箱入りお嬢様 Sheltered Girl
ライルの偽の葬儀を行った日に戻る。
葬儀を終え、秋雨に濡れてしまった一同だ。冷えてしまった身体を温め、乾いた服に着替えるため、ティナの提案で一緒に風呂へ入る事にした女性陣であった。
湯煙のする大浴場に、女性三人のまぶしい姿がある。
「う゛~い。たまんねえな、またこれが。それにしても、つくづく、ここのお風呂っていいわねえ。いつもこんなお風呂に入れるジュエルが、うらやましいわあ」
ティナは入る瞬間、なぜかオヤジのような声をあげながら、さも気持ちよさそうに、う~んと伸びをする。奔放な感じでくつろぐ彼女は、どこか野性的な感じもする豊かな身体が魅力的だ。ここハーディー家でしばらく過ごすにつけ、風呂好きなティナは屋敷の大浴場が一番のお気に入りになっていた。
湯舟に浸かるアリアも、にっこりとする。
「本当ですね。私のいた尼僧院のお風呂も広いんですけど、こちらはもっと大きいです。それに、とても豪華なお風呂場です。ライオンさんが、なんかかわいいです」
口の所から湯が出てくる、ライオンをかたどった給湯口を面白そうに撫でているアリアだ。かなりリアルなライオン像を、『かわいい』と言う感覚はよくわからないが。女性同士だというのに、恥ずかしいのか、彼女はタオルを巻いて湯に浸かっている。どこか幼げな体つきがその曲線からうかがえるものの、立派な女性だ。長い蜂蜜色の髪を湯に浸からないように結い上げてある。普段は見えないそのうなじが、なかなか色気を感じる。
ジュエルは首をかしげる。彼女も、少しだけ自然にウェーブのかかったロングの髪をくるりと上げてある。
「う~ん。ずっとここに住んでるから、なんかよくわかんないや。でも、気に入ってもらえたんなら、うれしいな」
ついこの前、二十歳になったばかりのジュエルだ。ちょうど、ティナとアリアにはさまれるような年頃で、体つきもティナとアリアの中間くらいといった感じか。彼女は、この二人が来てから、一度にお姉さんと妹ができた感じで、とても楽しかった。一人っ子のジュエルである。兄弟姉妹が欲しいと、何度か思った事もある。
「ホークスとライルがいないってのが、ホンっトに安心して入れるってもんね、全く」
「フフフッ。そうですね」
ティナとアリアは、そんな事を言ってうなずき合っている。ジュエルは不思議そうだ。
「どういう意味なの?」
二人は顔を見合わせると、ちょっと怒った顔をして迫る。
「あいつらはね、ノゾキの常習犯なの。特に、ホークスは何度吊し上げても懲りない奴なんだからっ」
「そうです。それに、あの二人は私の尼僧院で夜這いまでしようとしたんですよ、ジュエルさん!」
「そ、そうだったんだ。ふうん……。(もうっ、何やってんの、ホークスってば!)」
ジュエルの瞳にも、なぜかちょっと怒りの炎が燃えている。
「あいつらに、油断しちゃダメなんだからね、ジュエル。とんでもない馬鹿達だから」
「本当にそうです、全く……」
聖カタリナ尼僧院での彼らの不祥事を思い出したのか、ティナとアリアは不機嫌だ。
そんな二人を見て、なにやらジュエルがニヤニヤしている。
「二人とも、そういう割には案外待ってたりして……ライルとか」
「んあっ!? そ、そんな訳ないじゃないの。あんなスケベな馬鹿男、どうだっていいわよ。まあ、あの刺客に一回殺されて、生まれ変わってもっと真面目な男になったら、どうしてもって言うんなら、ちょっとは考えてやってもいいけど」
「そ、そうですよねえ。そんなとこですよね、ライルなんて」
そう言って、うなずきあうティナとアリアだった。
そんな二人を見て、ジュエルはますます楽しそうだ。
