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勝利の宴 Celebrate the Victory

 勝利を収めた後、抵抗軍は降伏したジューダス兵士達を監獄へ幽閉した。そして怪我人達には敵味方の区別なく手当が施された。アリアと女達の説得と尽力により、戦意を失ったジューダス兵達が大規模に虐殺される事は防がれたのだった。



 アリアとティアラを含めた女達の救護班が、戦闘後の広場に駆けつけて負傷したジューダス兵に手当を施していた時、何人かの男達に詰め寄られたものだ。


「どうして、そんな奴等まで手当してやるんだっ!? そいつらが、俺達にどれだけひどい事をしてきたと思ってるんだっ !!」


血にまみれた抜き身の剣で、アリアが癒しているジューダス兵を指して、一人の男が怒りに息巻く。



アリアは、その男をじっと見詰めた後、倒れている兵士に顔を向けて問いかける。


「あなたのお名前を教えて下さい。兵士様」

「俺は……カイン」


そして今度は、険しい顔をして見下ろす男に問いかける。


「あなたは?」

「俺は、ドイルだ。それが何だってんだよっ!?」


男は一層、苛立ちを隠せない。

さらにアリアは静かに問いかけてゆく。


「では、あなたに聞きます、ドイル様。あなた自身に、このカイン様が何をしましたか? あなたに傷を負わせましたか? あなたの家族をカイン様がこの手で傷つけたのですか?」


「それは……でも、そいつらは、俺達に……」

男は口ごもる。



 見上げるアリアの静かな瞳が、戸惑う男の目を捉えて離さない。男の苛立ちと困惑を、静かに全て受け止め、なおも問いかけてゆく。



「『そいつら』ではありません。この方はカイン様です。この人には名前があります。そして、あなたは『俺達』ではありません。あなたはドイル様です。『そいつら』とか、『俺達』などとくくるのは止めて下さい。私達一人一人に、美しい名前が与えられています。どうして、その素晴らしい名前を呼び合わないのですか? どうして、自分と同じ一人の人間として相手を見つめる事ができないのですか? そのような事を繰り返している限り、このような争い事は尽きる事がないのですよ。憎しみならば、全て私が受け取りましょう。そんなのものは手放してしまいなさい。そして、新たな道を探すのです。それが、生き残った私達の務めなのです。この闘いで命を落とした人々の、心からの願いなのです」



 静かに煌めくアリアの視線に耐えきれなくなった男は、その場を立ち去っていった。アリアと共に救護を行う女達は、顔を見合わせると大きくうなずいて微笑み、生き生きと怪我人達の手当を行っていくのだった。



救われたカインという男は、熱い涙を流していた。

凛とした少女に、彼は胸打たれていた。


 人間としての本当の強さを、この年下の修道女に教えられたような気持ちがしていたのだった。



 その一部始終をアリアの側で見守っていたティアラは、かつてウェインがこの少女を『聖女』と呼んでいた事を、心から納得せざるを得なかった。このアリアを含めた六人の旅人達の姿に、多くの大切な事を教えられたような気がするのだ。彼らと一緒に闘った日々を決して忘れないよう、その心に刻むように一心に、ティアラはかいがいしく負傷者の介助を行ってゆくのだった。



---------------------------------------------


その翌日。


命を落とした人々の合同葬儀が厳粛に行われたのち……

勝利に酔いしれる人々で、エドの街は大いに盛り上がった!



 ライル達は、あちこちで引っ張りだこだ。皆、この一行と共に酒が飲みたくてしょうがないのだ。老若男女問わず誰もが、彼らに対する深い感謝の想いを胸に抱いていた。彼らの力なくしては、この勝利は考えられないのだった。



 ライルとホークスの悪酔い振りに目が余ったアリアが二人を手厳しく叱りつけると、それをまた周りが面白がって喜ぶ。ギリアムは底なしでガンガン飲み続け、豪快な笑い声でどこにいてもわかってしまう。そんな彼らを取り囲んで、エドの街に古くからいる住民達も、移民の人々も一緒になって肩を組み、一行を囲んで酒を飲み、歌い、踊って騒いでいる。



 ウェインとティアラも、感無量だ。二人が長らく望んでいた人々の姿が、そこにあった。この二人もまた、人々のにぎやかな輪に囲まれている。真っ先に抵抗運動に身を投じたウェイン、そして生活に苦しむ難民・移民の人々に温かな手を差し出し続けてきたティアラにも、人々の感謝の気持ちが尽きる事がない。特に、ルックスの良いウェインは若い女達に大人気だ。



