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物語る日記帳  作者: 采火
本編
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27/63

猫の鬼ごっこ3

 目の前のカラスがジッと無言で私を見つめるので、私は耐えられずに自ら声をかけた。


「……どうした。日記はまだだぞ」

『───いや、珍しいのを連れているな、と』


 烏之瑪は翼で新人ネコを指した。

 自分は答える。


「新人だ。丁度お前達と会った後、仲間に入った」


 新人ネコが少し歩み出る。


「こんにちわ、新人です」


 ニコニコと笑う新人ネコ。

 烏之瑪はジッと彼を見つめる。


「やだなー、会ってそうそうガン付けをしないでくださいよ」


 新人ネコの言うとおり、大人げないぞ。だがまあ、私は関係ないからユラユラと二つに分かれた尻尾を揺らして二人のやりとりを眺めることにする。


『はて、私の勘違いかな。お前から邪悪なる気配を感じるのだが』


 首を傾げる烏之瑪。


「そんな事ある訳ないですよー。ボクは純然たるネコですし」


 ふふふ、と結姫に似た笑みを浮かべる新人ネコ。


『なら何故、私の声が聞こえるのだろうなぁ?』


 キラリ、と妖しく烏之瑪の瞳が輝く。

 はて、そう言えばそうだな。

 新人ネコは猫又でない。人間が我ら動物の言葉を聞けないように、我らも多種族の言葉は聞けない。妖怪となった物ならば、相手に自分の意志を伝えることができる。相互でそれが成り立つとき、初めて会話となる。

 この原理を考えると、多種族との会話ができるのは強い力を持っている物たちだけだ。小娘もあれでいて結構な力の持ち主と言えよう。

 だが新人ネコは?

 コイツも妖怪なのだろうか。そうであれば猫又としての象徴の、二股の尻尾があるはずなのだが……。


「……にゃーご」

『今更とぼけても無駄だ。正体を現せ、狐』


 烏之瑪がそう言った瞬間、新人ネコの周りに白い靄がかかる。その靄がだんだん膨らんでいき、その途中に私の身体が何者かによって持ち上げられた。

 これは……。


『ふん。最初からその姿でおればよいものを、何故あんな姿でいた?』


 靄が晴れれば、私は誰かに抱かれていた。白い髪、白い耳、白い尻尾。白い狩衣の下から深緑の生地が見えている。なんと、人型の狐に抱かれていた。というか、白すぎて目がチカチカする。


「よく見破りましたね」


 白すぎる狐は柔和に微笑む。


『答えよ』


 烏之瑪の声が幾分か厳しくなる。


「嫌ですね、そんなピリピリしないでください。日記の為に近づいたと正直に言えばよろしいでしょうか?」

「ほぅ、日記か? あの小娘の。そうならさっさとやるが。私の代わりに書いてくれ」

『ならぬ』


 烏之瑪の目が私を捉えた。おお、怖い。


「何でだ。別に問題なかろう? 私の代わりに書いてもらうくらい」

『そいつは日記を悪用しようとするから駄目だ』

「そんなはっきりと言わなくてもよろしいですよ」


 首根っこを摘まれて、前にドーンとつき出される。


「人質ならぬ猫質です」


 むぅ?


「おい、新人。この体勢は老体にキツいんだが」

「これは失礼。しかし、ボクが動きにくいので暫く大人しくしていてください」


 爽やかに笑うが目が全く笑っていない。どうやら私はとんでもないことに巻き込まれているようだ。

 放せー、放してくれー。


「暴れないでください。摘みにくいです」


 ぷらーん、ぷらーんと身体を揺らすと新人がしかめ面をした、が気にしない。

 怒った口調であっても決して攻撃を加えないことから、新人に悪意がないことが窺える。危害を与えるつもりなら、もっとピリピリとした空気を纏うものだ。人でも動物でもそれは変わらない。

 私は身体を揺らすのを止めて、事の次第を見守ることにした。断じて疲れたからではない。身体を揺らすのさえめんどくさがるほど老いてはいないからなっ。


「おっ?」


 突然、新人が私を摘んだまま後方へと跳んだ。

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