盗むのが盗賊のやり方 The Way of Thieves
「全く、こんだけ骨折りした割にゃ、一文にもなりゃしねえ。ホントに参るぜ。……いつかジューダスの軍師の所に忍び込んで、そいつのお宝をごっそり頂いてやる」
そうボヤくと、ホークスはごろりと横になる。この男なら言葉通りの事をやりかねない。
(後に実際、その計画を見事に成し遂げたホークスであった。金目の物だけでなく、悪意に満ちたいたずらを幾つも仕掛けてきたホークス。それにことごとくハマってしまったジューダスの軍師は、歯ぎしりして怒り狂い、悔しがったという)
ティナが腕組みをして、そんなホークスをまじまじと見詰めている。
「その天才軍師も凄いけど……ここにも、とんだ盗賊軍師がいるみたいね」
ティナの言葉に、ノエルも大きくうなずく。
「ええ。結局、ジューダスの軍師の思惑を見抜いて、ことごとくうち破り、戦禍の火花を影で未然に消し止めた男がここにいます。きっと、ジューダスの軍師も今頃しきりに不思議がってることでしょうねえ」
「どうとでも言えよ。俺は人様から認められてる立派な軍師様なんかじゃねえ。世間様から白い目で見られて当たり前の、汚ねえ卑しい盗賊なんだ。お宝の手に入らねえ仕事なんて、誉められたもんじゃねえぜ、全く」
口をとがらせて、またホークスがそうボヤく。
そんな自嘲的な態度のホークスを見て、ティナが軽く眉をひそめる。
「また、そういう事言う。あなた自分の事、そんな風に言うもんじゃないわ。凄いわよ、あなたって。お宝だったら、ホークスの分を、サミィからちゃんと私とアリアが預かってるわよ。ねえ、アリア?」
「はい。確かに素敵なものを頂いてます」
にっこりとするティナとアリア。
「おいおい、お前ら、あんな子供から巻き上げたのかよ? 大人気ないぜ」
ホークスが、顔をしかめる。
「サミィが、どうしてもって言うから。とっても素敵なのよ」
ティナは、いたずらっぽくホークスを見詰めている。
「いい。俺はいい」
横になったまま、ホークスは片手をひらひらとさせる。全く興味がないようだ。
「サミィの気持ちが一杯詰まってるんだから。腐らないの!」
ティナが子供をたしなめるお姉さんのような口調でホークスをさとす。
「わかった、わかった。で、どこにあるんだよ?」
ホークスが、いかにもめんどくさそうに身を起こす。
「アリア、いい?」
「はい。いつでも」
ティナとアリアが、ホークスの左右に陣取った。
「じゃ、ホークス。目を閉じて」
「もったいぶるなよ。早く渡せよ」
「いいから、目を閉じるの!」
ティナが睨む。相変わらず、ちょっと怖い。ホークスはおとなしくした方がいいと判断した。軽く溜息をつくと、ティナに言われるままホークスは両目を閉じた。
「へいへい。これでいいのか?」
それを確認して、ティナとアリアが顔を見合わせてにっこりする。
「よし、せ~の……チュッ」
「チュッ」
目を閉じたホークスに、ティナとアリアが両側からその頬にそっとキスをした。
「おわっ!? 何だ、こりゃ?」
その感触に、ホークスが目を開けて驚いている。
「素敵なお宝でしょ。サミィの感謝の気持ちが一杯こもったキスよ。どう?」
ティナがにっこりとホークスの顔を覗き込む。
腕組みをして首をかしげるホークス。
「う~ん。目を閉じてたし、突然だったんで、よくわからなかったなあ。……もう一回。今度はちゃんと心して味わうからよっ、な?」
ティナは大きく溜息をついて、腰に手を当てる。
「しょうがないわね。まあよく頑張ってたみたいだし、今回は特別よ。アリア、いい?」
「はい。構いません。ホークス様、一所懸命でしたもの」
「ささ、早く、早く!」
早くも目を閉じたホークスが、あぐらをかいた足をバタバタさせてせがむ。まるで子供のようだ。そんなホークスに、ティナは肩をすくめ、アリアは微笑む。
「はいはい。じゃ、いくわよ……」
「はい」
二人がもう一度、そっとホークスの頬に唇を寄せる。……と、ホークスは間合いを見計らって目を開き、二人の唇を次々にかすめとった。そしてパッと身を翻して駆け去ってゆく。
「ちょ、こらっ! ホークスっ!! そこまでは許してないっ!! 待てっ!」
だまされてしまったティナが、怖い顔をしてホークスの後を追ってゆく。
アリアは顔を真っ赤にして押し黙っている。
『盗むのが盗賊のやり方だ。うんっ、二人ともなかなかのお宝だったぜ』
盗賊の声が遠のいてゆく。
「全く、どこまでも人を喰った男だわい。フフッ」
ギリアムは、少し楽しそうに酒をあおっている。
「やれやれ。あれがほんとに、ジューダスの天才軍師とタメ張ってる男の姿ってか、ノエル?」
横になりながら、あきれ顔でホークスの背中を見やるライル。
