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第5話 初店舗

 アダルト事業を運営する『UTSUSEMI(うつせみ)プロダクション』さまの『STD(性行為感染症)検査』を受託する事が決定した私たち健康推進課では、着々と準備を進めた。


 唐口《からぐち》さんから頂いた名簿を元に、巡回ルートや採取ラベルを作成した。


 ……これは比較的スムーズに作成出来たが、手こずったのは日程調整だ。


 UTSUSEMI本社は、定時勤務の方ばかりなので良かったのだが、問題は散在する店舗の従業員さんたちの調整だった。


 なにせ、勤務時間がバラバラな上、そもそも予定が立てられない方《かた》も相当数いた。


 しかし、こればかりは考えても仕方がない。 今回の健診は自由診療の為、厳密な期限は無い。 その都度、臨機応変に対応する事にした。


 さて、第一回の訪問は『派遣型ヘルスマッサージ』という業態の店舗だ。


 これは、顧客から店舗に連絡が入ると、従業員さんが直接顧客の希望する所に移動してヘルスマッサージを行う……というものらしい。


『もりもっちゃん』こと盛元先生と陽向さん、そして私は、社用車で店舗に向かった。


 訪問予定時間の16時より早めに到着し、改めて辺りを見渡すが、それらしき店舗が……無い!?


 ネット上のマップを参考に訪問ルートを作成したのは私なので、もし店舗が見つけられずに約束の時間に間に合わなかったら私の責任だ(泣)


 ……でも、陽向さんは悠々と車を駐車場に停め、鼻歌を歌いながら社用車の陽向から健診用の備品を降ろしている。 そんなに楽しい!?


「あの……場所はここで間違いないのですか?」と、私が恐る恐る聞くと陽向さんは事も無げに「……うん、そこだよ」と言って、地味な平屋建ての建物を指差した。


 あ、本当だ! よく見るとポストに、平凡なゴシック体のフォントで、お店の名前が貼ってある。


「私、派手な看板とかキラキラの照明のお店だと思ってました!」


「ははは、それは『ハコモノ』の店だよ! デリヘルは実質『事務所』だから派手にする必要はないんだ」


 へー、さすが……と言うかなんと言うか……詳しいのねー(棒)



 事務所には地味な服装の壮年女性二人と男性一人がいた。


「失礼します。 東戸中央クリニックの陽向と申します。 『健診』にお邪魔しました」


「はじめまして。 お話は承っております。 〇〇(店舗名)の榊(さかき)と申します。 本日は宜しくお願い致します」


「早速ですが、検体採取はどちらで行えば宜しいでしょうか?」


「こちらの休憩室でお願い致します」と、簡易的なパーティションで仕切られたスペースに案内された。


 医材の準備前に、感染防御の為、白衣《ケーシー》に着替えたい。


 陽向さんは男性なのでポロシャツを着替えるだけだし、盛元先生はオールドタイプの白衣を羽織るだけで良いが、私は、こんな薄いパーティションの中で着替えるのは少々気が引ける。


 もじもじしていると、早速、陽向さんが気付いてくれ、榊さんに更衣室の場所を聞いてくれた。


 ……更衣室は、従業員さんの『待機室』にあるそうで、女性の社員さんに連れられて向かった。


 待機室は、先ほどの『事務所』の雰囲気とは違い、さながら劇場の楽屋のようだった。


 壁際には姿見が並び、5人位が同時にメイク出来るようになっている。


 部屋の中央には長机にデスクトップPCが計6台並んでいた。


 ウォーターサーバーと冷蔵庫があり、冷蔵庫のドアには『私物には名前を書いてください』と書いた紙がマグネットで留めてあった。


 ……なんとなく、高校の時に気まぐれで入った卓球部の部室を思い出して微笑ましかった。


 更衣室に入り、そそくさとケーシーに着替え、待機室の鏡を見ながら髪型を整え、健診会場に戻った。

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