頭の痛さは Headache
三時間後。そこには恐ろしい光景が広がっていた。
「ぐごごごごごご……」
髭オヤジは、高いびきをかいて眠ってしまっている。ちょっとうるさい。
「あははははっ、勝った、勝ったっ! ティナさん、勝っちゃった!」
アリアが妙にはしゃいでいる。
なぜか、肌着に下着姿である。ティナもそうだ。
アリアはゆったりとした長い白のシュミーズ姿。ティナはぴったりした胸元広めの黒キャミソールに、下はピンクの下着がちらりと。
「さあ、脱ぎなさいよ~、ライルっ! ホークスでもいいわ」
いつの間にか、勝負に巻き込まれたホークスが、ライルと共にパンツ一丁である。
「参った。俺達の負けだ。勘弁してくれ。それ以外だったら、何でもするからよう」
「じゃあ、アリアと私、どっちをとるの? 白状しなさいっ!」
かなり酔っている様子のティナが、怖い顔をしてライルにからんでくる。
「な、なんで急にそういう話になるんだよ!?」
「何でもするって言ったじゃない。どっちなのよっ? ……さあっ!!」
ずいっとティナがライルに迫る。その豊かな胸が揺れる。キャミソールの胸元から覗くほんのり朱がさした肌が、かなり艶っぽい。ライルの隣にいるホークスが、ごくりと唾を飲み込んでいる。
「私ですよねっ、ライル?」
酔ったアリアも彼に迫る。膝まである白の肌着姿が可愛らしい。体つき全体に、まだ少女の幼さが残ってはいるが、なかなかどうして……
隣からそう言って首をはさんできたアリアに、ティナが抗議の声をあげる。
「何言ってるの、私に決まってるじゃない! つき合い長いんだかんねっ」
アリアも負けじと言い返す。普段は控えめなアリアだが、どこか芯の強さが隠れている。
「短くても、深さには関係ないです。 私はライルとキスまでしたんですっ!」
どうやら、洞窟で熱を出したライルに、口移しで薬湯を飲ませた時の事をアリアは言っているらしい。そういう事には、なってしまうんであろうか……ちょっと違う気もするが。その言葉に、ティナの顔がみるみる険しくなってくる。
「な、なんだとお~!? こらっ、ライルっ! ど、お、ゆ、う……ことなんだっ! こんだけ側についてきた私というものを差し置いて~! こうなりゃ、私だって……」
いきなりティナはライルの頭をぐいと引き寄せて、無理矢理その唇を奪った。
「ん、んんっ!」
目を白黒させて、苦しそうなライルである。
「ああああああっ~!?」
アリアが目を丸くして、ティナを引き剥がす。
「どう? これでアリアと一緒よ?」
ティナが胸を張る。これもちょっと違う気がするのだが……酔った女性二人には、どうやら同じ事らしい。
アリアが口をへの字に曲げている。
「むううう~、私だって負けないんですから~!」
完全に酔っぱらったアリアが、席を立ってライルに迫ってくる。そんな少女は、意外と色っぽい。アリアは結構着痩せするほうであるらしい。
「ちょ、ちょっと待て! 勘弁してくれっ!」
慌てたライルが、深夜の街へとパンツ一枚で逃げ出していった。
あとで警備兵に見つかり、必死でなんとか逃げ延びたライルであった。
『こらっ、そこの裸の男っ! 何をしているっ! ちょっと来い!』
「これには、訳があるんだって!」
『パンツ一丁で街をうろついてて、訳もくそもあるかっ、この変態野郎! きちんとした訳があるなら、なぜ逃げるっ! 待てっ!』
「ちくしょう、なんで俺が……へ、へくしょいっ!」
『待てっ! こらっ!』
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「こらっ! もうっ……男らしくないれすねえ~~」
口と尖らせ、頬を膨らませて不満そうな顔をして立ちつくしているアリアであった。しかし、酔ったアリアが、今度はホークスに近づいてくる。
「そうだっ! 男らしくないといえば~、ホークス様っ。ホントにティナさんの事、好きだったんですね?」
その言葉に、ティナとホークスは思わず目が合ってしまう。たちまち二人とも、酔った顔がさらに赤くなってしまった。少し慌てて、二人とも無理矢理視線を外し合う。
「冗談に決まってるじゃない、アリア。いつもみたいな。そうよねえ、ホークス?」
