業務が全く異なるので、全て新たに用意しなくてはならないんだ(泣)
穂上さんと話した時に「手が空いている人を捕まえて手伝わせて良いからね〜♪」と言われたものの、この書類ばかりは検査技師である私しか理解出来ないので、自分でやるしかない。
機械の操作方法を学びつつ、上記の書類を作りつつ、伝票類をデザインしつつ、試薬等の購入間隔を相談しつつなどなどを、後10日……いや、正確には一週間程度で仕上げないと、万が一間違いがあった時に修正する時間が無くなってしまう!
この日から一週間……寝る間もない日々が始まった。
サターンとの闘いどころでは無い。
私の業務は、書類との闘いから始まった!
……私は基本、与えられた仕事に対して文句を言う事は無い。
しかし、今回ばかりは、自称『菩薩の真優』も、頭に来ていた!
人間、やれる事とやれない事がある。
とは言え、折角、私に『白羽の矢』を立てて下さった『町野グループ』の上層部の方々を裏切る訳にはいかない。
やるしかないのだわ。
因みに、私は自分から動くのは得意ではない。 いや『得意ではない』どころでは無い。 引っ込み思案の私は、基本的に受動体質で、趣味の『漫画』以外は、言われるがままの人生を歩んで来た。
その私が! 友人やら先輩やら、検査センターと契約している卸業者さんやら、汎ゆる手蔓を使って情報を集める行動をとった!
もし『締切』が無ければ、こんな必死にはならなかっただろう。 夏休みの宿題が間に合わない小学生がお母さん、お父さんに泣きつくような感じだ。
通勤とお風呂時間以外は書類作成に充てた。 無論、食事中も……だ。
当然、眠っている時間など無い!
しかし、3日目位になると、意識が朦朧としてくる。
ひとつ新しい事を学習した。 『寝ちゃ駄目だ』と思うと、余計に眠くなって来るんだ。
「ちくちょう! 豚だって、女子に『夜ふかしはするな』……って言ってくれてるのにぃ」……と、某〇崎駿監督の名作『紅〇豚』の一節を思い出しながら、悔し涙を流した。
4日目
悪い事は続くもので……
朝、電話がかかって来たので眠い目を擦りながら出ると、穂上さんだった。
「遥さん、連絡が遅れてすみません! 明日、保健所が監査に来る予定でした。 ……書類、間に合います?」
……口が悪くてすみませんが、言わせて下さい。
コホン
『バカー! んなの、間に合うわけがないでしょー!』




