第9話 フリーズ!
検体の採取が終了し、帰院したのが19時少し前。
自転車をこいで『ねんね』さんと待ち合わせしている近くのファミレスに到着したのは、それから数分後だった。
「まゆさ〜ん! こっちこっち〜」と、大きな声がして、ねんねさんが笑顔で手を振ってくれた。
ねんねさんは、とても可愛らしい方なのに加えて、結構露出の多い服を着ているので、目立つ目立つ! こんな地味な私が声をかけて貰っているのが恥ずかしかった。
「遅くなって申し訳ありませんでした」と恐縮しながら席に着くと……
「いーの! 気にしないで! あと敬語は止めて〜! こっちが肩凝っちゃうから」と言って、クシャッとした笑顔を向けてくれた。
子猫みたい〜♡
ねんねさんは既に食べ終わっていてコーヒーを飲んでいた。
私はお腹が空いていたので、和風パスタとドリンクバーを頼んだ。
他愛ない話から、やがて本題の『臨床検査技師とは』の話題になった。
「『リンショウケンサギシ』って、頭が良くなきゃ出来ないんでしょ? 『ザ・科学者』って感じよね〜」
「そ、そんな事ないよ……。 私、元々『文化系』だったし」
「うそ〜! 数学とか化学の問題なんてスラスラ〜って解いちゃいそうなのに〜」
「とんでもない! 私『公式』とか『ベンゼン環』みたいな化学式を見るとめまいがするの」
「あはははっ」
……と、そんな会話をしているうちに、自然にお給料の話になった。
「お医者さんと比べたら安いでしょうけど、相当貰ってるんでしょ?」
実は、臨床検査技師の給料は非常に安い(泣) 医療従事者の中でも最低ランクだろう。
これは自分を卑下して言うわけではなく『臨床検査』という職種が大いに関わってくる。
ドクターが医師法に基づいた医療行為を行えるのは言うまでもないが、他の医療技術者は『業務独占』がある。
例えば、放射線を扱えるのは医師以外には診療放射線技師だけだし、看護師や助産師、あん摩マッサージ指圧師さんも業務独占が設定されている。
の だ が !
臨床検査技師は『名称独占』であり『業務独占』では無い。 つまり、臨床検査技師以外でも、それなりの資格を取得している人であれば、どなたでも『臨床検査』を行うことが可能なんだ。
……その為、他の医療技術者と比べるとお給料が下がるし、基本的に夜勤も無いので読者の皆々様がご想像されているより、遥かに安い……遥、はるかに安い(←……)お給料なのである。
「……手取り……ヒソヒソ……円……」
小声でねんねさんに伝えると、ねんねさんは、元からぱっちりとした眼を更に大きくして、フリーズしてしまった。
……数十秒後
ねんねさんが真顔になって、座り直してこう言った……
「まゆさん……そんなお仕事は辞めて、うちに来ない?」
……
…………
……………………
え?
えぇ〜〜!?
今度は私がフリーズする番だった。