「そっか。それだったら、何も問題ない訳だ。じゃあ、せっかく婚約したんだし、このままホントにライルに迫って、結婚しちゃおうかな? ライルって、悪くないよ。婚約発表の時、私『助けてくれたライルに一目惚れした』って言ったけど、あんまり嘘を言った訳でもないの。あの時のライル、とってもかっこ良かった。すごく強いのに、そんな事全然気にかけてなくて。『この人なら大丈夫だ。信じていい人だ』って、私すぐに思ったもの。それに、笑いながら励ましてくれる時のライルって、すごくあったかいしね。なかなか悪くないと思うんだけど。二人ともいらないなら、私がもらうから」
「ちょ、ちょ、ちょっと、何言い出すのよっ、ジュエル! ダメっ! そんなのダメなんだからっ!!」
「そうですっ! そんなのダメですっ! 絶対ダメっ!!」
慌てる二人だった。それを見て、意地悪くジュエルはたたみかける。
「あれ~、なんでかなあ? だって、二人とも、ライルの事はなんとも思ってないんでしょ?」
「う、ぐ……」
「あのう、その……」
言葉に詰まる二人を見て、ジュエルはクスクス笑う。
「ふふふっ。冗談、冗談! どうなるかわかんないけど、二人とも頑張ってね。ライルって、ものすんご~~く、鈍いみたいだから」
「くそ~、人をからかいよって……この箱入りお嬢様め~! 覚悟っ!」
ティナがジュエルにバシャっと湯をかける。
「やったなあ~! ちちでか女に反撃じゃあ! ついでに修道女も喰らえっ!」
「きゃっ。ジュエルさん! いきなりはひどいですっ! 目に入りました! このっ!」
お互いに湯をかけ合いながら、きゃっきゃとはしゃぐ、華やかな女性陣であった。
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それが一段落ついて、笑いながら三人は身体と髪を念入りに洗い始める。やがて、ティナもアリアもそれを終えたのだが、なぜか……ジュエルはまだ身体を洗っているのだ。特に右肩の辺りを、ゴシゴシと何度も何度もこすっている。肌が赤くなって痛々しく皮がむけ始めてしまっても、なおも執拗に彼女は肩を洗い続けているのだ。
その右肩は……
葬儀の時に、彼女がダミアンに触れられた所だった。
そんな様子のジュエルに、ティナとアリアは顔を見合わせる。ティナが、うつむきながら肩をこすり続けるジュエルの左手に優しく手をかけて止めてやった。うつむいたジュエルの瞳から、涙が溢れてくる。
「う……うううっ。もう嫌。あの感触……最低っ!! あんなやつ、あんなやつ……ホークス……助けて。会いたいよ。彼に会いたい。声がききたい。無事に戻ってきて……お願い……ううううっ」
泣き崩れるジュエルを、ティナは優しく抱きしめた。
「大丈夫よ、ジュエル。ホークスなら、絶対大丈夫だから。必ず、あなたを助けてくれる。あなたを守ってくれる。あいつなら、絶対死なない。殺されたって、死ぬような奴じゃない。いつもみたいに、冗談ばっかり言ってニヤニヤしながら必ず帰ってくる。大丈夫だから、大丈夫だからね……」
初めて、ジュエルの胸の内を理解した二人だった。明るく振る舞っていても、その胸にはこのような激情が満ちていたのだ。ヘドが出るほど嫌いな男に、見せかけとはいえ身を預けなければならないつらい思い。そして、あの盗賊に惹かれてしまっている彼女の心……その苦しみの救いを、あの盗賊に求めてしまっている彼女の心。たった一人、危険なアジトへ潜入したホークスの身が、心配で不安で仕方ない彼女の心の姿が、そこにあった。
「(それにしても、)」とティナは思う。
このようなジュエルのためにも、ホークスが無事に情報をつかんで、一刻も早く危険なアジトから帰ってきて、彼女に顔を見せて欲しいと心から願うのだった。




