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彼らの魂の輝きが、あなたの心に届く事を願って ~ライル戦記~  作者: Forest Eiju
外伝5【引き継がれるもの】What Is Passed On.
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双子の魔術師 The Twin Mages

魔術アカデミーの離れた一角に通じる閑散とした石造りの廊下。

その静かな空間に、二人の女性の軽やかな足音だけが響いている。

無機質なその空間が、この若き女性達の華やかさで明るく和らいでいるようだ。


一人は若草色、もう一人は落ち着いた淡い青色のローブを身にまとった美人双子姉妹が向かっているその男の部屋は、魔術アカデミーの建物の中でも一つだけ離れた一角にあった。その男がアカデミーから名誉ある『導師』の称号を授与された時に、この専用の自室も与えられたのだ。


まあ、聞こえは良いが、実質はその男、アカデミー内で隔離されているも同様だ。



魔術アカデミーが抱える一番の厄介者の部屋を目の前にして、若草色のローブを着た女性は眉根を寄せ、今一度、気を引き締める。今から対峙しようとする男は、彼女の天敵だ。しかし、アカデミーから命じられた名誉ある任務を遂行するためだ。不本意だが、仕方ない。


その任務には、この部屋にいるはずの男を同行させる事が必須となっている。というか、今回の仕事を中心的にこなすべきとされているのは、その男なのだ。


彼女は妹と共に、この男の補佐をするという立場を言い渡されている。まあ、それは表向きの名目で、裏の役割としては不穏な彼の監視だ。場合によっては、アカデミーの規律に著しく抵触するような動向が確認された場合は、その報告を行うよう内々に彼女達は命じられている。


ただ、それだとしても彼女にとっては腹立たしい事なのだ。立場上、彼が上司で自分はその補佐という形が、癪に障る。その深緑色の瞳が苛立ちに燻り、前髪を無意識に何度もかきあげている。彼女が緊張している時のクセだ。


そんな様子の姉に、少し後ろで控える妹は苦笑する。


「オリビア姉さん。そんなに身構えなくても。かえってバレるよ」

「アロセール。ちょっと黙ってて」

「は~い」


顔立ちも背丈も、目も髪の色も全く同じの妹は、姉とは違った色合いの淡いブルーのローブを着て、髪をかっちり結い上げている。頭の後ろにまとめた髪が左右に二つ、お団子のようにくっついてる感じだ。


実は、普段はローブの色もこの髪型も、お互い逆なのだ。

しかし、今日は姉が言い出した提案に乗って、服と髪型をお互いに入れ替えた。


たまにこうして、入れ替わる事がある姉妹だ。


気分転換も兼ねた、ちょっとした、いたずらなのだ。

双子の彼女達は、お互いの仕草や口調を自在に演じる事ができるのだった。

今のところ、周りの人間に見破られた事は一度もない。



 ピリピリしているオリビアに、妹のアロセールは笑いを吹き出してしまいそうになるのを必死でこらえている。真面目な優等生の姉が、彼の事になると過剰に敵意を燃やしている様子は本当に面白い。その男は、姉と席次の順位を争うライバルでもある。彼が導師の位を獲得した事で、現在姉は差をつけられた形になっているのだった。そういう悔しさもあるのだろう。


 今日などは、姉はその男にこっそり一矢報いてやろうと、いつもの服装と髪型をわざわざ自分と入れ替えてまでいる。目の前の部屋にいるはずの男が、その事に気づかなかったら姉の勝ち、という事らしい。姉の提案を聞いて、楽しそうなゲームだとアロセールはすぐさま承知した。


 今の所は順調で、この部屋に到着するまでに二人が出会った人間達は、親友でさえも見破れていなかった。さすがに双子。一卵性双生児で、そのDNA配列はほぼ同じだ。そして二人とも将来有望な若き魔術師として、魔術アカデミーにその名を認められつつある名物・女魔術師姉妹でもある。二人の美貌も、かなり評判になっている。


そんな姉妹に、今回魔術アカデミーから指令が下った。

とある山間部の集落で起きている事件の調査だ。

可能であれば、その解決も依頼されている。


 社会からの要求があれば、依頼内容を委員会が検討して受諾の判断を下した上で、こうした仕事も魔術アカデミーは引き受けている。もちろん、単なる慈善活動という訳ではない。そんな理由でアカデミー組織は動かない。仕事を依頼してくる人々は、必ず報酬を用意している。それはアカデミー運営資金の一部となる収入源でもある。


魔術アカデミーが、こうした対外活動に関して表向きに掲げる理念としては、


『魔術を通じて世に貢献し、術者の技と精神の更なる向上を促す』


といった所だが、(優等生のオリビアが特に共感できそうな考えだが)

魔術師達から「厄介者」と陰口を叩かれる、その男に言わせると次のようになる。


----------------------------------

・ 保身と停滞、見栄と歓楽をむさぼる、頭でっかちな『偉大なる魔術師様たち』が、無能な自分達自身が招いたアカデミー財政難を安易に打開しようと、弱い立場の新米魔術師達を脅し、安いエサをちらつかせて酷使させ、懐柔させるための手段の一つ


・ 自分達には理解できない魔術という力を持つ者達を恐れ排除しようとする、世の衆愚からの理不尽な迫害を回避するための身売り。愚かな人間どもへの最小限の生贄。


・ 魔術アカデミーの力を誇示するための直接的な宣伝効果。そうする事によって外圧に対して牽制し、あわよくば力を高く売りつけ、いざという時に権力の傘下に入ってアカデミーの保身を図るための低コストな投資


・ 『偉大なる魔術師様たち』にとっての危険分子を遠ざけ、排除するための卑劣な手段

----------------------------------


という事だそうだ。


以前、そんな答えを彼から返されたオリビアは、激怒して彼に反論を展開したものだ。


 しかし、側で二人のやりとりを黙って聞いていたアロセールの見る所、オリビアの主張は彼の考えを変えるには至らなかったようだ。普通の者が聞いたら、オリビアの考えは道義的な熱意と信念に溢れていて耳に心地良く響くだろう。


彼はオリビアの考えに口を挟まず、じっと耳を傾けていた様子であったが、


『聡明なるオリビア嬢。あなたを素直に尊敬しよう。この世界の片側にある、光の中にある真実を信じる人として。しかしあなたは、この世界のもう片側にある、闇の中にある真実を知らない。いや、知りたくはないのだろう』


とだけ言って、その場を立ち去っていったのだった。

いきなり場面が変わって戸惑った読者様、すみません。

あえてそうしているのですが、わかりにくいかも。

若き日の双子の姉妹と、もう一人の男との青春時代の物語の始まりです。


次回は、若きオリビアの天敵である人物が登場です。

執筆活動を再開したものの、ブランクがありリハビリ中で、仕事も疲労もたっぷりと、

という状況ですので、気長に待って頂けたら幸いです。

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