「う~ん、その軍師も、もしホークスに出会ったとしても、まさかこの男が自分の策の一つを破った男だとは気づかないかもしれませんねえ。ある意味、ホークスの方が上をいっているというか、下をいっているというか……不思議な人ですねえ」
ノエルは腕を組んで、生真面目に考え込んでいる。
後でたっぷりとティナに殴られ、二日間アリアから無視されてしまったホークス。後の語り草では、この物語は、彼らが街の人々を恐怖に陥れた、巨大で凶悪な人喰いトラを退治した事となってしまっている。事件の真相は、ライル達の胸の中にそっとしまわれている。サーカスは解散したが、サミィとカイエンは、仲の良い団員と一緒に、人里から離れた所にある亡き団長の家に住み着いて、静かに暮らしているという事だ。こうして、国家レベルの問題に発展しかねない事件を、闇のうちに解決してしまったライル達であった。
---------------------------------------------
~その後……~
「痛てえなあ、ティナ。アゴが外れるかと思ったぜ」
戻ってきた所を直ぐさまティナに捕まえられ、問答無用で殴り飛ばされたホークス。
「二度とあんな真似するんじゃないっ! 今度やったら……わかってるでしょうね!!」
怒りをその目に灯して、ホークスを睨みつけるティナ。
「へ、へい!! もう金輪際いたしませんっ!(おお、怖ええ……)」
ムスッとして、さらにドスの効いた低い声で、ティナは再びホークスに念を押す。
「アリアにもあんな事するんじゃない」
「へいへい、わかってやすって。二度といたしやせん」
アリアは、押し黙っている。そんなアリアに、ホークスが近づく。
「悪かったな、アリアの嬢ちゃん」
ホークスがアリアの顔を覗き込もうとすると、アリアはプイッと横を向いてしまった。
「なあ、悪かったって。反省してるぜ」
アリアが向けた顔のほうに、ホークスがぐるりと回るが、アリアはまた反対の方に顔を向けてしまう。温厚なアリアにしては、かなり怒っているようだ。
「まさか、嬢ちゃん。あれがファーストキスだったんじゃあ……」
「ち、違いますっ!!」
顔を紅潮させて、初めてアリアがホークスに口を開いた。
「……はあっ、よかったぜ。一生恨まれるところだった」
アリアは口を尖らせて、またホークスから顔を背けてしまう。
「もしや、ファーストキスのお相手は、ライルの旦那だったんじゃあ……」
懲りないホークスが、ニヤニヤとまたアリアに問いかける。ホークスのその言葉に、みるみる顔が赤くなってしまうアリア。あの洞窟で、ライルに口移しで薬湯を飲ませたアリアだった。確かに、アリアの唇に触れた初めての男はライルには違いないのだが……。
「おいおい、冗談のつもりだったんだがなあ。これはもしや……」
ティナが、そんなアリアの様子をうかがって、険しい顔をして沈黙している。
アリアの顔は、もう耳まで真っ赤だ。
「知りませんっ!! 私に話しかけないでくださいっ!!」
ズカズカとアリアは歩く速度を速めて、ホークスから離れた。頭から怒りの湯気が立ちのぼっているのが見えるような感じだ。
肩をすくめるホークス。
「やれやれ、いつになったら許してくれるのかねえ」
「自業自得。私だって、まだ本当には許してない!」
なぜか、ティナは更に不機嫌になっている。ホークスがニヤリとする。
「まさか、ティナ。旦那にヤキモチ焼いてるんじゃ……」
ホークスがそう口を開いた瞬間、ティナの腰の入った一撃が、ホークスのアゴ先にきれいに決まった。ホークスは、アゴを押さえて悶えている。
「うごっ……ティ、ティナ……舌噛んじまったぞ。痛ってええええ!」
「つまらない事言ってるんじゃないっ!! 全く!」
ティナも、プリプリ怒って離れてゆく。
「(へいへい。おふざけが過ぎました。……でも、面白れえな、あいつら)」
懲りないホークスであった。
~~~~第五話【人喰い虎カイエン】終幕~~~~
ホークスが存分に力を発揮したエピソードです。
盗賊って、TVゲームとかでは、敵を攻撃すると金を盗める、とか、宝箱の中身がわかるとか、そういう特殊技能で表現されてます。
でも盗賊の本質って、そうじゃないと思うんです。
世の中の表裏、人の欲望や心理を見抜いて裏をかき、目的のモノをGetするのが盗賊なのではと。
古代遺跡の財宝を狙うにしても、罠を仕掛けた人間の好みや傾向を見抜いて、罠の裏をかいてお宝を頂くという訳です。
そういう感じの盗賊なら、こうした策謀を見抜く力も鋭いはず。
次回は【ミッドランドの夜】。
お馬鹿な話です。
みんながわいわいやってる楽しげな雰囲気を描きたいと思いました。
もう、ほとんどお笑いばっかです。
んでは!




