薬箱の奇跡 5
日記に何を書こう?
日記を受け取って二日が平和に経った。妙な噂が気になるが、怪しいことが起きる様子もない。というわけで、本当に書くことが何もない。日記っていざ書くとなったら大変なのね……。
薬箱が収められている押入れの中で悩む私。暗い場所でも付喪神の私には関係ない。
自分と同じ身長のペンをよいしょと担ぐ。ちなみにこのペン、光の筆箱から夜のうちに拝借しておいた。
「う~、よし。書けそうなものを探しにいこう」
担ぎ直したペンをえいっと転がしておく。押入れの戸をそっと引いて外に這い出る。むむむ、雨が降ってる。
薄暗い庭にしとしとと降り積もる雨は気味が悪い。
「うわ~、雨だ~」
縁側を通って居間に行く。時計を見るとすでに七時。
「おお? 光の帰ってくる時間だ。お出迎えしてあげよう」
ニコニコと玄関に行く。お? 光の傘が玄関に放置されてる。忘れていったのかな?
「も~、馬鹿だな~、光め~」
帰ってきたら笑ってやろう、「濡れねずみ~」と言って。それから、そうだ。日記にこのことを書いてやろう。あの日記、何か面白いことが書いてあるのかと思って読んでみると読めやしない。妖の文字は読めるけど、肉球とかから何が読めるというのか。肉球で判子とか。日記ですらないよ。結姫の大雑把さに吃驚だよ。
「ただいま……」
「あ、光。お帰り!」
思いっきりジャンプして、よじ登って、光の肩に乗る。話しかけても見えないだろうけど、特に意味は無い。
……あれ? 顔色が悪いな。
すごく顔が白くなっていて、唇も紫色になっている。風邪でも引いたのかな……?
確か、通学に一時間かかると言っていたかな。それを傘なしで帰ってくるなんて、なんてマヌケなんだろう。
笑ってやりたいけれど、光の顔は本当に辛そうだ。
「……なんて人は脆弱なんだろう」
ざわざわと胸が揺れた気がする。私は頬に伝う水滴を一滴ぬぐってやり、肩からストンと降りて、押入れにユーターンした。




