もう少しだけ Just a Little More..
少々遅めの朝。
窓から差す日差しは、もうかなりまぶしくなってきている。
そんな日差しが、寝具の中で共に横たわっている男女に差し込んでくる。それは女の寝顔を明るく照らし、そして男の顔にはまだ影が差している。
ティナが目を覚ますと、なぜか悲しげな顔をして横に寝ているホークスの閉じた瞳から、キラキラと涙が光っていた。そんな男の寝顔をまじまじと見詰めていると、その気配を察したホークスが目を覚ます。ちょっぴりためらいがちに、小声で女は男に口を開いた。
「……おはよ、ホークス」
「お、おう」
ホークスは戸惑う。
こんな朝がやってくるとは、今更ながら、変な感じなのだ。
どうやら、それは彼女も感じているらしい。
「フフッ。なんか、変な感じねえ。あんたとこんな風な朝を迎えるなんて」
寝そべったまま、う~んと伸びをするティナだ。
夜具の上から覗く胸元が、朝の陽光に煌めいてまぶしい。
彼女は、健康的で奔放な魅力に満ちている。ずり落ちてきた夜具を元に戻そうともせず、ティナは横で自分を優しく見詰めていてくれるホークスに顔を向ける。
「どんな夢、見てたの?」
「あ? ……いや、たいしたモンじゃねえさ。お前をからかって、殴られてたトコだったのさ」
そう言って、盗賊はニヤリと笑いかける。
相変わらずの空気。
ティナはそんな事を言うホークスに、いたずらっぽく、ずいと顔を近づける。
「そうなんだ。よっぽど私、ひどくあなたを殴ってたみたいねえ」
「おお、よくわかるな。見事な一撃だった」
「それで、泣いてたって訳なの?」
男女の間に、沈黙が訪れる。
ホークスはティナの問いに目をふせ、視線を彷徨わせて口を閉ざしている。やがて彼は、わざと大きなあくびをする振りをして、目尻の涙をこすりとった。彼にしては珍しく、不器用過ぎる演技だった。
そんな彼の様子に、ティナは、なんとなく、もの悲しさを感じてしまう。
身体は触れ合っていても、以前よりはお互いに心が近づいてきていても、この男の奥深くに隠された心は、まだまだ遠く感じられてしまうのだ。彼の気持ちは素直にうれしかった。こうなってしまった事実にも、後悔はない。彼の事は、好きだ。なかなか本当の気持ちを明かしてくれない所も含めて。意外と不器用な、かわいらしい所も好きだ。そういう所は自分と少し、似てるかもしれない。
でも、それでも自分は、本当はまだ……
『彼』の事を不意に思い出す事がある。
何気ない日常の中で、突然それに気づかされる。
いざ宿屋を出ようと装備を整えていると、『次は彼の装備をチェックしてやらないと』などと無意識に考えていたりする。『彼』は傭兵時代の頃、よく大事な装備を忘れてきたからだ。
夜、寝る前に、いつの間にか『彼』の顔が浮かんでくる。
ごく自然に、そうしてしまっている自分がいる。
まだゴシゴシと目を擦っている、そんな男をじっと見詰め続け女は再び口を開いた。
「ね、話してみない? 今見てた夢の事」
「いや、なんでもねえ。なんでもねえのさ、ティナ」
女はそっと半身を起こして、男の顔を覗き込んでくる。
「いいから、話してみて。……ね?」
限りなく優しい声で、ティナはそっとホークスを促してやる。
そんなティナに、ホークスはちらりと顔を向けて見上げる。彼女の優しげな微笑みは朝の光を背景にして、彼にとっては眩しいくらいに美しく見えた。天女が舞い降りてきたようだ。女神様が人の世に現れたようだ。
『女は、神様が創った最高の芸術品だ』
酒に酔う度、豪放にそう告げていた、師匠ギャラハッドの言葉が思わず胸に浮かんでくる。
今、その通りだとホークスは思った。
やがて。
途切れ途切れに、男は語り出す。
その夢の事を。
かつての自分の心の姿を。
魂をぶつけてきてくれた、師匠の事を。
その時告げられた大事な言葉を。熱い想いを。
その時に感じた事を……
そして、今振り返って想う事を……
偽りなく、ありのままに、飾らずに打ち明けた。
途中で話は前後したり、つじつまが合わないような言葉が飛び出してきたりしたが、ティナは静かに静かに、辛抱強くじっと耳を傾け続けていてくれた。
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心の中に転がる想いを全て出し尽くして、ホークスの言葉が終わる。
