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蜂起!!  Uprising!!

 孤軍奮闘したティナの英雄的行為?によって、間一髪で潜入に間に合った馬鹿男達だ。もう鼻の下は伸びてはいない。それぞれ精悍な顔つきで、各自の役割を速やかに遂行してゆく。これでも選び抜かれた男達なのだ。その胸には熱い炎が燃えている。ノーラとティナにもらった元気も彼らに確実に勇気を与えている。(ティナの元気は消えかけているが)



 監獄を取り囲む石壁を乗り越えたライル達精鋭部隊は、最速で正面の鉄扉を目指す。そこを開けば、街に控える大部隊が一気になだれこむ手筈だ。



 ライル達の潜入に気づいた監視所の兵士が警笛を鳴らした。その音に、監獄からぞくぞくと武装したジューダス兵達が駆けだしてくる。


 事前に忍び込んで下調べしたホークスの情報では、その数は潜入部隊を軽く圧倒する数だ。表の味方達と合流できなければ、いくらライルやティナが奮戦したとて、生き延びる事は不可能だ。後には退けない、命を賭けた潜入だ。



 ノーラの踊りに夢中になっていた二人の兵士も、警笛に我に返った。慌てて監獄の中庭を見下ろすと、潜入したライル達と兵士達の戦いが始まっている。表のノーラ達も、その気配を察して素早く立ち去ってゆく。二人の兵士も、剣を抜いて修羅場へと駆け下りてゆく。




ライルの雄叫びがとどろく。そのバスタードソードがうなる。


 監獄の出入り口から次々と飛び出してくるジューダス兵達を相手に、大門を開ける役割を担った男達の方へ兵士達が辿りつけないよう、盾となってしのいでいる。ティナもその側でサラマンダー達を操り、紅蓮の炎で離れた所にいるジューダス兵達を焼き焦がしている。潜入部隊の半分以上が、ライル、ティナと共に防壁となって、鉄扉の門を開く男達に敵兵が近づけないようにしている。


「まだかっ!? もう、きつくなってきたぞっ!」


 ライルが横殴りに二人の兵士達を長剣の一撃で吹き飛ばしながら叫ぶ。その大振りの一撃の隙を狙った兵士の剣が、彼の背後にいるティナを狙って突き出されるが、すかさずライルが身体ごと兵士に突進して弾き飛ばして防ぐ。その背後から数人の兵士が襲いかかるが、ティナがキリーを呼び戻してその兵士達を燃え上がらせる。



 ライル、ティナの呼吸の合った闘い振りは見事だ。二人は傭兵時代から、このようにしてお互いにフォローしながら闘ってきた。言葉を交わさずとも、的確な攻撃、守りに身体が勝手に反応する。しかし、もうそれも限界に近い。



その時ようやく、ホークス達が鉄扉を開く事に成功した!

開いた扉を守るため、男達が一層奮戦する。


「旦那、ティナっ! 開けたっ !! こっちへ来てくれっ!」


 叫ぶと同時に、ホークスは一人の兵士の首筋を短剣で切り裂いている。別の方角から来たジューダス兵達が、開いた扉を閉じようと一気に詰め寄ってきている。ライル達の力がなければ、扉を守りきれない。



 じりじりと後退しつつ、ホークス達と合流するライル達。一同、開いた扉を背後に守るように半円をつくって奮戦する。しかし、潜入部隊の三分の一が既に命を落としてしまった。一人が倒れるごとに、生き残っている他の者達の負担は増え、扉を守る半円も小さくなってゆく。


 ホークスは背中に軽い傷を負っている。ライルもティナをかばった時に左腕に傷を負った。ティナは、男達が次々と盾となって彼女を守ってくれているため、まだ無傷だ。彼女はノーラに鼻の下を伸ばしていた男達を、胸の内で見直している。スケベで馬鹿な男達も、やるときはやる。男達は全員、女性のティナだけは、なんとしてでも守り抜く覚悟だ。



 闘い続けるティナの背中に、誰かがぶつかってきた。バッと素早く振り向いたティナが目にしたものは、ジューダス兵の剣が背中から突きだした街の若い男の一人だった。その男は目の前のジューダス兵の首を、残る力を振り絞って跳ね飛ばした。が、そこまでが限界だった。くずおれる。自分をかばってくれたその男を、ティナが泣きそうな顔をして抱き起こす。



