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バルディア家襲撃 Raid into Bardia

 その日も夕暮れになろうとする頃合い、バルディア家の屋敷の前へ到着したギリアムとホークス。門番が、ズカズカと近づいてくるギリアムに警告を発する。


「何の用だ。近づくな!」

「おぬしに用は無い。用があるのは、アランという男だけだ。邪魔するな」

「何っ!? ……おいっ、貴様、待てっ!!」


門番がギリアムの肩に手を掛けて押し戻そうとする。その刹那。


 軽く振り払うように一閃したギリアムの拳が、その門番を後ろの塀まで軽々と吹っ飛ばしていた。ひどく頭を打ち付けた門番の男は、気を失ってピクリともしない。凄まじいギリアムの腕力であった。確かに、ホークスが手を出す余地もない。


 ギリアムを先頭に、二人はバルディア家の真正面から奥の屋敷へと向かう。閉じられた大きな木製の門が立ちはだかっているが、ギリアムは迷うことなく、その頑丈そうな門へ近づいてゆく。そして、その背中にある剛爆斧を引き抜いた。


「ぬおおおおっ!!」


 気合いと共に、ギリアムは巨大な剛爆斧を門へ叩きつける。三度ほども剛爆斧を振るうと、騒々しい音と共に、頑丈な門がたちまち木切れへと変わり果ててしまった。それを乗り越え、なおも二人は中へと進んでゆく。



 やがて、異変に気づいた家来の者達が騒ぎ出した。正面にある屋敷の二階のベランダから一人の男が姿を現して、次々と衛兵達に指示を出している。どうやら、あれがバルディア家現当主、アランのようだ。アランの命令を受け、侵入者達を捕らえるべく五人の武装した男達が向かってきた。


ギリアムの大声がとどろく。


「ミッドランド遊歴騎士、ギリアム。悪事を働いたアランの首、受け取りに参った!! 命の惜しい者は即刻消えろっ! 邪魔する者は、この剛爆斧の塵となろうぞっ!!」


 しかし、そのような言葉に怯む男達ではなかったようだ。何と言っても、五対二である。単純に考えれば、戦闘の訓練を受けている男が五人もいるこちらの方が優勢なのだ。全く速度を緩める事なく、剣を抜いて駆け寄ってくる。


 その男達を見て、ギリアムはなぜかくるりと背を向ける。それを見て、恐れをなしたのだと思いこんだ愚かな男達が三人、さらに速度を上げて迫ってきた。ギリアムは背を向けたまま、庭にある手頃な立木へと近づく。そして剛爆斧をその幹に一閃させた。


 剛爆斧の一撃で、腕を回して一抱えもあるほどの木の幹が、一発で断ち切られた。ミシミシと音を立ててギリアムの足元に木が転がる。ギリアムは剛爆斧を地面に置くと、その木の中程に手をかける。


「ぬうんっ!!」


 一声かけると、ギリアムはその木を高々と持ち上げてしまった。その恐ろしく太い腕の筋肉が、はちきれんばかりに隆起し、血管が浮き上がっている。今更ながらだが、このオヤジの腕力には信じられないものがある。少し離れた後ろから一部始終を見守り、必要とあらば直ぐさま援護できるように気を張りつめていたホークスも、さすがに内心驚きを隠せない。突進してきた男三人が、思わず足を止めて目を丸くして驚いている。


「……ぬうああっ!!!! 」


 ギリアムは腹の底から叫び声をあげ、すぐ近くまで迫り、驚いて立ちつくしていた男三人に目がけて、高々と掲げたその木を豪快にぶん投げた。肩を並べて慌てて背を向ける男達を、見事にその木がズシリと押さえつける。三人の男達は、うつぶせの体勢でもがくが、その重い木はピクリともしなかった。


 先程ギリアムは、恐れをなしたのではなく、単に手っ取り早く片をつけるために、この方法を取ったのだ。まあ、常人には不可能な発想であるが。このような事がやすやすとできる人間など、そうそういるものではないのだから。



 ギリアムは下に置いた剛爆斧を掴み上げ、なおもアランの方へと向かってゆく。もうかなり屋敷に近づいてきている。その信じられない豪快な腕力を目の当たりにしてしまい、残された二人の男達に恐怖がじわりと広がる。しかし、アランが二階のベランダから厳しく命じた。


「早くその男を取り押さえろっ! いや、殺せ。俺もここから援護してやる。逃げ出したら、お前達の家族の命は無いものと思え! そいつを殺したら、たんまり褒美をくれてやる。さあ、行けっ!!」



