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物語る日記帳  作者: 采火
本編
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26/63

猫の鬼ごっこ2

 と、まあ回想シーンはここまでだな。日がな一日ぼーっとしている私だから書くことが無い、と思った私は急遽近くにいた仲間たちを呼んで事のあらましを話した。そうしたらそのうちの新人ネコが、この鬼ごっこを提案してくれたのだ。


「先生ー」


 後ろから追いかけてくる猫を見てにやりとする。アレは鬼ごっこを提案した新人ネコ。彼は私が結姫から日記を受けとった後に野良猫になったばかりだからかきちんと身繕いされていて、毛がふさふさ。目が痛くなるほどの白い毛は目の保養になる。

 彼は必死に追いつこうとするが、残念ながら地の利はこちらにある。


「私を捕まえられるかい?」


 私はすぐ近くの路地裏に飛び込んだ。塀によじ登り、屋根に飛び乗る。これだけで相手は私を見失う。あまりにも楽しくて、目元がついつい緩む。


「まだまだよの」


 新人ネコは野良猫生活に慣れていないため、この高さの塀を登ることは愚か、屋根には飛び乗ってこれまい。鬼役が新人ネコでよかった。

 私はそのまま屋根に寝そべる。ああ、空が青い。こんな日は昼寝にぴったりだ。うとうととまどろみ始める。どうせここには鬼は来ないだろうと高をくくってまぶたを閉じた、が。


「先生、見つけました。鬼交代です」


 ぽんっ、と背中を叩かれる。なぬっ?


「どうしてお前がここにいるっ?」

「上って来たに決まっているじゃないですか」


 私はしまったと思った。してやられた。


「お前、私を見つけたのはともかくとして、よく登ってこられたな。怖くはなかったのかい?」

「そうですね、怖かったです。けれどここで先生を捕まえないと、自分が永遠に鬼ですから。先生以外のネコ……、先輩ネコ達はみんな足が速くて捕まえられないのです」


 そうかそうか、と私は肯いた。


「と、いうことは私が足の速いやつらを捕まえる必要が」

「ありますね」

「ないな」

「は?」


 きょとんとする新人ネコの頭に私はぽんっ、と手を置いてから身を翻す。


「お前が鬼じゃぞい。私が今、タッチしたからな。私をタッチして油断していたな」

「せ~ん~せ~い~!」


 ほっほっほっ。私は屋根から飛び降りる。すとん、と軽く着地して上を見ると、新人ネコはたじろいだ。さすがにこの高さは飛ぶ気になれないようだ。

 私は新人ネコの恨めしそうな目線を背に受けながら、悠々とその場を離れる。

 ふむ。結姫という小娘に渡された日記に、このことを書いてやろうか。新人ネコの勇気と浅はかさ。ああ、でも私は字が書けないのだった。もどかしいな。

 尾をゆらゆらと揺らして、私は余裕綽々の笑みを浮かべながら、新人ネコが来る前にその場を離れた。

 なのに、


「先生、ひどいですよー」


 先ほどの新人ネコが目の前にいるではないか。


「む。面妖な」

「ひどいですよー」


 どちらに対しての「ひどい」かは分からない。私が鬼をひっかけたことへか、それとも面妖という言葉へかは。


「新人ネコ、お前よく降りられたな」

「あれくらい平気ですよ」


 ニコニコと笑う。


「それより先生、鬼の交代してくださいよ」

「いやだ」


 キッパリという。

 鬼の運動量は老体にキツいのだ。


「そんなぁ」


 新人ネコは困ったように笑った。

 彼も同じ過ちを繰り返したくはないのか、むやみやたらに襲ってはこない。

 とある民家の塀でそんなやりとりをしていると、見覚えのある片目だけが紅いカラスが一羽、目の前に止まった。

 見間違えようもない。

 烏之瑪だ。

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