「しっかりしてっ! もうすぐ味方が来るから。それまで頑張って!」


頭をティナの胸に預けられた男は、心に染み通るような笑みを浮かべた。


「ティナさん……あんたの胸、やっぱり最高だ。あったかくて、柔らかくて……。あんたは絶対、死んだらいけない……俺の事、ちょっとは覚えておいてくれないかな? 俺、強くて綺麗なあんたの事、大好きだったんだ……」


そう告げて、息をひきとった。ティナの瞳に思わず涙がにじむ。


「……あんたみたいにスケベなヤツ、絶対、忘れないんだからっ」



一度ぎゅっと男の頭を胸に抱きしめると静かに地に横たわらせる。

悲しみと怒りに身を任せ、ティナは闘うために再び立ち上がった。



 その時、割れんばかりの雄叫びと共に、エドの街の人々と移民の人々の大部隊が到着した! 戦況が一気に逆転する。圧倒的な人波が、我先にと突入してジューダス兵達を押し戻してゆく。



ライルが真っ赤に染まった長剣を高々と掲げて吼える。


「進めっ!! 蹴散らせっ! 一気にいくぞっ、みんなっ!」



 ライルの叫びに応えて、皆が一斉に雄叫びをあげながら監獄へ突入してゆく。地を揺るがせ、鼓膜が破れんばかりだ。ライル、ティナ、ホークス達も先頭を切って突進してゆく。



そして……ライル達は、ついに監獄を制した!



 牢から解放された人々が、次々と男達に導かれて街へと向かって駆けてゆく。衰弱した女達や老人、子供は男達が抱え、おぶって一団となって街に待機している受け入れ部隊へ必死で走る。武器を捨てて投降したジューダス兵士達を逆に監獄に押し込める。それらを見張る人員、および陥落させた監獄を新たなジューダス軍の襲撃から守る人員を配備したのち、残る手勢を引き連れてライル達は出撃する。ギリアム、ノエル、ウェイン達が同時に攻め込んでいる別の監獄へ応援として合流するためだ。



 もっとも大規模な監獄を見事に陥落させた抵抗軍は、その勝利によって意気盛んだ。この街にライル達が来る前は、誰かがこのような日をもたらしてくれないものかと思って細々と暮らしていた人々だった。しかし今は、それは自分達の力で闘って勝ち取るものなのだという事を心から悟っている。



『苦しい事を余儀なくされていても、そこから自分の力で這い上がろうとする人間を、神様は絶対に笑わない』


 そう伝えたライルの言葉は、ジューダス軍の不当な支配に苦しむエドの街の人々、そして日々の生活自体の苦しみも背負った難民・移民の人々の胸を打った。その言葉は、自身も苦しみ抜いて生きてきたライルの魂から発せられた、真実の重みがある言葉だった。


 その言葉を聞き、希望の光を胸に宿した人々が、さらに多くの人々へその光を次々と受け渡して広まっていったのだ。さらには実際に自分の力で闘う勇気を、闘い続けるウェイン達やライル達の姿から肌身に感じて教えられた人々であった。


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 別の監獄を攻めていたウェイン、ギリアム、ノエルを筆頭とする一団も、首尾良く人質達を解放する事に成功した。やはりライル達への加勢のために出陣する。


息を弾ませながら通りを駆け抜けるウェインが、ノエルに顔を向ける。


「ライル殿達は、うまくいっただろうか? あっちのほうが手強いはずなんだ。無事だといいけど」


「あの人達なら、必ず成功させてますよ、ウェイン。まあ、ライルやホークスが変な事に気をとられたとしても、ティナさんがなんとかしてくれてるでしょう」


 ノエルは彼らの計画を練っていた時から、まずそんなアホな事はないだろうとは思ったが、お馬鹿な男達の万が一の可能性をも予測して、念のために女性のティナをライル達の潜入組に回したのだった。さすがというか……


二人の会話が耳に入ったギリアムが、同じく走りながら告げる。


「うむ。ティナの闘い振りは、ワシですら目を見張るものがある。ライルとの息の合った闘いは、あやつらの力を倍以上のものにするのだ。それに、あの盗賊もいる。まず、大丈夫だ」


