フォレスの小屋 Fores's Hut
その後、シャリーは温かい修道女達の愛情に囲まれ、素直で優しい明るい女の子へと真っ直ぐに育ってゆく。もう、大人の男にも怖じ気づく事などない。生活が無精なフォレスの小屋に通い、感謝の気持ちを込めて、その医療活動を影で支えるようになる。
そんなシャリーは、格闘家を目指すと言って怪我をしてはフォレスのもとへよく通う、同年代の元気な腕白坊主、ギャリックと仲良くなった。身よりのないシャリーをからかっていじめようとする子供達から、ギャリックは何かと彼女を守ってやるのだった。
勝手に掃除や洗濯をしたり、食事を作ったりするシャリーに、フォレスは頭を掻いてボヤきながらも、少しずつ自分の医術の知識を彼女に教えるようになる。そうして二人は息のあった医者と助手として、多くの人々の助けとなっていったという。人々でにぎやかなフォレスの小屋であった。
やがては、ある街の資産家の若い女性が新しく造った、誰でも治療を受けられる無料の病院へ、頼み込まれて二人はそこで医療活動を行うようになる。さらに多くの人々に助けを施して活躍するフォレスとシャリー。イングリッドの直感通り、一行に温かい光を灯された少女は、多くの人々の心にも温かい光を与えてゆくことになったのだった。
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一行が去ってから、何年か後のフォレスの小屋の様子を覗いてみようか?
「ギャリックっ!! あなた、また性懲りもなく怪我してきたの!?」
ギャリックがフォレスの小屋の扉を開けると、開口一番、シャリーの声が飛ぶ。彼はちょっと怯んだ。
「う……いいじゃねえか、シャリー。いつもの事だろ? もうあきらめたって、この前言ってたじゃんかよ。なあ、治してくれよ? 今度は結構痛いんだ」
ひどく皮が擦りむけて血溜まりになった腕を、ギャリックは彼女に差し出す。流れる血が、床の上にポタリと落ちた。それを見て、思わずシャリーが叫んでしまう。
「あ~っ!? 血で汚すなっ! さっき床拭いたばっかりなのにい~! この筋肉馬鹿男っ!」
「筋肉馬鹿だとお~!? 格闘家と言え、格闘家と!」
「同じじゃないのよっ」
「違うっ!!」
フォレスの治療を待っている患者達が、二人のやりとりにクスクスと笑っている。ここではこの二人の様子が、結構名物となっているらしい。それを見たさに、ちょっとした怪我でも立ち寄ってしまう人々もいるようだ。まあ、良心が咎めるのか、そういう人々は何かとフォレス達に、野菜やら魚やらを差し入れてくれるのだが。貧乏でも、食料にはフォレスは困る事がなかった。
「あ~、もう、うっせえぞ、お前ら。いつもいつも。いい加減にしろっ!」
奥で診察していたフォレスが、たまらずボヤきながら顔を出してきた。その風貌は相変わらずだが、着ている服はこざっぱりとして清潔だ。そう言えば、小屋も綺麗に掃除が行き届き、片づいている。シャリーの健気な努力の成果と言えよう。彼女が片づけては、フォレスが散らかすという果てなき闘いに、ようやく勝利を収めたようである。
それに待合室の人目につく所に誇らしげに、大きなクロダイの魚拓が飾ってある。どうやら、あれからなんとか大物を釣り上げたらしい。
(魚拓は、その一枚きりだが。それに実は、フォレスの釣りに初めてついて行ったシャリーが、たまたまフォレスに替わって神妙に竿を握っていた時にそのクロダイがヒットし、慌てた彼女から強引に竿を奪って釣り上げたフォレスである。その日から一週間の間、来訪する患者達に、その時の様子を得意げに熱っぽく語り続けるフォレスであった。なんだかな~)
フォレスの声に、たちまち二人は、しゅんとなる。
二人とも、このフォレスを慕っている。
ギャリックは年の離れた兄のように。
シャリーは父親のように。
「だって……ギャリックがいけないんだから」
口を尖らせるシャリー。
「なんだよ、俺は何も悪くねえぞ」
そう言い張るギャリック。
「どっちもどっちだ。……ほれ、こっち来い、ギャリック! うんと染みるアレをつけてやる。シャリーも手伝え」
「はい!」