例えようもない悲哀に満ちたその横顔。それは、普段はにぎやかにおどけている顔の下に隠された、彼のもう一つの顔だった。
悲しい道化師の、本当の顔。
ティナはそっと彼の横に裸体を寄り添ってきて、その豊かな胸にホークスの頭を両腕でそっと抱いてやる。
「そっか。そうだったの。……私には、あなたを励ませるような言葉、何も見つからない。『頑張って』なんて、私はあなたには言えない。だって、あなたはもう十分、頑張ってきたんだもの」
「ティナ……」
「もうちょっと、こうしててもいい?」
「ああ……頼む」
「フフッ。よし、頼まれた」
そうして男は、女の柔らかな胸に頭を預け、穏やかな安らぎを見いだしている。ティナの肌は、とても良い香りがする。温かく柔らかい。
女は、泣きたくなるほどに切なく感じてしまう男の生き様を想い、静かな慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、男の頭を優しく抱いてやっている。抱きしめてやりたくなるのだ。どうしても。
しばしの時が流れた。
そして、静かに男は告げた。
「ティナ」
「なあに?」
「やっぱ、別れよう」
「……そうね」
女は静かに、うなずいた。
別れの言葉を受け入れた。
「何も訊かねえんだな」
「うん。なんとなく、そんな気がしてたから」
少し寂しそうな美しい微笑みを浮かべて、女は告げる。
「お前は……いや、何でもねえ」
「私なら、大丈夫。もし、彼に会ったら、そう伝えて。……アリアにも」
「わかった」
女は大きく一つ、溜息をついた。
「あ~あ、私って、ホントに男運がないみたいねえ。いい男には結構出会うんだけど、なんか縁が無いのよねえ」
「いつかきっと、お前にぴったりのいい男が現れる。できれば、それが俺だったらって思ったが……俺じゃダメだって事は、よくわかった」
男の言葉に、女は軽く小首を傾げる。
「そうかなあ? う~ん、そうかもしんないなあ。確かに私じゃ、盗賊のあなたの仕事の足手まといになるしね。正直言って、しばらくつき合ってみて、やっぱこういう仕事は私には向いてないって思った。私は、盗賊にはなれないわ。でも、あなたはまだまだ、盗賊を続けるつもりなんでしょ?」
「ああ。師匠を超えたい」
きっぱりと、男は告げる。
今は亡きあの男に認めてもらえるようになりたいのだ。それが、彼の追い求める夢なのだ。たとえ見果てぬ夢だとしても。それでも、その師匠の大きな背中を追いかけずにはいられない。
「やっぱりね。まあ、しょうがない。私は私で生きていくか。あなたもあなたで生きていく。そうしましょ」
「そうだな……あのよ、ティナ」
「なあに?」
男は女の胸の中で、目を閉じる。
「もう少しだけ、こうしててくれねえか? もう少しだけ……」
「うん……」
~~~~外伝3【ナイフをいじる少年】終幕~~~~
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外伝第三弾は、盗賊ホークスを主役に据えて描きました。
(……のつもりが、師匠ギャラハッドに乗っ取られた気も)
彼の心の奥深くまで、なんとか掘り下げてみたかったのです。あのラストでは、彼の心にある想いの深い所は触れてないし、ずっと心に引っかかっておりました。
とゆーのも、当初二部構成で考えてた【ライル戦記】の、第二部の主役がホークスだったくらい、魅力的な人物なのです。「ちょっと危険な闇の香りがある」、「真面目な恋愛には意外と不器用」、「報われない片思い」、「かわいそうな子供時代」、「笑いがとれる」、「決める時にはキメる」と……物語を描く立場としてはテーマ盛りだくさんの、かなーりおいしい人物なのでした。
そんな彼を主役に据えてみた外伝3【ナイフをいじる少年】は、やっぱり薄々感じてた通りに、これほど長い物語になってしまった次第です。当初の予定では、冒頭の請求書のエピソード、温泉郷の出来事を省略し、いきなりホークスの少年時代だけで始めてしまうつもりでした。でも、前後がどうにも不自然な流れになってしまいそうで、外伝として描こうとしていたエピソードの二つ三つを同時に描く形となりました。ですから、ボリュームもそれなりに膨れあがってしまったのです。
ああ、すっきりとした長編が書けるようになる日は、いつの事になるのやら……
(ムリっぽい)
さてさて、恒例の!(←そうなのか?)
