闘う理由-ライル- Why of Battle -Ryle-
「御主人様! ノーラ達が、兵士達に言いがかりをつけられてるそうです。止めに入った座長さんが殴り倒されて、ノーラを連れて行こうとしてるって。たった今、シャロンおばさんが知らせてくれました!」
ウィルの知らせに、ティアラの表情が引き締まった。
「ノーラがっ!? わかった。すぐに行きます。お金を持って来なさい、ウィル。すぐに案内して!」
「はいっ!」
ウィルは直ぐさま、こうした時のために用意してある金袋を取りに行く。兵士達に袖の下を渡して、穏便に済ませるつもりなのだ。
すかさず、ウェインも立ち上がった。
「僕も行く!」
それを驚いたような顔で見詰めるティアラだ。
「あなた、追われてる身なんでしょ!? 何を考えてるのっ!」
「ノーラ達の一座とは、子供の頃からの友達だった。君も、僕も。みんな旅の話を聞かせてくれたり、色んな芸を見せてくれた。いい人達ばかりだ。放っておけない! 捕まってもいい。僕は行く!」
ウェインの仲間達も奮い立つ。
「やれやれ、ウェインには参るぜ。でも、そう来なくちゃな!」
彼らは一団となって勇ましく部屋を横切ってゆく。
その様子を見たライルも、なぜか立ち上がっている。
「俺もつき合うぜ」
その言葉に驚いたホークスがバッと立ち上がり、ライルの正面に立つ。
「お、おい、ライルっ! 何考えてやがるんだっ!? 馬鹿な事はやめろっ!」
立ちはだかるホークスの肩に手を置いて、ライルは漆黒の瞳を煌めかせる。
一同が見守る中、彼は静かに口を開いた。
「……なんだかよ。ジューダスの奴等と闘ってみて感じたんだけどよ、あいつら、胸くそ悪いぞ。『劣等民族』がどうのこうのって。今まで俺が生きてきたこと、その何もかも全部、馬鹿にされた気がした。なんかな……なんかムカつくんだ、あいつら。そんな奴等に何の罪もねえ人間が、さっきのアリアみてえに剣を突きつけられてるって思うとよ……やっぱ、ダメだ。俺は我慢できねえぞ。すまねえ、ホークス」
そう告げると、そっとホークスを押しのけてウェイン達の後につく。
呆気にとられるホークスだ。彼の常識では理解できない事だ。今まで目立たぬように皆が苦労してきた事が、これでは全て水の泡になる! 一体、この男は何を考えて行動しているのか? このエドの街に訪れた最大の目的を忘れてしまったのか!?
ちょうど門番のウィルが金袋を持ってやってきた。なにやら雰囲気が先程と違う事に気づいて、首をひねっているが。
ライルの頼もしい申し出に、ウェインが喜びの声をあげる。
「ライル殿、ありがとう。今は協力してくれる人が一人でもいてくれたら心強い。あなたなら、なおさらだ。ウィル、そこまで突っ走れ!」
「はいっ!(ウェインさん……やっぱり、あなたがいないと始まらないですっ!)」
突然駆けだしたウェイン達に、少し戸惑っていたティアラは出遅れた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! ウィル、私を置いていく人がありますかっ!」
ライルも加わって、たちまち彼らは部屋から駆け去ってゆく。
それを見たギリアムは、居ても立ってもいられない。
「ワシも助太刀するぞ。ジューダスの奴等には、もう我慢ならん!」
「おい、おっさん、やめろっ! 余計な事に首を突っ込むな!」
立ち上がるオヤジに、ホークスが後ろから肩に手をかけて留めようとする。しかし、頑固オヤジはもう止まらない。その手を振り払う。
「ふんっ! 筋が通らぬ事を目の前にして、ワシは黙って通り過ぎる事などできぬわっ! この剛爆斧で、ジューダスどもを蹴散らしてくれる!」
ズカズカと追いかけて出ていってしまった。
ホークスが怒りに顔を赤らめている。
