薬箱の奇跡 6
「わ、綺麗!」
雨の後の雫できらきら輝いてる青い小さな花。名前は知らないけど、私はこのお花が好きだ。
光は案の定、熱を出して寝込んでいる。あまり力の強くない私とは言えども、妖は妖。私の妖気に触れて悪化したらいけないと想っていたけど、もう我慢できない。お見舞いぐらいならいいよね?
「よいしょ」
一輪だけ抜いて縁側によじ登り、光の部屋へゴー。
「光、光。お見舞いだよ」
障子を開けて中へ入った瞬間、私は思わず飛び退いた。
「何よこれ!」
着物の袖で口許を覆う。
部屋に妖気が充満していた。
「私のじゃないわ……、一体誰の……、っ!」
部屋の真ん中で布団を敷いて、苦しそうに息をつきながら寝ている光の枕元。四つ足の、黒い犬のような体躯の獣が光の顔を覗き込んでいた。
「ど、どうしよう……」
だ、大丈夫、私の存在には気づかれていない。私にあれを追い払うだけの力はないから、結姫に知らせてお願いするしかない。あぁ、でも、結姫に退魔の能力はあるのかな?
なかった時は無かったときで考えよう。そう思って障子を閉めようとした時だ。
『ソコにいるのはダレだ……』
「ひっ………!」
ば、ばばばばばれた!?
烏之瑪の数百倍は怖い視線に貫かれて身体が強張る。どうしよう、どうしよう……!
のしのしと障子の近くまでやってきた犬型の妖は、私を右足で押さえつけてきた。ぱたん、と私は軽々と転がされた。妖は鼻を押しつけてにおいをかいでくる……、ひぃっ。
『オマエ……、チカラはヨワいが……、ハラのタシにはなりそうだな……』
あわわわ、食べないでえ……。
ぐわりとあぎとが開かれた瞬間。───私の身体は夜色の靄となって霧散した。
(奥の手! 本体に強制帰還!)
夜色の靄は霧散した後、本体の薬箱に戻って、再び私を形作る。すっと薬箱から飛び出て、押入から顔を覗かせる。光の部屋の隣だけれど、あの妖がくる様子はない。良かったぁ。
恐怖から逃げ切って安堵する。あぁ、怖かった。心臓がバクバク、ドクドク。でもでも、光をあのままにしておけないよ……。
結姫に教えなくちゃ。