 もう逃げ場の無くなった二人の男が、やけくそになって雄叫びをあげながらギリアム目がけて突進してくる。ちょうど、ガーゴイルをかたどる石像が並ぶところを通り過ぎようとしていたギリアムの足が、その男達を見てピタリと止まった。剛爆斧を後ろに振りかざす。そして、狙いの瞬間を静かに待った。


 ギリアムの両目は針のように細められ、精神を研ぎ澄ましている。男二人がその狙いの場所へ足を踏み入れた瞬間、ギリアムはカッと両目を見開いた。


「おおおおおっ!!!!」


 思い切り、剛爆斧を叩きつける……向かってくる男達にではなく、傍らの石像に、である。大きな爆音が響き、立派なガーゴイルの石像が粉々に粉砕され、その破片が凄まじい勢いの石つぶてとなって、男二人に襲いかかった。意外な攻撃をもろに喰らった二人は、石の破片を身体中のありとあらゆる箇所に叩きつけられ、地にもんどりうって悲鳴をあげて悶え苦しむ。全て、このギリアムならではの闘い方と言えよう。『豪快』の一言に尽きる。他の者ではとてもとても真似できない。



 しかし、足元に転がる二人の男達の様子にちらりとギリアムが気をとられた時、二階のベランダにいたアランは不敵な笑みを浮かべた。いつの間にか、ボウガンを構えたアランが、必殺の毒矢の狙いをギリアムに定めている! アランは勝利を確信して、ボウガンの引き金に手をかけた……まさにその時。


「させるかっ!! 」


 いち早くそれに気づいたホークスが、素早く短剣を投げつける。シュッという鋭い音と共に、主の手を放れた短剣はアラン目がけて吸い込まれてゆく。狙い通り、ホークスの短剣はアランが構えたボウガンの弦を断ち切り、さらに刃がボウガンの上を伝って、構えたアランの左肩に突き立った。


 それはまさに、あの刺客が放った毒矢がシャリーに突き立った所と全く同じ箇所であった。さすがである。ギリアムの逆鱗に触れただけでなく、この盗賊の怒りを買った事も、アランの身の破滅に直結していた。


「俺の目の前で、同じ手が二度も通用するかよっ! クソ野郎がっ!!」


 ホークスが左手を右腕の二の腕に当て、右手の中指をピンと突き立てて吼える。思わずベランダから室内に逃げようと、くるりとアランは背を向ける。



「逃がすものかっ!! ぬおおおおおおおっ、剛爆円舞っ!!!! 」


 その荒れ狂う激怒に任せて、ギリアムは己の最大の必殺技を容赦無く解き放った。巨大な剛爆斧は回転しながら空を切り裂き、恐ろしいうなりを上げて上空へ舞い上がる。そして狙い通り、アランがいるベランダの下方に剛爆斧が吸い込まれてゆく。


 剛爆斧が宙を舞う一瞬の静寂ののち、辺り一帯を轟かせる雷震の一撃が炸裂した! もの凄い爆音が響き渡り、逃げようとしたアランの足元で、石造りの頑丈なベランダが跡形もなく粉々に粉砕されて崩れ落ちてゆく。アランは思わずもがくが、それも虚しく石片とともに二階から転がり落ちた。


 落ちたアランに向かって駆け寄るギリアムとホークス。ギリアムの目は怒りの炎がギラつき、ホークスは背筋が寒くなるほど冷酷な瞳をしていた。アランはなんとか動けるほどには大丈夫だったらしく、石片に埋もれながらも藻掻いて脱出しようと躍起になっていた。



 ギリアムがぐっと手を突っ込み、アランの喉を左手で掴むと、恐ろしい力でアランを瓦礫から引っこ抜き、喉を掴んだまま、左腕一本で彼を高々と吊し上げた。アランは足をバタバタさせるが、全く地につかない状態だ。喉を掴む手にギリアムはさらに力を込めてゆく。その指が男の喉に食い込み、その血管を浮き上がらせる。息ができず、アランはもう白目を剥きかけている。


 ギリアムは空いている右手を堅く堅く握りしめた。ホークスも近寄り、残る一本の短剣を音も無く引き抜く。その瞳に冷たい光がキラリと光る。彼の顔は、ぞっとするほど冷淡な、全くの無表情だ。アランの命は、今や風前の灯火と言えた。

……その時。



「待ってくださいっ!! ダメですっ! その人を殺さないでくださいっ!!!!」

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