第2話 湯治
数日後
私は兄の自動車に乗せて貰い、少し離れた所にある精神科のクリニックで診察を受けた。
自分でも全く気付かないうちに、かなりメンタルが傷ついていたようで『適応障害』と『うつ病』との診断を受けた。
確かに、人身事故や自殺のニュースを観たり聴いたりする度にこう思うようになっていた。
『やっと楽になれたんだね! 良かったね!』
と、こちらまで嬉しくなっていた。
更に……
『私も、早く楽になりたい』との考えが芽生え始めていた。
これはさすがに、自分でもマズいと感じていた。
この考えが無くなるまで、そして、完全に疲れが癒えるまで、私は自宅で薬物療養する方針が決定した。
診断書をいただき、薬局でお薬を頂いた。
初めての『抗うつ剤』だ。
『私、本当に「うつ病」って診断されちゃったんだ』
そう考えると、自分の不甲斐なさに涙が出た。
薬局を出ると、陽の光の強さに目が眩んだ。
臨床検査技師の仕事は、検査室に閉じこもっての検体検査が大部分を占めているのであまり外には出ない。
加えて、偶の休日は、疲れから一日中ゴロゴロして暮らすので、陽の光に当る事は、ここ暫く無かった。
まともに働けなくなってしまった自分が陽の光に照らされ、周りの人々に嘲笑されているような気がして、私は隠れるようにして兄の自動車に乗り込み自宅に戻った。
***
定期的に精神科クリニックに通い、とにかく回復することを考えずに、日々を過ごしていた。
「ミャ〜ウ ニャ〜〜オ」
ペットの猫『マチコ』が、甘えた声ですり寄ってきた。
『マチコ』は去年『町野中央病院』で保護した、産まれたばかりでヒゲを切られて捨てられていた子猫だ。
ペットと遊ぶのは、『アニマルセラピー』とも呼ばれ、精神的にとても良いそうだ。 精神科の主治医の先生も推奨されていた。
猫用の玩具でマチコと遊びながら、私自身がマチコとこんなに長時間遊んだのは初めてだった事に気が付いた。
我が家は全員が猫好きなので、必ず誰かがマチコと遊んでいたが、私は偶にゼリー状のエサをあげたり撫でたりしただけだった。
私も、無類の猫ちゃん好きではあったが、子供の頃に、猫の皮屑アレルギーがあった事や日々の疲れから、遊んであげられずにいたんだ。
毎日のように母と買い物に行ったり、父や兄貴が、休日に連れ出してくれた。
サターン対策で休園の場所も多かったが、家族でバカ笑いしながらのドライブはとても楽しかった。
こんな家族の優しさが、私の心を湯治のように『即効』では無く、じっくりじんわりと癒してくれた。




