キャロルお嬢様 Lady Carol
日が経つにつれ、ますますキャロルとジュエルは仲良くなっていった。
二人で街に買い物に出かける約束をして、ジュエルの自室で、女性二人が着ていく服を選んで、楽しそうにはしゃいでいる。
「ジュエルさんって、何着ても似合うよ。いいなあ」
キャロルが羨ましそうに、この年上の女性を見詰める。自分は勉強しに来た立場上、魔術師としての制服である、アカデミー指定の地味なローブを二枚ほど持参してきただけのキャロルである。高価で品の良い清楚な感じの様々な衣服を試し着しているジュエルが、とても魅力的にまぶしく見えるのだ。
ジュエルはにっこり笑いかける。
「何言ってるの。キャロルだって、ちょっと着る服を変えるだけで、ずいぶん雰囲気が変わってくると思うよ」
「そうかなあ?」
「そうなのっ! ってことで……捕まえたっ!!」
ジュエルが瞳を妖しく光らせて、キャロルに飛びついてきた。
「きゃっ、な、何!?」
ジュエルはそのままキャロルをベッドに押し倒して、馬乗りになる。
「さあさあ、脱ぐのじゃ。その身体、じっくりと眺めてくれる。ふふふっ」
彼女を押さえつけて、その服に手をかけて、どんどん脱がしていってしまう。とうとうキャロルは下着だけになってしまった。彼女の身体は、どこか少し幼さが残っているものの、なかなかどうして、立派なものだ。
「よしっと。じゃあ、今度はキャロルの服を選ぼうよ。私のを貸してあげる」
「えっ!? い、いいの?」
「もちろん。好きなのを着ていいから。私も一緒に選んであげる。ノエルを驚かせてやろうよ」
「うんっ!」
うれしさに瞳をキラキラさせているキャロルの手を取り、引っ張り起して立たせてやる。そのまま豪華なクローゼットまで彼女を導く。ずらりと並ぶ色んな服に、うわあと目を輝かせているキャロルを、にっこりとジュエルは見守っている。
ああでもない、こうでもない、
これがいい、あれもいいなあ……
これが似合うよ、でもこっちも綺麗に見えるし、
あれなら胸が大きく見えるの……。
『きゃ~、ジュエルさんってば! コレって、胸がガラ空きじゃないのっ!』
『ふふっ、コレだったらノエルだってイチコロよお。ほらほらっ、悩殺ポーズしてみてよっ。谷間、谷間っ!』
(オヤヂか、あんたはっ!)
『ほいっと。ど~ぞ、お客さん。ダメです、ダメです! 踊り子さんには手を触れないで下さ~い』
(どこでそんな言葉を……)
『うわあ、こりゃたまりませんなあ、おぢさんは』
(やっぱり、オヤヂかいっ!)
といった風に、きゃっきゃっとはしゃぐ二人。
……長いっ! 長いぞっ!!
長すぎる時間が経過してゆく……まあ、女性二人は楽しくてしょうがないのだろう。しかし、待っている人間の事も心の片隅にでもいいから、置いておいて欲しいものである。(誰が待ってるんだか)
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やっとの事で着ていく服が決まり、二人は階下へ降りる。書室に閉じこもっているノエルに二人で買い物に出かける事を告げ、弟子の外出許可をもらう事にする。まあ本当の目的は、そうでないのは明らかだ。
書室のドアの前に立つ二人。キャロルはもじもじとして、自分ではドアを開けようとはしない。さっとジュエルが進み出てノックする。キャロルは思わず彼女の後ろに隠れてしまった。かなり不安と恥ずかしさを感じているらしい。
「(大丈夫だって、キャロル。とってもかわいいから)」
「(で、でも……)」
「(いいから、さ、行くよ~!)」
「(ちょ、ちょっとだけ待って! ……あ”)」
「お邪魔します、ノエル」
ノエルは、ちょうど一息ついていたところだった。大声でジュエルが呼び直す必要もない。すぐさまノエルがジュエルのほうに振り向いた。
「やあ、ジュエル。おや、お出かけのようですね」
ジュエルが背後に隠れるキャロルの手を掴んで、ずいずいと書室へ入ってゆく。
「そうなの。キャロルと一緒に、ちょっと街へ買い物に出かけてきます。一番弟子をお借りしますね、ノエル。いいですか?」
「今のところ私のほうは、キャロルに特に用事を頼む事もないですから。こちらこそ、弟子をよろしくお願いします。たまには羽を伸ばして、気分転換するのもいいと思います。せっかくですから、楽しんでくるといいですよ、キャロル……キャロル?」
キャロルは必死でジュエルの背中に隠れるようにしている。そんな様子の弟子を、ノエルが不審そうに見詰めている。
「は、はい……そうします、お師匠様……」
ジュエルの背後から、か細い消え入りそうなキャロルの声がする。ノエルの記憶の限りでは、彼女がこのような声を発したのは、今まで全く無い。『元気なのだけがとりえ』と、自他共に認めるキャロルである。
