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盗賊軍師と探偵魔術師 Thief Tactician & Wizard Detective

ホークスが説明を終えた。


「っていうこった。ドジったぜ」


凍える両手を暖炉の前でかざしているホークスは、忌々しく舌打ちしている。



「なるほど。そういう事だったのですか。しかし、これはもしかして、この街の盗賊ギルドはサカムビットの手に墜ちている可能性が高いですねえ。完全に支配されているとも限りませんが、少なくとも裏につながりはありそうですね」


勉強していた小卓を背にして、イスに腰掛けているノエルの目がキラリと光る。


「まあな。やっぱ、そういうことだろうな。俺もそう思うぜ。……んで、ノエル。探偵魔術師の名推理を他にも聞かせてくれよ」


「盗賊軍師殿には負けるとは思いますが。それでもよければ」


ニヤリと笑いあう盗賊と魔術師だ。

こうした事では、お互いにその実力を認め合う間柄である。



 そんな二人に、ギリアムとティナは身を乗り出して耳を傾ける。様々な出来事を通じて、この参謀役の二人に接してきた彼らにとって、その言葉にはかなりの信頼をおいている。



「確信できる事は少なく、あくまで推測の域を出ないということを、最初にお断りします」


ノエルがまずは、そう切り出す。

生真面目な顔が、一段とまた真剣になっている。



「まずは、この街の盗賊ギルドが、『霧の華』に関係する組織、もしくはその首謀者自身と何らかのつながりがある、という事です。「手を退け」という警告、そしてそれでも『霧の華』に関する情報を集めていたホークスが、その翌日には何者かに命を狙われたという事実から、間違いないと思います。ギルドから連絡を受けた『霧の華』の組織に属する暗殺者が、嗅ぎ回るホークスを抹殺しようとしたと私は考えます」


ティナもうなずく。


「そうね。私もそう思う。偶然にしちゃあ、ちょっとタイミング良すぎるもの」


「うむ。そうだな。すると、この街の裏稼業を行っておる者達は皆、サカムビットの手の者だという訳か?」


 ギリアムはぎゅっと眉をしかめている。必要とあらば、このオヤジは今すぐにでも盗賊ギルドへ乗り込んで剛爆斧を振り回すつもりだ。ジューダス軍の顔色をうかがいながら、閉じこもっているのは、もううんざりなのだ。



「いいや。そうとも言い切れねえ。もしそうなら、俺にわざわざ警告を与えたりはしねえさ。こっちを警戒させるような言葉をかける必要なんてねえ。探りを入れてる俺が喰らいつきたくなるような偽情報を与えて泳がせて、罠にかけて殺せばいいだけだ」


淡々と答える盗賊だ。この男は、闇に満ちたこうした思考を直ぐさま弾き出す事ができる。闇を知る者だけが、裏の世界で生き抜く事ができるのだ。



「ええ、ホークスの言う通りだと私も思います。私の見るところ、盗賊ギルドはかろうじて面目を保っているものの、『霧の華』の裏組織の力に抗する事ができないといった所なのでしょう。警告を与えた男の心理を察すると、それは彼の盗賊としてのプライドの現れだと感じます。しかし、『霧の華』を嗅ぎ回る男の存在をサカムビットの手の者達に知らせない訳にはいかない。そんな歯がゆい思いが現れた行動だったのではないでしょうか? その男自身、もしくはギルドの盗賊がホークスを襲ったのではなく、その曲者は盗賊ギルドから知らせを受けた、サカムビット配下の腕利きの暗殺者なのでしょう」


腕組みをしながら指摘する魔術師に、盗賊も大きくうなずく。


「俺と同じ結論だな。俺もそう思ってた。襲ってきた男は盗賊あがりの暗殺者って感じはしなかった。あれは何年もかけて暗殺者として育てられたプロだ。全く殺気を感じねえんだ。少しでも殺気がありゃあ、どっから攻撃してきても感じ取れる自信はあるんだけどよ。なかなか、ああはいかないもんだぜ」


受けた傷に手を当てながら、しみじみと告げるホークスだ。

(殺気に満ちたティナの拳は、どうして避けられないのだろう?)


