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彼らの魂の輝きが、あなたの心に届く事を願って ~ライル戦記~  作者: Forest Eiju
第六話【ミッドランドの夜】Night in Midland
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ギリアムが!? Gilliam!?

失踪したサーカスの虎カイエンを無事救出した一行。


 彼らは当初の目的であった遺跡の財宝の換金はできたものの、あの騒動の解決に奔走した為、予定していた食糧や装備の補充がほとんどできていなかった。


街へ買い出しに戻りたい所だったが……無理だった。

ちょっと、困った事になったのだ。

特に『害獣駆除商会』の代表取締役、ノエルが。


 盗賊ホークスが単独行動で離れた後、残る一同は、退治した人喰いトラの死骸を処分すると称して、眠り続けるカイエンを荷車に乗せ、生きている事がバレないように布を被せて堂々と街中を進み運び出した。しかし、人喰い虎が『ノエル害獣駆除商会』に退治されたとの噂が、その鮮やかな手並みの評判と共に、街の人々の間に広まってしまっていたのだ。


『あれが人喰いトラか。確かにでかいな!』

『あんた達がやっつけてくれたんだってな。ありがとよ!』


『ご苦労様です、駆除業者の皆さん。ホントに助かったよ。もう怖くてねえ』

『あんたが、あの噂のノエルさんかい? よかったらこのリンゴ、皆さんでどうぞ』


『死骸の後始末まできちんとやってくれるんだな。良い仕事してるぜ』


 荷車を引く彼らの周りに、人喰い虎の死骸を一目見ようと野次馬が集まるわ、一言お礼を言いたい人々につかまるわ、果ては畑を荒らす猪や猿の駆除依頼、はたまた軒先の蜂の巣の除去やシロアリ被害の相談までも。かと思えば、彼らの会社で働きたいという面接希望の若者まで……収集がつかなくなってしまった。

 

 害獣駆除商会・社長に扮する魔術師ノエルは、その広範な知識の許す限り、愛想良く次々と応対して演技を続ける事、小一時間。なんとか耐えて街の外に脱出した。過労と心労により、ぶっ倒れたノエル社長は、ライルに担ぎ上げられ、眠るカイエンと一緒に荷車に乗せられた。


ある意味、有名人として顔を覚えられてしまい。

もう二度と、あの街には入らないと固く心に誓うノエルだった。


 そんな話を皆から後で聞かされたホークスは、ツボに入って笑い転げていた。万一自分が危険な書簡の処理に失敗した場合に、不測の事態が生じてもノエルがなんとかしてくれるだろうと思っていた腕利きの盗賊だったが、こんな事態は、さすがの彼でも予想外だった。


仕方がないので、一行はそのままその街を離れ、ここから一番近い別の街を目指す事となった。


 カイエンを運び出す際、何かあってもそのまま街を離れられるように宿屋を引き払い、自分達の荷物も一緒に載せておいた方が良いというノエルの判断は、賢明だったようだ。


---------------------------------------------


 その道中で、彼らは大きな荷物を抱えた家族が野盗達に襲われている現場に遭遇し救出に向かった。しかし野盗達を蹴散らした時には、男の子一人きりしか生き残ってはいなかった。農夫と思われる中年の夫婦は、無惨にも既に事切れていた。二人の遺体を手厚く葬り、その男の子を連れて立ち去る一行。



 アリアやティナが男の子から、なんとか事情を聞き出す。男の子の名はカイ。故郷がひどい飢饉に襲われて、新天地を求めてミッドランド北西部の新規開墾地区まで向かう途中だったという。十歳位と思われるその少年は、気丈にも涙を見せようとしない。何やら、胸の内に堅い決意が秘められているようだ。じっと、前を歩くギリアムの背負った巨大な剛爆斧を見詰めている。


「そんなに、あの斧が気になるのか、ボウズ」


ホークスがそんな様子の少年に気づき、声をかける。

カイは盗賊をちらりと見るが、下唇を噛みしめて、またじっとギリアムの剛爆斧を見詰めている。


「まだまだ、お前には無理だな、あれは」

「いつか、あれくらい使えるようになってやる」


初めてカイがホークスに口をきいた。


「んで、使えるようになったら、どうするつもりなんだ、ボウズ?」

「ボウズじゃない。カイだ」


カイは、なかなか気の強い子供のようだ。

その答え振りに、ホークスは何やらうれしそうだ。


「こりゃ悪かった。じゃあ、カイ。あんなようなのを使って、何するんだ?」


 少年は唇をぎゅっと噛みしめながら、相変わらずギリアムの剛爆斧を見詰めてホークスの方を向きもせずに答える。その瞳に、子供のものとは思えない程の燃え上がる怒りの炎を宿しながら。


