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第10話 『竜頭蛇尾』

「おやっ! 遥さ〜ん、泣くのはまだ早いよ〜。 はい、ティッシュ! はい、ミルクティー!」と、陽向さんが手早くティッシュボックスと、さっきのミルクティーを手渡してくれた。


 ……その様子が面白く、泣きながら吹き出してしまった(笑)


 私は色々な感情が訪れた為、喉がカラッカラに渇いてしまい、ご無礼思いつつ、ミルクティーを飲みながら陽向さんの話を聞いた。


「さて……話の続きね。 『防波堤』には、重要な任務が二つある。 ひとつはどんな波も防いで、人々の安寧を守る事。 もうひとつは、さて、何だと思う?」


『防波堤の任務』は『波』を防ぐ事でしょ? 他に何がある?


 他に考えられるのはガレキとか船とかが流れて来るくらい?


「波以外に押し寄せて来た物を防ぐとかでしょうか?」


「残念! それより、もっと大事な事がある」


「え〜? 本当に判らない〜っ!」←何だか楽しくなって来た。

 

「あははは(笑) 遥さんは本当に生真面目きまじめだね! 本当の『防波堤』の話じゃないよ。 例え話だから〜」


 私はすっかり元気になって、舌を出して照れ笑いした


 陽向さんも嬉しそうに笑顔を見せてくれた。 そして……


「答えは、絶対に『壊れない事』だ!」


 え〜! 詐欺っ!


「いやいや、これは冗談じゃなくて、真面目な話なんだよ! 

 だって、防波堤が壊れたら、波が入って来ちゃうじゃん!」


「まあ、そうではありますけれど(苦)」


「俺が遥さんに伝えたかったのは、実はここからなんだ」


 私は、ミルクティーとティッシュボックスを机に置いて真顔で座り直した。


「良いかい? 俺たち『健康推進課』のメンバーは、未だにサターンに感染していない。

 家族も含めてだ。

 町野中央の検査室の技師さんたちも感染していない。

 つまり『防波堤』が壊れなかったって事だ」


 ……!


「『自分たちが感染しない』……これこそ、感染対策の基本中の基本だよね」


 確かに、そうだ。 


 私たちが検体採取に行った施設でも、別の医療機関で感染者が発生したという理由で急遽依頼を受けた事例も少なくなかった。


「俺たちみたいに、愚直ぐちょくに、そして正確に、指差し確認しながらの感染対策が正しかったって事だよね」


「はい!」


「無理な事なんて無い。 先人たちが教えてくれた『基本』を守りつつ、新しい検査や新しい方法を取り入れ、実践する。 それだけで、俺たちは堅牢な『防波堤』になれるんだ!」


 さらに陽向さんは続けた……


「そして!

 このセンターは『遥 真優』って言う、日本屈指の技術者が、少ない予算の中、その持てる全ての能力を注ぎ込んで創り上げた、最高水準の検査センターなのだぜ!」 


 ここで墨台さんの伝家の宝刀、ガッツポーズ降臨!


 やだぁ! 褒め過ぎ(〃∇〃)


 墨台さんがティッシュボックスを差し出し


「さっ、今の俺の言葉で感動したら、いくら泣いても良いんだぜ、お嬢さん……的な!?」


 あ〜あ、陽向さん! せっかく良い事言ってくれてたのに、最後の最後で似合わないお世辞なんて言うものだから、台無しになっちゃって


 超 面 白 い !


 私はお腹を抱えて笑った!


 陽向さんもつられて笑い出し、検査センターは、いつもの明るい雰囲気に戻っていた。


 私は、笑いながらも心の中で何度も何度も墨台さんにお礼をした。


 この人とコンビが組めて、本当に良かったと思う。


 ……そして


 いつか必ず、この人にご恩返しする事を、心に誓っていた。

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