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物語る日記帳  作者: 采火
本編
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28/63

猫の鬼ごっこ4

 白すぎる狐であった新人が移動しながら私を天高く放り投げ、左手で右手の袖口を探って日本刀を取り出した。そして一瞬の無重力感を味わった私は再び新人の右手に収まった。


「に゛ゃっ!」


 やはり首根っこをつままれる。しかも、左手は日本刀を振り回してる。


『ちっ、うざったい!』

「このまま撒ければボクとしては万々歳なのですが」

『させるか!』


 烏之瑪が塀スレスレの平行滑空から、新人の足下で垂直に跳ね上がる。

 おいこら烏之瑪! 私に当たる所だったぞ! 新人が余裕で避けてくれたので問題は無いがな!

 新人は反転すると、烏之瑪の動きにあわせて新人も左手の刀を跳ね上げた。その反動からか、後ろに跳ぶような形になる。かなりぐるんぐるんと揺れて気持ち悪い。

 塀の上での攻防から、いつしか屋根の上での攻防に移っていた。通行人は全く気付いていない模様。まあ、妖怪同士のやりとりだしなぁ。

 しかし新人が着地すれば屋根はミシミシ言うし、烏之瑪が突撃すれば木はガサガサと揺れる。

 その度にチラリと人間はこちらを見るが、気にしないで通り過ぎてしまう。見える人が見ればかなり激しい遣り取りなのだが……、というか本当にこの体勢は辛いぞ新人……。


「おや? 先生?」


 新人がぐったりとしている私に気付いた。眉間に皺を寄せてこちらに目を向けた。


『隙ありっ!』

「あっ」


 新人の右手を狙って烏之瑪が突撃する。私は新人の手から落ちた。

 ぐるんぐるんと新人に振り回されたせいか、どうやら酔ってしまったらしい。他人事のように感じはすれども、平衡感覚が不安定やら吐き気やらでまともに着地できそうにない。頭から真っ逆様だ。む、ここが私の死に所か……。

 そう思って目を回しながらも覚悟を決めたとき、ぽふっと誰かが私を抱き留めてくれた。おお?


「危ないわねぇ。ネコマタを殺す気?」


 不敵に笑う小娘。そしてこの声。紛れもなく結姫梨香だ。


『む。私は呼んでないぞ』

「偶然よ、偶然。丁度こちらに用があったの。そしたら貴方達が派手にやってるから。ていうか烏之瑪、わざわざネコマタのいる方を狙わなくてもいいんじゃない?」

『ふん、それこそ偶然だ。私の向かう先にそれが居ただけのこと』

「あらそう。それじゃ、そういうことにしといてあげる。……んでそっちの白いの!」


 小娘が声を張り上げる。新人を真っ直ぐ見つめて。


「白いのとか……。名前で呼んで下さいませ」

「却下」

「そんな、つれない……」


 新人のお願いはむべにもなく、却下されてしまった。はてさて、雲行きが怪しいぞ。


「貴女を想って幾星霜……、ボクの心ははちきれそうなほどです……。こんなにも貴女に名前を呼ばれたがっているのに……!」

「前にも言ったでしょ。あたしは会いたくなかったって」


 小娘が煙たそうに新人を見る。新人はにこにこと笑って刀を袖に納めた。そして、それを見た烏之瑪はバサバサと新人の目の前で滞空する。私はそのまま小娘の腕の中だ。


「たまにはボクと一緒に遊びませんか?」

「嫌よ、めんどくさい。それに今日のあたしは用事があるの、見逃しなさい」

「それはちょっと聞けないです、」


 新人が右の人差し指を口元にあてがい、そのまま膝を曲げて姿勢を低くする。


「───[»織り成せ¦秘狐界«]」


 新人の声が遠くのような近くのような場所で聞こえた。新人の方を注意深く見れば、彼はパタパタと着物の裾をはためかせて宙に浮いていた。しかも辺りははおどろおどろしい雰囲気になってる。

 家の塀の亀裂が喚き叫ぶ顔のように見え、植木は古い布が千切れて引っかかったようにダラリとしなだれていて、空は火の粉が今にも降りそうな程に赤黒く染まっている。……さっきまでの爽やかで明るい風景はどこにもなく、どろりとして暗い空間が広がっていた。

 私はひょい、と小娘の腕の中から出て、そのまま腕を伝い、肩に座った。


「結界を張りました。これで気にせずお話しできますよ」

「……あら。あたしが貴方と話したくないっていうのを、周りが気になって仕方がないって解釈したのかしら。それなら余計なお世話よ」


 小娘が肩の私を一瞥してから、おもむろに肩掛けの茶色いバックの小さなポケットに手を入れて、何かを取り出した。


「……また式ですか?」

「あら、何か文句があるのかしら?」

「───いいえ。ただ、前の貴女ならそんな小細工をしなかったのにと思いまして」


 新人はいつの間にか、再びぬらりと輝く日本刀を持っていた。

 小娘もその手に小さな紙の束を掴んでいる。紙の束は緑色の輪っかで留められていた。


「《«式紙の二・腕・顕現»》」


 小娘が、力ある言葉を放つ。

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