そう言いながらも、まともにホークスの目を見られないティナであった。
「そ、そうだぜ、アリア」
ホークスの視線が、なにやら落ち着きなくさまよっている。それに……
「どもってる」
「う……」
なかなか鋭いアリアであった。
「ホークス様。早くティナさんを捕まえてください。そしたら、私は……」
「ちょ、ちょっと何言ってるの、アリアっ!」
慌てたティナが、席を立ってアリアに近づいてくる。しかし、アリアはティナの背後に素早く回り込み、羽交い締めにした。ティナは少し驚いて藻掻くが、振りほどけない。酔ったアリアは、かなり力が出るようだ。キャミソール姿のティナを、そのままホークスへぐいと差し出す。
「はいっ、ホークス様、ど~ぞ。ティナさんの胸を見るなり、揉むなり、好きなだけ」
ホークスの目が丸く見開く。目の前に、肌着越しとは言え、量も質も申し分ないティナの胸が差し出されている。思わず唾を飲み込んでしまうホークスであった。男ならば、そんなホークスを誰も責められまい。
「ご、ごくっ……」
「こらっ、アリアってば……いやっ! ホークスも、ジロジロ見るんじゃないっ!」
「ど~ぞ、ど~ぞ。ほらっ、遠慮しないで、こういう風に……」
アリアは手を組み換えて片手でティナを拘束し、空いたもう一方の手で、肌着の上からティナの胸を揉み出した。ホークスはもう言葉もなく、目が釘付けだ。
「きゃあああっ、い、いやああっ!」
これには、たまらずティナも悲鳴をあげる。気丈な普段の姿からは、想像もつかない。
女性二人のその怪しげな様子に、ホークスはもうギラギラと目を皿のようにして釘付けになっている。思わず、身を乗り出して近づいて見てしまっていた。ティナが、それにハッと気づいた。
「いやああっ!!」
ホークスの顔面に、ティナの足の裏が炸裂した。モロに喰らって、ホークスは鼻血を出しながらズルズルと床に倒れ伏した。もう、ピクリともしない。
やがてなぜか、ティナを押さえていたアリアの手が緩んできた。肩に、アリアの頭が乗るのをティナは感じる。
「く~、く~……」
ティナの背中にもたれて、アリアは子供のような童顔でスヤスヤと眠っている。やっとの事で危機を脱し、安堵に大きく溜息をつくティナであった。
「おやまあ……やっと終わったみたいだねえ。ふふっ、お疲れ様、ティナさん」
「マ、マイトさ~ん! ううっ……」
微笑みながらねぎらうマイトを前に、アリアを背中に支えたままヘナヘナと床に腰をつき、半泣きのティナだった。
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翌日。
マイト達に別れを告げ、もう高く日が昇ってしまった街道をゆっくり歩く彼らの姿がある。
「ティナさん、あれから私、どうなったんでしょう? カードの途中から記憶が無いんですけど……」
「そ、そうなの? なら、いいわ(くそ~、この子は……)」
あれからマイトと一緒に、みんなを部屋まで運んで寝かしつけ、後片付けまで手伝ったティナであった。
「何か変な事言わなかったですか? 気になるんですけど。結局、酔ったらどうなるのか、自分でわからなかったです」
「し、心配しないでいいわよ。アリアだったら、酔っても男に負けてないから」
「そうなんですか。ふ~ん……」
「(ふうっ……やれやれ。これから気をつけないとね)」
「ティナ、ひでえぞ。まだ痛てえ」
ホークスが鼻を押さえてボヤく。必死だったティナの蹴りは、かなりの痛さだった。酒が入っていたとはいえ、ティナとアリアの身体に気を取られて、避けられなかったホークスもホークスであるが。
「いいもの見たんだから、それくらい我慢しろっ!」
「まあ、そりゃそうだ」
「なにい~!」
「な、何でもありませんっ!」
「(全く、どいつもこいつも……ブツブツ……)」
「(ティナさん、なんか不機嫌ですね。どうしたのかしら?)」
かわいらしく首を傾げるアリア。知らないという事は、ある意味幸せでいられる。まあ、後でわかった時の反動が大きくなるとも言うのだが。
「(無理もねえなあ……ま、目の保養にはなったなあ。よかったぜ……)」