「いやあ、それほどでもないよ。みんなが頑張ってくれたからなんだ。影で支え続けてくれた、君達の力あってこそだ。本当にありがとう」



 にっこりと爽やかに笑いながら(白い歯がまぶしい)、娘の手を取り、その甲にキスをする。流れるような無駄のない動作だ(たいそう場数を踏んでいるのだろう)。手を取られた娘は頬を染めて照れている。次々と我先にと手を差し出す娘達を、ろくに顔を見もせずに、どんどんとさばいていくウェインだった。



そんなウェインが次の娘の手を取り、またもその甲に唇を寄せようとする。


が……


 その娘の手に、何やらどこかで見たような指輪がはめられている。それは、彼自身がある女性に手渡したはずの指輪だ。ハッと我に返って娘の顔を見上げると、そこにはひくひくと眉をつりあげている、恐ろしい形相をした女性が。



「ウェイン~~~っ !!!!  あんたって人は~~っ !!」


「はうあっ !! ティ、ティアラ……」


「やっぱり、コレは返す。こんなモンいるかっ !! 他の女にでもくれてやれっ !!!!」



 ティアラはウェインにもらった婚約指輪を抜き取ると、思いっきり彼の顔面に投げつけ、くるりと背を向け立ち去ろうとする。慌てたウェインが、思わず彼女の腕を握って留めようとする。



「ちょ、誤解だって、ティアラ! 僕が愛してるのは、世界でたった一人、君……」


ウェインが言葉を言い終える前に、彼の手を振りほどいたティアラの強烈な平手打ちが炸裂した!


「壁にでも言ってろっ !! 寄るなっ! 触るなっ!! 近づくなあっ!!!!」

「ティ、ティアラあ~~っ !!」



 ズカズカと出ていくティアラを、頬に手当てながら、よろよろと追いかけていくウェインだ。彼がその酒場を出たとたん、背後で人々の割れんばかりの大きな笑い声がとどろくのであった(やれやれ)。




ティナは、男どもが群がってきて対応に困ったので、酒場をなるべく避けていた。


しかし、街の女の子達が目聡く見つけては、たちまち、


『『ティナお姉様あ~~っ ♪』』


 と、黄色い歓声に飲み込まれてしまう。男達だけでなく、年下の女の子達にも大人気のティナであった。美しい女性でありながら、男達にひけを取ること無く肩を並べて闘い、炎の精霊サラマンダー達を自在に操るティナの凛々しい勇姿は、乙女達の心に鮮烈に焼き付いてしまったようだ。抜け目ない商人が、後にティナの姿を描いたブロマイドを売り出した所、たちまち売り切れる大ヒット商品になったそうだ。



『きゃ~っ!! ティナお姉様よっ! 本物、本物なんだからっ。うわっ、触っちゃった♪』


「う……」


 あわや、乱暴な乙女達の手でもみくちゃにされかけているティナだ。どさくさに紛れて、ティナの胸に触っている女の子までいる。


『ねえねえ、お姉様っ。お姉様って、いつから精霊が使えるようになったんですかあ?』

「え……ええっと、十四歳かな?」


『うわあ、すごいっ! ねえねえ、ずっとライル様とか、ホークス様とかと一緒なんですか?』

「えっと、ホークス達とはちょっと後かな? ライルとは傭兵をしてた頃から……」


『きゃ~っ♪ 聞いた、聞いた? 傭兵だって、傭兵! かっこいい~ !!』

「そ、そうかな?」



 圧倒的な乙女達のパワーに、ちょっとひいているティナだった。そんな彼女に、女の子達は容赦なく次々と興味津々で問いかけてくるのだ。


『一番昔から一緒にいたって事だとするとお~~、ライル様とは、恋人なんですよねっ? ねっ?』


目をキラキラさせながら、とんでもない事を尋ねてくる。慌てるティナだ。


「んなっ!? ……ち、違うわよ!! あんな男っ! 腐れ縁よ、腐れ縁 !!」


『あ、赤くなってる!』

『やっぱり、そうなんだっ。きゃ~っ! いいなあ~~♪』


「あ、あのねえ! あんた達……」



 その時、ライルとホークスが、何やら物欲しそうな顔をして近づいてきた。女の子達に囲まれているティナを見てかなり羨ましそうだ。それに気づいた乙女達が一斉に振り向く。たちまち歓声があがる。


