盗賊と良家の娘 Thief & Noble Lady
翌日、ホークスの言葉通り、ティナ、アリア、ギリアム、ノエルがハーディー家に訪れた。ジュエルはライルが控えている広めの客間の奥側に一行を通し、執事やメイド達を下げ、人払いをする。内通者がいるはずだというホークスの指摘に、彼女も気を使いつつある様子だ。
「皆さん、来て下さってありがとうございます。ジュエルと申します」
彼女は快く四人を迎える。
「ワシはミッドランド遊歴騎士、ギリアムと申す」
「修道女のアリアと申します」
「ノエルです。魔術師です」
「精霊使いのティナよ。よろしく、ジュエル様」
「ジュエルで結構です。私もそういう風に皆さんの事を呼ばせてもらいます。堅苦しいのって嫌いなの。お互い肩が凝るし」
「わかった。じゃ、改めて。よろしくね、ジュエル」
ティナが元気良く差し出す手を、ジュエルはしっかりと握り返す。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、ティナ。ライルやホークスのお友達だから、どんな人達かなって、楽しみだったの。なんか、期待通りって感じ」
ジュエルは、にっこりと一行を見詰めている。気の強そうなあでやかなティナ、かわいらしい修道女のアリアに、いかにも頑固そうなギリアム、知的な感じではあるが、どこかつかみ所がない様子のノエル。ジュエルが今までに出会った事がないタイプの、粒ぞろいの個性的な人達ばかりなのだ。
「あら~、それはどういう意味なのかしらあ? いい意味? それとも悪い意味?」
ティナが腰に手を当てて、そんなジュエルに迫る。
「ご想像にお任せします。フフッ」
ジュエルはますます楽しげに微笑む。少女らしさがまだどこか残っているようだが、本当にかわいらしい、年頃の娘だ。
ティナとアリアは、昨晩ホークスから事情を聞いてホッと胸を撫で下ろしたのだが、改めてジュエルと接してみて、その輝くような魅力に侮り難いものを感じている。しかし同時に、このような屈託のない性格の彼女に好感も抱いた。
ライルが進み出て口を開く。
「すまねえ、みんな。時間が無くて、ああいう事になっちまった。話はホークスから聞いたのか?」
ギリアムがうなずく。厳つい渋面が一層深くなっているようだ。
「うむ。しかしあの時は、本当におぬしが身を固める決意をしてワシらを呼んだのかと思ったぞい」
ティナがライルをじとっと睨んでいる。
「紛らわしいんだから、もうっ。ま、ライルなんかが、こんな綺麗なお嬢様に惚れられるなんて、嘘っぽいとは思ってたけど」
ティナは腕組みをして、何事もなかったかのようにそう告げる。アリアは、あの時のティナの慌て振りが目に浮かんできて、クスクス笑ってしまった。
「ふふっ、あの時ティナさん、ホークス様を締め上げて大声あげてたのに」
「な、なによ。アリアだって同じじゃない。それに、その前には目を丸くして固まってたじゃないの」
「わ、私は、その……あの……そんな事ないんですからっ」
思わず顔を赤らめて、アリアは必死で否定する。ティナとアリアのそんな様子を見たジュエルが、面白そうにうなずいている。
「(ふ~ん、そういう事か。なるほどね)」
彼女は隣にいるライルの様子をちらりとうかがったが、彼は特に慌てた風でもない。どうやら、ティナとアリアのこうした心の動きを全く察知していないらしい。
「(……なるほどね。こりゃ苦労するわ、二人とも。ふふっ。面白いなあ)」
何やら楽しげなジュエルであった。
ティナとアリアの心を察した気苦労の多いノエルが、なんとか話を逸らした。
「ま、まあまあ……そうだ、それよりライル。あなたの身はかなり危険な状態です。ジュエルもそうです。今日からは、外出する際は、私達のうち二人が必ず護衛するようにしましょう。ギリアムとアリアさん、ティナさんと私の組み合わせが良いと思います。ホークスが何か情報をつかんでくるまでは、その体制でいきましょう」
「そうだな。よろしく頼むぜ、みんな」
「お願いします。皆さん。必要なものがあったら、遠慮なく何でも言ってください。すぐに用意しますから。お部屋も用意してあります」