探偵魔術師は、さらに推測を重ねてゆく。


「『霧の華』の製造所が、この街にないというのは当然でしょう。こんなに人が多い街中にそのような大規模な工場を造るはずがありません。もっと人里離れた場所で作っている事でしょう。それはそれとしましても、サカムビットがその製造所に居るとは限りません。むしろ先程の情報からすると、このエドの街のどこかにサカムビット本人が潜んでいるのではないかと、私は推測しています」



ノエルの告げる言葉に、ギリアムとティナは目を見張る。


「おぬし、それは本当なのか!?」

「どうして、そんな事が言えるの?」

「おそらくは、ですよ。あくまで推測に過ぎませんが」


盗賊はニヤリと笑って同意する。


「いいぜ、さすがだ、探偵さん。やっぱり俺もそう思ってたんだ。この街に『霧の華』を牛耳るサカムビットの野郎がいると仮定すれば、『霧の華』の小売人の数が妙に少ねえのも納得できる。奴が裏の顔を知られたくないのだとすれば、お膝元じゃあ派手に売りさばく事はしねえはずだからな。それで小売人達のレベルが高いってのも、うなずける。選りすぐりの腕利きだけを身近に置いておきたいんだろう。たとえそれが、下っ端の小売人だとしてもな」



 ノエルも微笑みながらうなずく。彼の思考通りの言葉が、この盗賊から発せられたのだ。ホークスとこうした事で論じ合うのは、彼の脳細胞を楽しませる。魔術アカデミーの重鎮達の中では、彼とこれほど呼吸の合う推論や仮説を展開できる人物は、主席一人しかいない。


 この盗賊と、もしも魔術について深い所で論じ合う事ができたのなら、などど感じてしまうノエルだった。それはどれだけ素晴らしく心躍ることだろう?


「それに、気になる事がもう一つあります」


「おお、気が合うねえ、ノエル。俺もだ。ホントに、魔術師にしとくのは、もったいねえなあ。盗賊になってたら、さぞかし立派になって、どこかの盗賊ギルドの長にでもなってたろうに。なんなら、今からでも俺が鍛えてやるぜ」


どうやら、盗賊ホークスもノエルと似たような事を感じていたらしい。


「私の貧弱な身体では、とても務まりませんよ。ホークスこそ魔術を志していたなら、私を追い越しているかもしれません。どうですか? 初歩の呪文から修得してみては」


「俺の頭じゃあ絶対無理だ。あんな小難しい本、最初のページ見ただけで爆睡する自信がある」


「う~ん、どうやらそれぞれの道を歩いたほうが良さそうですねえ」

「そういうこったな」


再び、ニヤリと笑い合う男二人。



取り残されているティナが頭を掻く。


「あのさあ~、二人の世界にお邪魔しちゃって悪いんだけど、さっさと話を進めてよ。もどかしいんだから! 『もう一つの気になる事』って、なんなの?」


ちょっと慌てる魔術師だ。ティナの苛立ちは怖いのだ。


「う、すみません。ええっと、では手早くいきましょう。サカムビットとジューダス軍が、裏でつながりがあるのではないか、という事なんです」


「そういうこったな、多分。ちと厄介かもしれねえぜ、これはよ」


ギリアムのしかめつらが深くなる。


「どういう事なのだ? 簡潔に言うのはいいが、一通りは説明せんか!」


「エドの街の人達から巻き上げた金とは別の種類の金が、ジューダス軍にどこからか渡っているという事でしたね? 特別な船を使って、定期的に。裏を返せば、エドの街からの横暴な租税徴収とは別枠で、ジューダス軍に定期的に金を渡している組織があるということです。この街がこの敵国の奇襲を受けた際、何者かによる手引きがあったと聞きます。その内通者が、もしかすると『霧の華』を独占しているサカムビットなのではないでしょうか? 裏で、何かの取引をしている可能性があります。ジューダス王国に何らかの庇護や利便を図ってもらっている見返りとして、軍事資金を提供していたり……」