『きゃ~、ライル様よ、ライル様っ !! あのロメオスを倒した聖剣士ライル様っ!』


『ホークス様だっ♪ 盗賊なんだって。でも、正義の盗賊なのっ! 作戦をほとんど全部ホークス様が考えたんだって。かっこいい~~!』



少女達の手をとって、その瞳を営業用スマイルと共に熱く見詰める馬鹿二人だ。


「おいおい、間違った道を行く女達は見過ごせなえな。一人くらいこっちへ回してくれよ、ティナ」


「そうそう。男の魅力ってやつを存分に教えてやるぜ、かわいいお嬢さん達」


『聞いた聞いたっ!? かわいいだって! うわあ♪』



そんな男どもの頭を、ティナの鉄拳がすかさず次々殴り飛ばした。


「こらっ! あんた達、いたいけな女の子達をかどわかすんじゃないっ!!」


「いてっ」

「痛てえぞ、ティナ。いいじゃねえか。ケチケチするなよ」


ボヤきはするものの、反撃できないライルとホークスだ。

(反撃などしようものなら、ティナは迷わずサラマンダー達を解き放つだろう)



その勇姿を目の前で目撃した乙女達は、さらに目を生き生きと輝かせている。


『きゃ~っ、殴ったわ、殴ったっ! すご~い♪』

『やっぱり、ティナお姉様が一番強いんだ』


「あ、あんたらねえ……」


 ある意味、乙女達の言葉は核心を突いているような気が……。実は一行の中で一番強いのは、寝起きか酔っぱらった時のアリアだという噂もあるが。


殴られて痛む頭に手を当てて、ライルがボソリと口を滑らしてしまった。


「全く、こんな暴力女のどこがいいんだか……」

「なんだとお~、ライルっ !!」

「いてっ!」


『きゃ~っ、きゃ~っ、見た見た!? また殴った! 素敵っ!! やっぱり、ティナお姉様が一番かっこいい~~!!』


再び、瞳を潤ませた乙女達にもみくちゃにされるティナ。


「あ~、もう、誰かなんとかしてよお~、コレっ!!」


さすがのティナも、彼女達のパワーにはお手上げなのであった。




 ノエルは最初だけ一応はつき合っていたのだが、たちまち降参して今はどこかへ行方をくらませている。あのように騒々しいのは、やっぱり苦手なのだ。



 それで、街の図書館に隠れていたのだが、嗅ぎ付けてきた書生達に見つかってしまった。彼らは、『賢人』と噂されるこの幅広い知識を持つ魔術師に、ぜひとも訊いてみたい事がたくさんあったのだ。結局、取り囲まれたノエルは質問攻めに遭ってしまい、あまり落ち着く事はできなかった。


「(まあ、お酒が無いだけ、ましですかね)」


そんな事を感じている。



口々に論題を吹っ掛けてくる元気な若者達に対して、ビシバシと熱い論議に没頭してゆくノエルだった。


---------------------------------------------


その後、なんとかティアラの怒りを解いたウェイン。


 二人は間もなく人々に祝福されながら結婚する事になる。旧来の街の人々と、難民・移民の人々との間の強固な架け橋として、様々に降りかかってくる難題に取り組んでゆくのだ。


 捕虜となったジューダス兵達は、街の復興と移民用の居住地の拡大のための工事に従事させる。その作業は、皆も兵士達と肩を並べて行ったという。その後、帰国を希望する者は解放した。この地に残る事を希望したジューダス兵もいたようだ。それを、人々は受け入れた。


(ノーラの踊りに鼻の下を伸ばした監獄の二人の兵士達は、ここで知り合った娘とそれぞれ結婚して家庭を築き、根を下ろしてしまったらしい)



 皆の圧倒的な推薦により、エド評議長に就任するウェイン。妻のティアラとともに、旧来の自治政治制度の改革に努めてゆく。ティアラはアリアの影響を受けて、社会的弱者に配慮した救済制度、施設、また教育の普及に努めた。二人は歴史に残る指導者として、人々の記憶に末永く語り継がれることになる。



 後世、この二人と六人の一行が闘っている姿を模した銅像が、街の中央広場の創建記念塔の前に設置される事になる。しかし、その銅像のライル達の姿は、実際よりもかなり格好良く、また美しく作られているようだ。


(『だ、誰、コレ?』ってくらい)

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