ホークスが、鼻の下を伸ばしてボーッと遠い眼差しをしている。それにティナが気づいた。
「変な事思い出してるんじゃないでしょうね、ホークス」
「(悩ましかったなあ。ティナの胸が、あんなに形を変えて……)」
彼女のほうを見るでもなく、ホークスはぼんやりと幸せそうな表情をしている。
「こらっ!」
「あいてっ……」
ティナが、ホークスの耳を引っ張っている。
「昨日の事は、きれいさっぱり忘れろ! いい? でないと、この耳無くなるからね~!」
ドスの効いた声で、ティナが迫る。かなり怖い。
「へ、へい。色っぽいティナの胸の事は忘れやすっ!」
「なんだとお~!」
「い、いててててっ。じょ、冗談だってばよ」
「冗談を言える立場かっ!」
「す、すいやせん。でもよ、二人とも妙に色っぽくてよ。アリアとあんな風になんて……いてっ、忘れる、忘れる。ホントにホントだって!」
「よし。ホントに、もうっ……」
「へ、へっくしょいっ! ううっ、ちくしょう……」
ライルは鼻水を啜っている。無理もない。ほとぼりが冷めるまではと、下着一枚で夜の街をさまよい、結局自分の身体のほうが冷め切ってしまったのであった。
「お酒も、たまにはいいかもしれませんねえ、あれくらいなら」
ノエルがすました顔で、恐ろしげな事を言う。
昨晩の事を覚えているのか、いないのか、全くわからない。
「ノエルはあんなに飲むの禁止っ! アリアもっ!」
ティナが叫ぶ。
金輪際、絶対、二度とアレはゴメンである。
お金を積まれても嫌だ。
「わはははははっ。ティナの魂の叫びが聞こえたぞ」
愉快そうにギリアムが髭を震わせる。ティナが恨めしそうな視線を向ける。
「ギリアムが寝ちゃってから、大変だったんだからね、もうっ!」
「でもよ、アリアに酒飲ませたのは、ティナも結構いけなかったんだぜ」
ホークスがそう指摘する。確かに、お姉さん風を吹かせてアリアに酒を注いだ張本人はティナ自身である。
「う……反省してるわよっ!(そりゃもう、たっぷりと)」
「なんで、ティナさんが反省するのですか? 私、そんなに変な事したんですか?」
心配そうなアリアであった。この普段の様子からは、昨晩の事は全く想像がつかない。
「いいから、もうっ……アリアは、もうあんなにお酒飲んだらダメ。これからは、ちょっとだけで止めるの。わかった?」
「はい、わかりました」
アリアは不思議そうな顔をしながらも、そうさとすティナにこっくりと素直にうなずく。
「よしっ。……そうなのよねえ。普段はホントに、こんなに素直でかわいらしい、いい子なのよねえ。だから憎めないし。どうしてああなんだか。ふうっ……」
「???」
アリアはしきりに不思議そうにしている。
「へっくしょいっ!! うううっ」
ライルのくしゃみは、まだ止まらないらしい。
「ふむ、この理論からいくと……」
ノエルはすました顔をして呪文書に集中して歩いている。
「(やっぱり、よかったぜ、うん)」
ホークスは、まだ懲りずにボンヤリしているようだ。
「次の地酒は……」
ギリアムは、なにやら自分だけの予定を胸の内で確認しているらしい。
そんな仲間達を見るにつけ、二日酔いの頭がますます痛くなってくるティナであった。
~~~~第六話【ミッドランドの夜】終幕~~~~
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もう、ホントにお馬鹿な話です。
これを書き始めた時、楽しくて楽しくて、休日半日で一気に書き上げてしまいました。
「やっぱり、自分は馬鹿なんだなあ」
と、しみじみ再確認した休日でした。
ちょっと、この一行の中のそれぞれの人物のスタンスをはっきりさせてみたい、という目的もありました。
酒を飲んで、色々と本音が漏れているようですが……。
次回、第七話は【一握りの想い】。
幽霊が出るという場所があります。
修道女として、その魂を浄化すべくアリアが立ち上がります。
幽霊が苦手な人がいまして。
そして……その幽霊に人捜しを頼まれてしまう一行でした。
はてさて、幽霊が会いたい人とは?
どうしても言わなければならない言葉とは?
ちょっとしんみり系のエピソードかも。
んでは!