「くそっ、頑固もほどがあるぜ! 何もかもぶち壊しだっ!! ライルの野郎も、いい加減にしやがれってんだっ!」
「はあっ。あいつらだけだと、何をしでかすかわかんない。ホント、しょうがない男達ねえ」
どこかうれしそうにボヤくと、ティナも後を追って走ってゆく。
「ティナっ! ……ったく、お、おい、嬢ちゃんまで!?」
今度はアリアも急いで部屋を出ていこうとしているのだ。
「すみません、ホークス様。怪我をなさる方が出そうですから!」
パタパタとティナの背中を追ってゆく。
こうして部屋には、常識をわきまえた盗賊と魔術師が残される。
「ノエル……お前はわかってるだろう? 俺は絶対行かねえぞ。俺だけでもサカムビットの居所を突き止める」
そんなホークスを見ながら、気苦労の多い魔術師は心を決めて小さな溜息をつく。
「ふうっ。仕方のない人達です。ホークスが行かないとなると、あの人達だけでは心配です。行くしかないでしょうねえ」
修道服姿の少女を見失わないうちに、ローブをはためかせながら急ぎ足で出ていってしまう。やきもきするホークス。
「くそっ、どいつもこいつも……勝手にしやがれっ!」
一人取り残されてしまった良識ある盗賊だった。アリアに治してもらいそこねた肩の痛みに顔をしかめ、ブツブツと文句を言いながら、彼も部屋を後にした。
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現場に駆けつける間に、ノエルがこれまでのホークスの調査の経緯と、その情報から得られる推測をライルとアリアに簡潔に説明した。ライルの表情は引き締まり、アリアは不安そうだ。しかし、今は目の前に起きるであろう闘いに集中する。
難民達の新市街地を結ぶエドの街の目抜き通りの一角に、人だかりができている。小さな旅芸人の一座らしき馬車の周りを野次馬が遠巻きにしている。その身なりからすると、エドの街の住人と移民達とが半々といった感じか。
さらにその内側を十数人のジューダス兵達が囲み、数人の女性達を乱暴に連れて行こうとしている様子だ。その側には中年の男と数人の若い男達が血を流して倒れている。おそらく、止めに入った一座の団長と、その若い旅芸人達だろう。
ジューダス兵の一人がニヤニヤと、後ろ手に拘束されている褐色の肌をした若い娘の唇を奪う。踊り子のような服に身を包んだその娘は、泣きそうな顔をしながらも、ぎゅっと口を引き結んで耐えている。
それが視界に入ったウェインの顔が怒りに歪む。
「ノーラに汚い口を近づけるなっ! ジューダスの腐った犬どもがっ!」
先頭を行く門番ウィルをあっという間に抜き去って、キラリと光る剣を抜いて突進してゆく。
「ちょっとウェインっ! ここは私に任せなさい! 危ない事はやめて!」
なんとか穏便に事を済ませようと思っていたティアラが、死に物狂いで駆ける。
それに気づいた先程の娘が、必死で声を張り上げる。
「ウェイン! ダメ! 逃ゲテ!!」
ジューダス兵達が、武器を抜いて身構える。小隊の隊長らしき男が部下に命じる。
「身の程知らずが。やはり劣等な血は適当に間引く必要がある。おい、お前。ロメオス将軍に知らせろ! 徹底的に叩きのめして、我らに従う事を覚えさせるぞ。我ら選ばれし民族が頂点に立って管理してやらねば、劣等なお前達など、再びお互いに醜い争い事を始めるばかりだからな! それが真の平和、争いのない世界への道なのだ」
隊長に命じられた兵士が一人、たちまちどこかへ駆け去ってゆく。
『ウェインだ! ウェイン達が来たぞ!』
『ティアラさんもいるぞ!』
遠巻きに様子をうかがっていた人々が、ウェイン達のために道を大きくあけ、さっと輪が広がる。危険を感じた人々は家へ閉じこもり、恐る恐る成り行きを見守る。