シャリーは元気良く、にっこりと微笑んだ。フォレスの側で手伝える事が、彼女にとって一番うれしい時間なのだ。普段のだらしない様子のフォレスも味があるのだが、医者としての顔を見せている時のフォレスは、彼女が見ていて小気味よくなるくらい男前だ。その時のシャリーの眼差しは、フォレスを父親としてというよりも、一人の男性として見ているような気が。
ギャリックが思わず叫ぶ。うんざりしたような声だ。
「え~っ!? またアレかあ? フォレスだとアレを塗るから、シャリーに癒しをやってもらおうと思ったのによう。ブツブツ……」
ボヤくギャリックに、シャリーの叱責が飛ぶ。
「いいから、来なさい! アレが一番効くんだからね」
「う゛……明日にしようかな」
『アレ』に怯えるギャリックであった。
シャリーが腰に両手を当てて、そんな彼を睨んでいる。
「ダ~メ! あんた、格闘家でしょうが。痛みなんて慣れてるんでしょ?」
「そういうのと、こういうのは別なんだ!」
ギャリックにとって、そういうものらしい。
奥からフォレスの呼び声がする。
『シャリー! そいつがゴネてるのはわかってる。引っ張って来い!』
「は~い! すぐ連れていきま~す♪」
にこやかな返事とは裏腹に、むんずとギャリックの耳を掴んで、問答無用でフォレスのもとへと引きずってゆくシャリー。
「いてててててっ。お前、修道女だろうが、シャリー! 人に乱暴していいのかよ!?」
「怪我をしている人を救うためです。主も、あなたの耳を掴んで引っ張っていくよう、私におっしゃってます」
「変な修道女だぜ。いてててっ」
二人の姿が奥へと消えた。
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しばらくして……。
待合い室にいる患者達に、奥の三人の会話が聞こえてきた。
『うげえっ!! 痛えええええええっ!! お、おいっ、フォレス!? いつものアレより、きっついぞ、コレ!』
『うむ。新しい薬だ。アレをさらに効果的に改良したヤツだ。効くはずだぞ』
『効くはずって……おいっ!? コレ、ちゃんと試したんだろうなっ?』
『ああ。たった今、お前で。どうだ? 気分が悪くなったりしねえか? 大丈夫か?』
『ギャリックで大丈夫だったら、他の人達にも使ってみようかなって昨日話してたの』
『うううっ……貴様ら、それでも本当に医者と修道女かあっ!! うぎゃあああ、し、染みるう~~!!』
『う~ん。ちょっと、普通の患者にはコレは無理みたいだな、シャリー』
『ええ。コレはギャリック専用のお薬にしましょうか?』
『ああ、そうしよう』
『ちょ、ちょっと待て。俺を無視して勝手にそんな事決めるなっ!』
『あら、ここら辺の傷は忘れてたみたい。塗っておかないと……ちょいちょいっと』
『うぎゃああああああっ!!!!』
今度は『アレ』ではなく、『コレ』に怯える事になるギャリックだった。
(二つとも、どんな薬なんだか……)
どうやら、にぎやかなフォレスの小屋のようである。とにもかくにも、みんな元気らしい。(ギャリックは、その日は一日中元気が無いようだったが)
~~~~第八話【大切なもの】終幕~~~~
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形のない、二つの「大切なもの」をテーマにしたエピソードです。
この「大切なもの」という言葉は、本編の中では、二回しか使ってません。
どちらも、セリフの中にあります。
(一つ目は、イングリッドの祈り、二つ目はアリアが口にしております。)
この二つは、人が生きていく上で本当に「大切なもの」だと、自分は感じております。
あと、怒りの気持ちも強く表現しております。
ギリアムの怒り、ホークスの怒り、風呂場でシャリーを抱きしめて泣き濡れるティナの問い……全て、自分が感じるままに怒りを表現しております。
うまく表現できたかどうか……
次回は【婚約者は】。
出会ったばかりの女性に、いきなり結婚を申し込まれてしまいます。
それには、ある裏事情が隠されていて……
ある男女の恋模様がテーマです。
ある男の生い立ちが明らかになります。
お楽しみ下さいませ。