気になって、彼女の顔をジュエルの肩越しにノエルが覗き込もうとすると、その気配を敏感に察知したキャロルは、たちまちさっと反対側に回ってしまう。ジュエルは吹き出しそうになるのをこらえている。
「どうかしたのですか、キャロル? おかしな人ですねえ」
ノエルが不思議そうに首をひねる。ジュエルはニヤニヤと告げる。
「あのね、キャロルってば、照れてるみたいなの」
「そ、そんな事ないですっ!」
キャロルの抗議の声があがった。相変わらず、ジュエルの背中越しである。
「じゃあ……ほらっ!」
「わわっ!?」
いきなりバッと身を翻して、ジュエルはキャロルの両肩に手をかけて、ずいとノエルの前に差し出す。そのキャロルの姿に、彼は目を見張った。
キャロルは襟元の端にレースの入った、柔らかで上品なシルクのブラウスを着て、その上から、胸の前から編み上げになった明るい茶色のチュニックを重ねている。そして下は繊細な刺繍がさりげなく施された、ヒダの多い、裾がレースになった長めの白いスカートを身につけている。足元はくるぶしの少し上まである編み上げのかわいらしいヤギ革の靴を履き、襟元からのぞく胸元に、こじんまりとしたエメラルドのネックレスが控えめに煌めいている。くせのある前髪は、小さな花を模した玉石のちりばめられたカチューシャで品良く上げてある。
薄目の色合いのルージュを薄く唇にひいている以外は、全く化粧などしていないのだが、その様子はどこからみても、年頃のかわいらしい良家のお嬢様だ。
そんな彼女は、頬をほんのり赤らめて、恥ずかしそうにノエルの前でうつむいている。彼の目をまともに見られないらしい。落ち着かないのか、組み合わせた指をもじもじと動かしている。そうした恥じらう仕草も、初々しくノエルの目に映ってしまう。
「どう、ノエル? ほらほらっ、なんか言いなさいってば」
ジュエルがなにやら自慢げに、ニヤニヤとノエルの反応をうかがっている。
「これは……驚きましたねえ」
思わずそうつぶやくノエルに、ジュエルが顔をしかめている。
「そうじゃないでしょっ!(ホメてあげなさいよっ!)」
キャロルの背後で、口だけパクパク動かして彼女が必死でノエルを促す。かなり不安そうに、キャロルが彼の顔をチラチラとうかがっている。
「あ~、コホン。似合ってますよ、キャロル」
「……ホ、ホントですか?」
それでも心配そうにキャロルは尋ねる。
その後ろで、ジュエルが少し険しい顔をして、さあ、といった風にノエルにうなずいている。
「ええっと……そうです」
キャロルの顔が、みるみる明るくなってくる。喜びで輝かんばかりである。その背後で、ようやく顔を和らげてホッと軽い溜息をつくジュエルであった。
「(ノエルってば、もうっ! ヒヤヒヤしたんだからっ)よかったね、キャロル」
「うんっ」
キャロルはとてもうれしそうだ。
そんな彼女を、ノエルが微笑みながら見詰めている。それにしても……と改めてキャロルの姿に舌を巻いているノエルであった。身につけるものや、その仕草が少し変わるだけで、これほど違った印象を受けるものだという事に、『女性とは不思議なものですねえ』と、何やら感慨深げに胸の内で思っている。
「じゃあ、私ジュエルさんと出かけてきます、お師匠様」
元気の戻ったキャロルが、少し気恥ずかしげに、ぺこりとノエルに頭を下げる。本当に、かわいらしいお嬢様といった風である。
「はい。了解しました。『キャロルお嬢様』」
にっこりと彼女に微笑むノエル。キャロルは目を丸くして顔をあげるが、微笑むノエルと目が合ってしまう。みるみる耳まで真っ赤になってしまったキャロルは、何も言う事ができずに、慌ててくるりと背を向けると、もう逃げるようにパタパタと小走りに駆け去っていった。ジュエルもにっこりとノエルに視線を投げかけて、そんなキャロルの後を追って書室を後にする。
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書室を出てすぐに所に、キャロルが壁に身体をぐったりと預けて息を弾ませていた。もう心臓が飛び出してきそうなくらい、どうしようもなく暴れてしまっているキャロルであった。そんな彼女に、ニヤニヤしながらジュエルがすり寄ってくる。肘で軽く彼女をこつく。
「ね、大丈夫だったでしょ? もっと自信持っていいんだから……『キャロルお嬢様』」
ジュエルのその言葉に、ノエルの言葉が胸にこだましてしまったキャロルは、少し収まりかけていた鼓動がさらに速くなってしまう。
「か、からかわないでくださいよう~。もうダメ……」
「ふふふっ。もうちょっといじめてやりたかったけど、今はこれくらいにしといてやるか。さ、行こうよ、キャロル!」
ジュエルはキャロルの手をぎゅっと握って、彼女を壁から引き剥がした。
「うんっ!」
華やかな女性二人が、こうして連れ立って街へと繰り出してゆく。しかし、二人が屋敷を出てゆく時から、怪しげな男が二人、そっと彼女達の後をつけていった。




