カボチャのランタン1
「trick or treat !」
「何ですか先輩。その無駄に流暢な英語は」
「無駄とは酷いわねえ」
ふわりと二つにくくっている黒髪を浮かせて、結姫梨香は振り向いたカボ。可愛いカボ。でもちょっとだけ紅く輝く左目が怖いカボ。
「こんなランタンまで持ってきて……。先輩はこの部室をどうしたいんですか……」
「さあ?」
ふふふ、と笑う結姫はやっぱり可愛いカボ!
『カボ?』
「もうすぐハロウィンだからいいのよ」
机の上に置かれているボクを、結姫は抱き上げてくれたカボ。ボクはうりうりと結姫に擦り寄ってみたカボ!
「くすぐったいわ」
小声で笑ってくれる結姫。結姫、大好きカボ!
「でもまあ、まだちょっと早いかしら? しまって置きましょう」
カ、カボ?
ちょっと、え、カボ?
結姫が戸棚を開けて、ボクをしまおうとするカボ。
『結姫~! カボ~!』
コトンと音を立てて、戸は閉じられたカボ。非情な結姫を恨むカボ。
ボクは怒りながら体を反転させたカボ。ボクの後ろには紅い一つ目がいたカボ。
『カ──ボ─── !?』
人の世は怖いカボ。
なんなのだコレは、なのだカボ。
『お前、人の顔を見て悲鳴を上げるとはいい度胸だな』
『……だれカボ?』
『烏之瑪だ。結姫梨香と縁あるものだ』
烏之瑪カボ? 結姫之知り合いなら悪い人ではないカボね。ボクはほっとしたカボ。
『早速で悪いのだが、これを書いてもらえないだろうか』
『カボ?』
暗がりで見えないカボ。仕方ないから、明かりをつけるカボ。
『か~ぼ~~!』
ぽわっと、ボクの身体が光るカボ。いや、正しくはボクの身体の中カボ?
明かりを頼りに烏之瑪を見てみるカボ。烏之瑪は幅も高さもあまりないこの戸棚で、窮屈そうな表情で詰まっていたカボ。……プッ。
『おい、今笑っただろう』
『気にしないほうがいいカボ。気にしたら世界が終わっちゃうカボ』
『いいや、絶対笑った』
むすっとした声で烏之瑪は言ったカボ。まあ、ボクは寛大な心の持ち主なので気にしないカボ。
『なんか今、むっとしてもいいような事を思われた気がするが』
『気のせいカボ』
ボクはコトコトと身体を揺らして言ったカボ。段差から落ちたカボ。
『カボ?』
下を見れば緑色の、いや、翡翠色の冊子があったカボ。これは一体なんだカボ?
烏之瑪もそれに気づいたようで、くちばしを開いたカボ。
『忘れるところであった。それの空いている箇所に日記を書いてくれ。それは妖達用の日記でな。順番に書いていってもらっている』
『面白そうカボ~。早速書かせて欲しいカボ!』
しかし書くスペースがないカボ。どうしようカボ。……作るカボ?
でもどうやって作るカボ。烏之瑪は動けそうにないカボ。それにボクには腕がないカボ。……生やすカボ?
『か~ぼ~~!』
踏ん張ってみたら、体の側面から手がにょき! っと生えたカボ。やってみれば何とかなるものカボね。
『いやいやいや』
烏之瑪が何か言いたげな瞳をしているけれど、気にしないカボ。
『よいしょ、カボ』
冊子を壁に立てかけるようにして置いてみたカボ。ページを捲ってみるカボ。色々と、書いてあったカボ。
『ちなみにお前は何を書く?』
夢中で捲っていると、烏之瑪が首を傾げたカボ。
『ボクは生まれたてだからなカボ。やっぱり、結姫がボクを拾ってくれたことカボねえ』
ボクは思い出したカボ。結姫と会った時のことをカボ。
それはほんの数時間前カボ。ボクはたくさんの仲間のいる中で、一人目覚めたカボ。
そこには陶器でできたつやつやの仲間たちが無感動で並んでいたカボ。次々と人間の手で減っていったカボ。ボクは後ろのほうでそれを眺めていたカボ。
いよいよボクの番が来るぞ、って思って未来に心を浮かせていると、ボクの前のヤツを持っていこうとした人間が、不審な動きをしたカボ。
「あら? 付喪神?」
これがボクと結姫の出会いカボ。
『薄っぺらい出会いだな』
『うるさいカボ』
生まれて数時間なのだから仕方ないカボ。
まあ、でも。結局はこんなことしか書けないからちょっと悔しいカボ。
『無いなら作ればよいのだ。別にその日記はすぐに書けとは言わぬ。早く書いてくれれば嬉しいが……。そうだな、二週間後までに書いて欲しい。そうすれば、その期間に何か楽しいことがあるだろうからな』
『そういうものカボ?』
『そういうものだ』
なら、ちょっと探してみるカボ。楽しいこと。でも、見つけられるか、不安カボ。
そして、結構早く楽しいことは来たカボ。