「まだ逃げた奴等がいる」


カイの答えに、ホークスがピクリと片眉をつり上げた。

「ふ~ん、なるほど。復讐って訳か。くだらねえぞ、そんなの。やめとけよ、カイ」


初めてカイがホークスの方に顔を向けた。その顔がこわばっている。


「くだらないかどうか、あんたには関係ない。僕が決める事だ」


そう言い放つカイに、なぜかホークスはますますうれしそうだ。


「ヒュ~、なかなかどうして。気に入ったぜ、カイ。男ならそうでなくちゃな!」


そんなホークスに、少年は眉をひそめた。

復讐をやめとけと言っている一方で、この男は復讐を目指す自分を認めるような言動をする。


「どっちなんだよ?」


またもや、彼は少年にニヤリと笑いかける。


「ま、復讐なんて俺はくだらないと思うが、カイの気持ちも、ちょっとはわかる……そんなとこだ」


相変わらず、曖昧な所を飄々と歩いているような盗賊ホークスであった。


「変な人」

眉をしかめながら、少年がつぶやく。


二人のやりとりを背中に聞いていたギリアムが、背後の二人に声をかける。


「カイとやら。あまりその男に構うな。本当に変な男だからな」

「はいっ! ギリアムさん!」


 なぜか、ギリアムには素直なカイであった。実は、先程のギリアムの豪快な闘い振りに、心から尊敬してしまったのだ。目の前で両親を殺された時、非力な自分自身が、悔しくて悔しくて仕方なかった。弱い自分が許せなかった。自分もあのように強くなりたい、自分にとって大切な人達を、自分の力で守り抜けるくらい強くなりたいと心に誓ったのだ。


「おいおい、俺とずいぶん態度が違わねえか?」

ホークスがボヤく。


「子供が人を見る目は、確かよねえ。ホント」


ティナがそう結論づける。ライルもニヤリとうなずく。


「ま、そういうこったな」

「ティナ、ライル、お前らなあ……」


ティナやライルだけでなく、ノエルも無言で納得している。アリアはクスクス笑っている。


---------------------------------------------


 しばし、休憩を取る一行。この身寄りの無い少年をどうするのか、相談する為でもある。髭オヤジのギリアムが口を開いた。


「まあ、カイはマイトの所に預けるのが良かろう」

「マイトって?」


初めてギリアムの口から耳にする名前で、ティナが尋ねる。


「家内だ」


当然のごとくギリアムがそう言い放つ。

一行の間に衝撃が走った。

我が耳を疑う言葉がギリアムの口から飛び出したのだ。


「ギリアムっ! お、お前、結婚してたのかっ!?」

ライルが息巻いている。

「うむ。子供もいる」


ギリアムの口から、さらに物凄い言葉が飛び出した。もう、一同大騒ぎである。


「こ、子供までっ!? こいつはたまげたぜ」

ライルは開いた口が塞がらない。


「おいおい、マジかよ? 嘘だろ、おいっ!?」

ホークスも、信じられないといった表情だ。


「これは、意外でしたねえ……」

ノエルも、驚きの余韻に浸っている様子だ。


「そ、そうだったのですか」

アリアは、かなり戸惑っている。


「驚いたわね。なんで今まで黙ってたの?」

ティナがギリアムにそう問いかける。


「おや、言わなかったか?」


のんびりとしたギリアムである。その髭をゆったりと撫でつけている。

ホークスがたまらず声をあげた。


「聞いてねえぞっ、髭オヤジ! でも想像できねえな、ギリアムの女房なんてよ。それに、子供だあ~!?」


さすがの盗賊も、ギリアムにまんまとしてやられた感じがしているようだ(何をしてやられたんだか)。


「まあ、あいつの所にこの子を預かってもらおう。カイよ、心配するな。マイトはよくできた女だ」

「はいっ、光栄です、ギリアムさんっ!」


相変わらず、この豪勇の騎士に心酔している少年であった。


「そりゃそうよねえ。よくできた人じゃなきゃ、ギリアムの奥さんなんて務まらないわ。自分も子供も放ったらかして、出かけてばっかりなんて。私だったら、絶対許せないわね」


ティナが腕組みをして、ギリアムをじとっと睨んでいる。


「それはあやつも承知の上での事。たとえワシが旅路でくたばったとしても、マイトは納得しているだろう。わかってくれているのだ」


静かに、当然のようにギリアムは答える。


アリアは首を傾げる。

「そういうものなんでしょうか? 私は、好きな人にはいつも側にいて欲しいと思うのですけど」


アリアの言葉に、ティナもうんうんとうなずく。

「そうよねえ。やっぱり側に居たいわ、私だって」


どうやら女性陣は、ギリアムの言葉に納得いかない風である。


「ま、一通りじゃねえよ。愛の形ってやつはな。人それぞれだぜ」


そう告げるホークスに、ティナが眉をつり上げる。


「何訳知り顔してるのよ。まさかホークス、あなたまで実は結婚してるとか……」

「俺はティナ一筋だぜ」


すかさずそう答えて、ニヤリと笑うホークス。

ティナはげんなりと呆れている。全く本気にしていない様子だ。


「はいはい、あんたに聞いた私が馬鹿だった。この前、あなたとライルが酒場で口説いてた女の子達って、何て名前だったっけ?」

「う……」


言葉に詰まったホークスであった。

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