↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/163

婚約者は Fianse

「私と結婚して」


ジュエルは、思い詰めたような表情でライルにそう迫る。


「いいぜ……」


その時、自然とそのような答えがライルの口をついて出てきた。


 まだ出会ったばかりの女性の、いきなりの求婚を静かに受け入れている自分に、ライルはふと気づく。よく考えてみると不自然なのだが、なぜか彼は納得していた。訴えるような彼女の瞳の中に、悲しげな決意が煌めいていたからであろうか?


 迷わずそう答えたライルに、ジュエルは少し驚いた風に目を見開く。この男は自分の突然の求婚を、当たり前のごとく受け入れた。まるで食事の時に『その塩を取ってくれませんか?』と頼んだ自分に、訳もなく答えるかのように。


しかし、やがて彼女はライルの瞳をじっと見詰めて微笑んだ。


「フフッ。何も訊かないのね」

「何を? 俺と結婚するんだろ? 承知したぜ」


ジュエルがそんなライルをまじまじと見詰めている。


「あなたって……ううん。何でもない」

「変な男だなって思ってるだろ? 顔に書いてあるぜ、ジュエル」

「半分当たり。半分は外れかな?」

「もう半分が、ぜひ知りたいね」


見つめ合う二人。

いたずらっぽく彼女はライルを見詰めていたが、やがて悲しげに目を伏せてしまった。


「実はね、ライル。こういう事なの……」


---------------------------------------------



シャリーやイングリッド達に別れを告げ、聖カタリナ尼僧院を後にした一行。


 人売りのアジトから女性達と子供を救出し、シャリーを尼僧院へ預けて遠回りしてしまったため、ホークスの提案で当初の狙いとしていた古代遺跡をあきらめ、ここから比較的近い所にある別の遺跡へと向かい、首尾良く財宝を手に入れる事に成功した。


 ライル達は、ひとまず疲れを癒して物資の補充を図るため、ある街へ立ち寄った。宿屋を決め、痛んだ武器の修理や、防具の補修、必要な物資の仕入れへと、それぞれ街へ買い出しへ出かけた。夕方にはその宿屋へ戻る約束をしたのだが、なぜかライルだけが戻って来なかった。



 一同は身を案じたが、まあ、ライルなら心配無いだろうという事で待っていた。しかしその日の夜、なぜかハーディー家の使いの者が宿屋にいた一同のもとにやって来て、ジュエルというそのハーディー家の一人娘の誕生パーティーへの招待状を手渡した。ハーディー家と言えば、この街きっての名家である。詳しい事情は使いの者も知らされて無かった様子で、とにかくお願い致します、の一点張りであった。


 不審に思ったホークスが、その招待状を調べてみたが、封蝋も紙もきちんとした正式のものであり、内容もごく普通であった。しかし招待状の最後の一行に、ライルの直筆のサインがしたためてあった。



その招待状を念入りに調べているホークス。


「まあ、怪しい所は特に見あたらねえな。やっぱり、明日の日付になってるただの招待状ってだけの事だ。内容に暗号らしきものもねえし、盗賊が利用する隠語も使われてねえ」


「へえ、そんなのもあるんだ。どういう言葉なの?」

感心しているティナだったが、盗賊はニヤリと笑う。


「悪いな、ティナ。そいつはちょいと、盗賊以外の人間に教える訳にはいかねえんだ。鉄の掟でな。俺達の仕事の妨げになる。これをもしバラしたら、俺もティナも他の盗賊達に問答無用でいつ殺されても文句は言えねえのさ。まあ、普通の人間が読んでも、本当の意味は絶対わからねえような仕組みになってるとだけ言っておく。それとも、ティナ。俺と一緒に死んでくれるか? それだったら俺は別に……」


鼻をふんふんと広げているホークスの言葉を、たちまちティナは遮った。


「はいはい、やめとく。あんたと心中なんて願い下げ」


ホークスは、ティナの耳に向かって口に両手を立てて小声で言う。


「(実はな、ティナ。『小春日和が続きますが』ってのはな……)」

「うっさい。聞く耳もたん。いいからとっとと、その紙を調べろっ!」


「へいへい。つれないねえ……まあ紙の材質も、薄い紙が二重になってる訳でもねえし、秘密の透かしが入ってる訳でもねえ。盗賊達が使う特殊なインクの匂いもしねえな。ただの紙だ。まあ、極上のやつだがな」


再び感心するティナだった。盗賊の世界は奥深いようだ。


「ふうん。裏の世界って、すごいんだ。なるほどね」

「そのインクを使うと、どうなるか聞きたいか? ティナ」

「……やめとく」

「わかってきたみてえだな。いいぜ……」


楽しげにニヤリと笑う盗賊であった。



(こっそり明かしてしまおうか。このインクを使うと、水に浸せば文字が浮かび上がるのだ。先程の『小春日和が続きますが』に関しては、基本的に『冬』を除いた『春、夏、秋』の言葉は『宝や金、報酬』を意味する。『日和』は頃合い、すなわち期日を指す。これを訳すと、小さい宝、すなわち『お宝の分け前を分配する日は』となる。そして、次に文面上に出てくる最初の数字が、その日付を指す。その季節に矛盾しないように対応した言葉を選ぶことになる。


 ちなみに『冬』は、『死、暗殺』を意味する。例えば、『冬の訪れが迫る今日この頃です』を訳すと、『お前は今、命を狙われている(気をつけろ)』、もしくは予定の暗殺を依頼されている場合は、『早く標的を抹殺せよ』といった意味になる。冬の季節には『寒さ』などの言葉を頭に持ってくれば、やはり『宝や金、報酬』を意味する事になるそうだ)



そんなホークスだったが、結局首をひねらざるを得なかった。


「だが、旦那のサインがどうしても気になる。間違いなく、ライルの筆跡だぜ、これはよ。何にせよ、見過ごせねえぜ、こりゃ。絶対、なんかあるに違いねえ」



 一同話し合ったが、ライルのサインが本物である以上、やはり何かがあると判断し、一行はその誕生パーティーへと出席することに決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。