「いえ、そういう事ではないのですけど」


ノエルは口ごもる。

あまりにも馬鹿げた事で彼らが失敗していなければいいのだが……

(危ない所だったようだが)



ウェインは、心からの感謝のこもった眼差しを二人に向ける。


「ギリアム殿、ノエル殿。改めて礼を言おう。ライル殿達やあなた達の協力がなければ、僕達だけでここまで辿り着く事などできなかったに違いない。本当に、ありがとう」



 その言葉を聞いたギリアムの渋面が深くなる。先程から、一団が進むすぐ先に開けている広場の方から、不穏な気配を敏感に感じ取っていたのだ。数々の戦場を渡り歩いたギリアムだけが感じ取れる気配だった。


「そういう言葉は、ロメオスとやらを倒してからにせい……来たぞっ!」



 北の司令府から駆けつけた、ロメオス率いる残るジューダス軍が総出で広場に展開しつつあった。監獄から抜け出した兵士が、追っ手をかいくぐってロメオスに急を告げたのだ。



 知らせを受けたロメオスは、直ぐさま手勢の全てをつぎ込んで鎮圧へと出向いた。しかし、司令府からこの広場までの道中、通りのあちこちでワナや奇襲を受けて、かなり手間取ってしまった。



 駆け抜ける兵士達の足元で、通りを横切って置いてあった縄がいきなりピンと張られて、足をとられて転んだ一部の兵士に次々と後ろの兵士が折り重なって将棋倒しになってしまう。間髪入れず、両脇の建物の上から油がぶちまかれ、火矢が飛んできた。身体中燃え上がってしまう兵士達。曲者達を始末しようと躍起になって捜す兵士もいたが、辺りは既にもぬけの空だった。



 ある時は、なおも進むジューダス兵達に、どこからともなく矢の雨が降ってくる。盾で上方から降り注ぐ矢を防ぎつつ進むが、上に気をとられていたため、地面に仕込まれたワナに気づかなかった。土の道路が浅く削られて大小様々な鉄片が鋭いトゲを上に向けてまかれており、それに柔らかい土をふわっとかけて隠してあったのだ。まかれた尖った鉄片に気づかなかった兵士達の、厚い底をした長靴さえも貫いて足の裏に突き刺さる。痛みにもがく兵士達だ。



 そうして歩みの遅くなった軍隊の目の前に、今度は暴走する馬車が数台駆け抜けてゆく。馬車の前方に備えつけられた鉄製の枠や、車輪の軸から突き出している鉄のドリルによって兵士達を跳ね飛ばし、馬達の蹄鉄や馬車の車輪で踏みつぶして蹴散らして、たちまちそれぞれ散開して別の通りへ消えてゆく。



(これら全て、ホークスの提案したワナだ。彼自身は、『まあ、子供だましだが、ちっとでも時間稼ぎになりゃいいさ』と告げていたが、ジューダス軍にかなりの痛手を負わせているようだ。ホークスの思い出のナイフを折ったロメオスの代償は高く高くついている)



 そんな調子で、時間と兵士達の一部を失ったロメオスだった。今、広場の西から姿を現したウェイン達を見て、その怒りは頂点に達している。ロメオスが兵の指揮をとりやすいように、広場の中央にあるエド創建記念塔に登って、一斉に攻撃の号令をかけようとした時、広場の東側からライル達が駆けつけてきた。そちらへ対応する陣形を直ぐさま整え、ロメオスは号令を下す。



「行けっ! 選ばれし勇敢なるジューダスの民よ。愚かな民族に、身の程を思い知らせてやれっ! 優秀な人間に、愚かな人間は従っておればよいのだ。それが真の平和への道。勝利の神は、優秀なる我らと共に輝くのだっ!」



ウェインが雄叫びをあげる。


「これで決着をつけるっ! 僕達の大好きな街なんだ。僕達が守る。この街を馬鹿にする奴等を倒すっ! 僕達の事は、僕達で決めるんだっ! みんな、自由を取り戻せっ !!」



エドの街をめぐる決戦の時が、今、幕を切って落とされた!

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