ウェインは雄叫びをあげながら、ノーラと呼ばれた踊り子に迫っていた兵士と刃を合わせる。駆けつけてきたウェインの仲間達四人も、それぞれ兵士達と闘いを始める。もうティアラが止める隙もない。彼女は放り出されたノーラの肩を抱き、男達の修羅場から遠ざかって一座の馬車の影へと身を隠す。駆けつけてきたアリア、ティナと共に、倒れている団長や団員達を安全な場所へと移す。
アリアはすかさず彼らに癒しの技を施している。ティナはサラマンダー達を召還し、傷ついている者達や、アリア達の盾となって立ちはだかる。向かってくる兵士の一人が、たちまちサラマンダー達の炎で燃え上がった。遅れて合流したノエルもティナの横に並び、『光の矢』でウェイン達を援護射撃してやっている。
ライル、ギリアムは、それぞれ数人の兵士達を一度に相手している。その闘い振りは見事だ。こうした乱戦は二人が最も得意とするところだ。
前後挟み撃ちにされたライルは、どうやってか一瞬にして前後の相手を同時に切り払っている。ライルの正面から相手した兵士には、ライルが自分の懐近く飛び込んできて、いきなりその姿が視界から消えたところまでしかわからない。下方からの強烈な一撃で、腹部から胸まで鎖帷子ごと斜めに斬り裂かれてしまう。
後ろから襲いかかってきた兵士は上体を袈裟懸けに斬られ、信じられないといった表情をして倒れてしまう。彼にはライルの技の正体がわかったものの、もう誰にもそれを告げる事などできない。
これはライルが傭兵時代に、数々の実戦の中で自然に編み出した独自の技だ。
前後挟み撃ちにされる瞬間、まずは前方の相手の懐めがけて素早く飛び込み、長剣を肩に乗せるようにしてぐっとしゃがみ込む。瞬時に腰を低くしたまま反転して後方に振り向き、後ろからの相手に一歩踏み込んで、自分の背後に伸びる長剣を斜めに半円を描くようにして大きく振り抜く。
こうする事で、一刀のもとに前方にいた敵は斜め下方からの刃に倒れ、後方からきた敵は上から斜めに袈裟懸けに斬られる。
並はずれた足腰の強靱さと素早さ、そしてバランス感覚と柔軟性、長剣を軽々と操る人並み以上の腕力がなければ、このようにはいかない。
ギリアムは剛爆斧で兵士の剣をかち上げつつ身を寄せ、隙ができた相手の足に自分の片足を引っかけて払い、バランスを崩す。足元のもつれた相手にすかさず、下からすくいあげるようにして振り子のように剛爆斧を振り抜く。
これはギリアムの得意技の一つ、『麦穂刈り』だ。下からすくい上げるようにして斧を振り抜く動作が、大鎌で麦の穂を刈る様子に似ているので、この名をつけたそうだ。
御前試合でライルにこの技を仕掛けた事もある。足を払われてバランスを崩されたライルは、それに逆らわずにトンと片足で地を蹴って空中で反転しながら、横殴りの斬撃を加えてきた。下方からの剛爆斧の軌道を瞬時に中段へと切り替えて、それを受け止めたギリアムだった。
腰の辺りから斬り裂かれた兵士は剛爆斧の勢いに身体ごと吹っ飛ばされ、ギリアムに向かってきたもう一人の兵士に衝突する。その兵士はもんどり打って地に転がる。髭のオヤジは瞬時にバッと足で踏みつけて、その兵士の剣を持つ腕をへし折った。悲鳴をあげて悶絶するジューダス兵を放っておいて、新たな敵と対峙してゆくギリアムだ。
さすがに二人の戦闘能力はずば抜けている。一対複数の闘いを得意とするライルとギリアムだった。少々の怪我を負ってはいるものの、どうという事もない。
この二人が半数以上のジューダス兵を叩き伏せた頃、ウェイン達も片をつけた。ウェインは背中に傷を負ってはいるが、なんとか一人で歩いている。ウェインの仲間達も傷を受け、その内の二人は重傷を負って地に横たわっている。門番のウィルの怪我もひどい。
すかさずアリアが彼らに癒しを行っている。この少女は、息のあるジューダス兵士達にも癒しを施すつもりである。傷ついている人間に敵も味方もないのだという信念があるのだ。




