第9話 芽生え
※お詫び
『活動報告』にも記載しましたが
2026年6月22日の投稿
『第14章 メンタル』の
『第7話 沈黙』ですが、こちらの手違いで
『第8話 『魔女』』を先に投稿してしまったため、慌てて修正いたしました。
該当のお時間にお読みいただいた方にはご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした。
今後、このような事のないよう十二分に注意して参ります。
今後とも、本作とコンロードを、何卒よろしくお願い申し上げます。
「こんなに酷いパンデミックが、また来ますか?」
陽向さんはいつもの落ち着いた口調で……
「今回のパンデミックは『百年に一度』と言われているから、正直に言って『必ず来る』って根拠は無い。 でも『来ない』可能性は、限りなくゼロに近いと思う。 現に今でも全く新しい脅威が日々産まれているからね。 俺たちは、来たるべきその時の為の『防波堤』なんだ」
「『防波堤』? あの『津波』から街を守る?」
「そうだ。 またサターンの波が来ても、全く新種のウィルスが発生しても、それを堰き止め、人々の命を救う、強靭でしなやかな『防波堤』にならなくてはならない」
「私に、なれるでしょうか?」
私はただの臨床検査技師だ。 DMAT(『災害派遣医療チーム』……人命救助を第一の目的としたスペシャリスト)だった陽向さんと違い、陽だまりのような呑気な検査室で、只々《ただただ》与えられた検査だけをこなしてきただけの、お気楽な人間だ。 それが、人類を救う『防波堤』になんて、なれるんだろうか?
陽向さんはニッコリと笑みを浮かべ……
「そこで、さっきの遥さんの言葉に繋がるのさ」
……私の『サターン禍が続きますように』って言葉?
「先ず、この『PCR検査センター』が発足してから1年にも満たないのに、検査件数は間もなく2万件に到達する」
私は3か月休職してしまったが、町野中央病院検査室の人たちのお陰で業務は滞りなく行えたので、検査総数は順調に増えた。 もっとも今は失速しているが。
「今やこのセンターは、文字通りサターンとの戦いの『最前線』になっている。 陽性者をいち早くピックアップ出来れば、ゾーン分けする事で感染爆発を未然に防げるからね」
陽向さんの言う通り、感染対策で大切なのは『感染者の接触を避ける事』だ。 PCRを使えば最短1時間弱で、高精度に判別出来るから、感染の拡がりを抑える効果は絶大だ。
陽向さんがPCR装置をポンポンしながら「ここの設備は、お世辞にも恵まれているとは言えない。 でも遥さんや皆の創意と工夫で、大手の検査設備に匹敵する成果を上げている。 って……まあ、これは大東風さんの受け売りだけどね」と言って照れ笑いをし、更に続けた。
「そんな経験と実績があるから、遥さんの心の中に『自信』が芽生えたのさ。 そうじゃなければ『サターン禍が早く去って欲しい』と願う筈だ。 早々に手を引きたいからね。 そうでしょ?」
……!
そうか!
いつも自信が持てないのがコンプレックスだった私に、無意識に……
『サターンウィルスPCR検査、ドンと来い!』的な『自信』が芽生えていたの……か!
私の両目から涙が溢れた。
それは、さっき迄と違う……
……熱い希望が心に芽生えた、感動の涙だった!