 生真面目な顔をぎゅっとしかめて、ノエルは腕組みする。彼の頭の中には、さらに憂うべき可能性が秘められていた。単に闇商売の裏組織と敵国とのつながりだけでなく、その裏にある国家規模の陰謀が。その思考を、今度はホークスが引き継いだ。



「ああ。さらには、ジューダス王国がこの国を弱体化させる一つの手段として、『霧の華』を独占するサカムビットと手を結んでるのかもしれねえ。敵国内に麻薬を浸透させることでな。東の方で、似たような陰謀を小国に仕掛けられ、陥落した大国があると聞いたことがある。十数年くらいかけて徐々に麻薬を浸透させてゆき、王族、貴族、官吏に至るまでクスリ漬けさ。国家を扱うまともな判断ができる奴等が消え、機能が麻痺した大国はあっけなく負けた。まあ、これはもっと不確実な憶測に過ぎねえがな」



 ホークスは舌打ちする。憶測に過ぎないのだが、なるべく外れて欲しいものだと彼自身は思っている。この推測が仮に事実だとしたら、サカムビットだけでなく、ジューダス軍も相手にする可能性が出てくる。この六人で闘いを挑むには、あまりにも強大な相手だ。


その事はティナも理解した。


「ふ~ん、なるほどね。もし、それが本当だとしたら……確かに、一筋縄ではいかないかもしれない。あのダミアンよりタチが悪いわ。国が絡んできてるとなると……」


「ふんっ、この街からジューダス軍を追い払い、サカムビットとやらを突き止めて倒すまでだ。ちょうどいいわい。あやつらは、いつか叩き出さねばならんのだからな」


ギリアムは勇ましく言い放つ。

やはり敵軍の占領が気にくわないのだ。

そんな頑固オヤジに、ホークスはあきれている。


「あのなあ、おっさん。その剛爆斧でこの街の敵軍全部と闘うつもりじゃねえだろうな?」


「わかっておる! だから、おぬしら。早くワシが剛爆斧を振るえるようにせい!」


 無茶な注文を要求する髭オヤジだった。別に、酒が入っている訳ではないが。頑固な騎士に、常識をわきまえた盗賊が大きく溜息をつく。



「はあっ、簡単に言ってくれるねえ。俺としては、下手にジューダス軍を刺激したくはねえぞ。今は、余計な事に首を突っ込むのは避けるべきだ。こっちは六人、この街のジューダス兵士は数千人以上はいるんだぞ。とにかく、この街にいる可能性が高いサカムビットの野郎の居所をつかんで、その隙を突いてなんとか俺達の力で闘いを挑めるやり方を練り上げることだ。ジューダスの奴等は、放っておくべきなんだ。まあ、おっさんの立場と気持ちもわからねえでもねえが、ここは押さえろよな」


「ううむ……」



 盗賊の正論にギリアムが悩んでいた時、部屋の扉をノックして入ってくる者がいた。宿屋のオヤジである。


「失礼しますぜ。なんか、スチュワート家からの使いの人が来て、あんた達を下で待ってる」


「スチュワート家って……確か、移民や難民達に味方したっていう家だったかしら?」


「そのスチュワート家のティアラさんからの使いでさあ。まあ、とにかく下へ降りてきてくだせえまし」



 一同階下に降りると、若い男がさっと立ち上がって深々とお辞儀をする。門番のウィルだ。そして、年長者のギリアムに、ライルとアリアからの手紙を渡しながら事情を説明した。ジューダス兵士との騒動に巻き込まれたため、現在スチュワート家の屋敷にライルとアリアがかくまわれている事、そしてジューダス軍の追求の手がなかなか収まらず、しばらくの間ライル達が屋敷を出られないので、一同のほうからスチュワート家のほうに出向いてきてくれないかという事だった。



 四人はライル達の口から直接事情を聞き出したい気持ちでもあり、また怪我をしたホークスをアリアに早く癒してもらいたい所でもあった。承諾して、門番ウィルに導かれるまま、スチュワート家へと向かった。

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