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一行は警戒しながらホークスの帰りを待った。なるべく外出は避け、とりあえず襲撃などには遭遇する事なく日は暮れた。そしてその日の夜、皆が豪華な夕食を終えた頃合いにホークスがハーディー家に顔を出す。応対した執事から知らせを受けたジュエルが、自ら玄関に降りてきて執事を戻らせ、一人出迎えた。
「よう、お嬢様! おや、なんだか顔色がいいじゃねえか。なんか楽しい事でもあったのかい?」
ジュエルはにっこりとうなずく。
「ええ。とっても楽しいわ、ホークス。ライルの言った通りだった」
「なるほど。ジュエルの期待を裏切らない変わり者揃いってとこか。ま、あいつらの中じゃ、俺が一番まともだけどよ」
ホークスが、両手を頭の後ろに組んで、さも当然のように告げる。ジュエルは益々楽しそうだ。
「そうかしら? あなたが一番変わってると私は思うけど?」
「普通の俺が、あいつらの中に唯一混ざってるから、そういう風に映るんだな、きっと。うんうん、さすがジュエルだ。よくわかってる。大金持ちのお嬢様にしとくのは、もったいねえなあ」
相変わらずのホークスであった。ジュエルは、そんな彼をにっこりと見詰める。
「これだもんなあ。ふふっ。ホントに面白い人」
するとホークスは微笑む彼女の手をさっと取り、その甲にそっとキスをした。
「こりゃどうも。ジュエルのその笑顔が、この卑しい盗賊の何よりの励みになるぜ」
いきなりのホークスの行動に、ジュエルは不意を突かれて顔を少し赤らめている。
「……あなたって、冗談なのか本気なのか、よくわからない人ねえ」
「俺はいつだって本気だぜ。とりあえず、ダミアンのパンツは臭そうだったから、触るのはやめてきた」
わざと真面目な顔をしてそう告げるホークスに、思わず笑ってしまうジュエル。
「あはははははっ。止めてよ、ホークスったら。お腹が痛くなっちゃう」
本当に、彼女は明るい普通の娘といった感じだ。このような屋敷に住む良家のお嬢様とは、とても思えないくらいだ。
笑いが一段落収まってから、彼女はホークスを促す。
「さ、入って。みんなもあなたの帰りを待ってるんだから」
「へいへい。じゃ、お邪魔いたしやす」
ホークスがジュエルに誘われるまま、屋敷に入ってくる。二人は連れだって、ライル達の待つ部屋へと歩いてゆく。
「にしてもよ、こんな俺みたいな汚らわしい盗賊が、これだけ立派なジュエルの屋敷に正面から堂々と胸張って入れるなんてな。こりゃ、こういう屋敷に忍び込むのを頑張るよりは、ジュエルみたいなお嬢様を口説くのを頑張ったほうが早いかもしれねえなあ」
ホークスはそんな事をしみじみと告げる。
「さあ、どっちが早いのかしらねえ? 私は、最初のほうが簡単で早いと思うけど?」
ジュエルはいたずらっぽく微笑む。
「そうかな? 試してみないか、ジュエル?」
「どっちを?」
「どっちがいい?」
ふんふんと鼻息を荒げながら、期待に満ちた眼差しをジュエルに送るホークス。言葉に出さずとも、彼はジュエルが口説かれる方を選ぶという答えを待っている事は明白だ。
彼女は、思わず吹きだしそうになるのを必死でこらえている。
「どっちもイヤ。ふふっ」
「ふうっ、やっぱりこの前みてえに忍び込んだほうが早いみてえだな」
肩をすくめてボヤく盗賊であった。良家のお嬢様はクスクス笑っている。
「(ホント、変わった人。なよなよしてたり、地位やお金が無いと何にもできない口先だけの貴族の男達なんかより、ずっと面白いわ。世の中の表も裏も、綺麗な事も汚い事も全部知り尽くしているって感じ。でも、それでも自分自身に誇りを持って、自分の意志で生き方を選んでいる……そんな感じがする人。ライル達もそう。私は……私はまだ、そんな風にはできてないなあ)」
「(全く、お嬢様らしくねえお嬢様だねえ。金持ちなんて、お高くとまってる冷てえ野郎ばっかりだと思ってたがなあ。俺が盗賊だって事を承知したうえで、全然嫌そうな顔をしねえしな。それどころか、仲のいい友達みてえに、にこにこ笑ってやがる。あの頃、こういうジュエルみてえな人間に出会ってたなら、俺もちっとは変わってたかもしれねえかな……)」
二人はお互いそんな事を胸に思いながら、ライル達の待つ部屋へと向かっていた。




