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物語る日記帳  作者: 采火
本編
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42/63

番傘の空9


「耶赦。貴方は幾つもの間違いを犯したわ」


 一つ。


「あたしに目を付けたこと。烏之瑪がいるのだから、今この時をもって、高天原の神々を敵に回したと同意義よ」


 二つ。


「白世を作ったこと。中途半端な作り方をして、結果的には自分を窮地へ向かわせる羽目になったわね」


 三つ。


「己の欲を溢れさせたこと。後先考えずにあたしを捕らえたのは頂けなかったわね」


 くすくすと縷々空は笑った。

 そして、白世に目を向ける。


「名前を奪ってあたしの動きを止めても、白世があたしに名前を付けてしまったわ。本当の名前でなくても、あたしを解放するには十分だった」


 縷々空は藍色の本を掲げた。

 本当は用途が違うのだけれど、と苦笑して。


「花笹、ちょっと身体を借りるわよ」

「は??」

「封印の器がいるの。貴方自身を使う訳じゃないけど、器の形を取らせるためにあれの妖力を貴方に通すわ。耐えれる?」

「まあ、頑張ろう」

「ありがと」


 縷々空は藍色の冊子を黒いのに手渡した。


「日記の力、ほとんど吸っちゃったわ。また一からね。ごめんなさい」

『紅の時もそうだった。仕方あるまい、また次代も頼む』

「分かった」


 縷々空と黒いのが謎のやりとりをしてから、縷々空は私を開いて差した。パッと藍色の着物の袖が翻る。


「烏之瑪、あいつらの動きを止めて!」

『承知!』


 黒いのが金色の棒を高く掲げる。漆黒の翼がばさりと震え、縷々空の霊力よりも洗練された、静謐な空気が部屋に漂う。


『《«風の戒め織り成りて檻と成り»》』


 ゴォォォッ、と風が吹き荒れて耶赦と白世の動きを止めた。ばたばたと髪が袖が裾が、はためいて視界を覆う。


『烏ッ! 貴様ハこの力ヲ持っテ神妖トほざくノカァァァッ!』

『能力のおかげだ。この冊子に溜まった妖力を霊力に変換し、更にそれを神力へ変換した。それと持ち前の神力のほとんどを使って作り上げたその檻は今のお前では開けまい。これ以上やれば私が神力を失って消滅するがな……。今のうちにやれ、蘭奈(らんな)!』

「はいはい」


 最後の蘭奈、というのが縷々空の本当の名前なのだろう。だがそれは今は関係ない。

 白世を見れば何の抵抗もしていない。何の感情も表に出していない。何を思って、何を感じているのか、私には分からない。

 蘭奈……今更言いにくいな。やめよう。縷々空が、私を差したままくるくると回り出す。


「《«透しませ透しませ・清らかに・廻りませ廻りませ・六道の外れ・逢いませ逢いませ・夢路の関»》」


 謡って舞う縷々空。段々と耶赦の妖力が私の身体を透き通って行くのが分かった。

 耶赦は呻く。白世は静かに佇み、薄くなる己の姿を見下ろす。

 透き通った耶赦の妖力は私によく似た番傘を形作った。


『封印シテ喜ぶナ……! 我、再び相見えンゾ……!』

「それは楽しみね」


 縷々空がそう呟いて舞うのをやめたとき、部屋には一本の番傘が転がり、耶赦と白世の姿はなくなっていた。黒いのが興していた風もぴたりと止み、静かな雰囲気だけが残る。

 縷々空が私と転がっている番傘を見比べて、転がっている方も手に取る。

 耶赦や白世を表したような真っ白な番傘は赤色の私と違ってとても綺麗だった。くすんでしまっている私の色との違いもそうだが、私は白世のせいで穴まで空いてしまっているからな。

 全く、私が人型のままでいられたら小突いてやったものを。


「烏之瑪。お願いがあるんだけど」


 白い番傘を見ていた縷々空が黒いのに声をかけた。

 そうして白い番傘を黒いのに投げ渡す。


「ここに古家(ふるいえ)のイロリを連れてきて頂戴。そして決して人目の着かないように結界を張って守るように言って」

『分かったが……お前はこれからどうするのだ。村ではもうお前を死んだ者として墓まで作ってあるぞ』

「そうねぇ、今更帰っても神隠しに遭った娘とでも言われてしまうだけだわ……。藍の残りを埋める旅にでも出ましょう。花笹をお供にでもして、ね?」


 縷々空が片目を瞑って、私に笑いかけた。

 別にそれはいいのだが……。その藍色の冊子の意味が気になったので聞くと、縷々空は、妖怪達の物語を書いて集めたものよ、とますます笑っただけだった。今度、私のも書いて貰おうか。


『藍の残りを埋めても力の足しにはならないぞ』

「紅のを足せば、少しぐらい足しになるわよ。塵も積もれば山となる~♪」


 縷々空は鼻歌交じりで微笑んだ。

 私は地道に自分の妖力が戻るのを待とう。縷々空の荷物にだけはなりたくないからな……。人型が早くとれるようになれればいいな。

 そういえば外の世界はどんななのだろう。何があるのだろう。縷々空に連れて行って貰えるなんて楽しみだ。

 ……いや一緒に行くんだ。私はもう自分の意志があるのだからただの物として運ばれるなんて味気ない。せっかくなのだから自分の足で歩きたい。

 生んでくれた縷々空に感謝しなければ。



☆†☆†☆



 そして数年の月日が経ち。


 藍色の冊子が様々な妖怪達の話で全て埋まった後。


 縷々空は私を差して、この場所へ戻り。










 自ら命を絶った。

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