このエピソードのネタばらし~~♪
・ ホークスの女性ファンの皆様からの、熱き声援の数々に後押しされて。
(これを連載し始めてから、もお熱い反応が次々と。「ホークス様!」、「かっこいい~~」、「切ない……」などなど……でも、お師匠さまのギャラハッドに心奪われてしまわれた方も。盗賊ホークス一派の男は、きっと代々女好きなんだろーなあ。ああ、ホークスの娘のリンちゃんに、清い道へ戻してもらいましょう。
・ あの男女の関係に、一つの結論をと。
(って表現してよいものやら。う~ん……ティナの未来の旦那様、リデル君との対比の意味合いも込めてます。彼女がホークスと共に盗賊稼業に身を染める姿は、不自然だと感じました。実は『二人は別れる』という展開が先にあって、後からリデル君という人物像が見えてきたんです。って事は逆にホークスには……あわわ。これは幻の【ライル戦記・第二部】の設定)
・ちょびっとだけ、自分の少年時代の心象の投影と整理を。
(ホークスほど悲惨なモンではありやせんが)
・ ごく最近、『パパ』になってしまった友人の赤ちゃんを先日抱かせてもらって。
(「子供の幸せを願わない親なんていない」と痛感したのです。自殺した自分の親父も、きっと自分の事をこんな風に面倒みてくれたんだろうなあと。師匠ギャラハッドに、その時感じた気持ちを託しました。『小さな白い花』は、赤ちゃんをイメージしております。無心に生きる命の象徴です。誰でもそうやって、生まれてきたはずなのです)
にしても、ホークスとティナとの関係には、ホントに悩んだものでした。
なにせ、男女の恋愛模様は、作者にとって禁忌の領域。
かなーり、苦手意識が強いのです。(←未熟者)
ティナの行動の是非にも疑問アリと言えなくもないしなあ。
ホークスが選んだ答えも、それで本当に良かったのかどうか?
やはり、男女の恋模様には、『正しい道』なぞありやせんかねえ……。
勘違いして、すれ違って、お互い傷つけ合って、過ちを繰り返しながら、
何かを見つけてゆくものなんでしょうか?
そもそも、何が『過ち』なのかなんて、言えないのかもしれないっすが。
後で振り返ってみて、そう感じてしまうものなのかも……
こーゆーのに『万人共通の模範解答』なぞ、ありはしないんでしょうから。
<唐突に……【ライル戦記&外伝】コント劇場~♪>
ギャラハッド「なにをグダグダ言ってやがる。感じたら、突っ走れ!(うまくな♪)」
作者 「お前みたいな野郎ばかりじゃねえんだって」
アリア 「ちょっと、ギャラハッド様がうらやましいです。素敵な方ですね」
ティナ 「まあ、なかなかああいう男はいないかもね~」
ギリアム 「あんな男ばっかりだったら、この世はとんでもない事になる気がするがな」
ライル 「っていうか、ここ最近俺の出番がねえような気がするんだけどよ」
ホークス 「今頃気づきやがったのか!? 鈍いってばよ、旦那」
ノエル 「(ライルはまだましですよ。私は影すら出てませんねえ。まあ、静かでいいですが)」
キャロル 「お師匠様あ~っ♪ みんなで何してるんですか? 混ぜてくださいよう!」
ノエル 「(そうもいかないようですねえ……)はあっ」
キャロル 「なんで溜息なんかついてるんですかあ? 私のお父さんとお母さんはOKくれたんですから、大丈夫です♪」
ノエル 「そ、そうですか」
ティナ 「あら~? 元気でかわいい子じゃないの、ノエルってば。あんたがね~、へええ」
キャロル 「初めまして、キャロルです! お師匠様の一番弟子&未来を約束した彼女です♪」
ホークス 「なになに!? ノエル、おめえって野郎は、教え子をたらしこむたあなあ」
ノエル 「ひ、人聞きの悪い! そういう感じではなくてですねえ、その、なんというか、成り行きというか……」
ギャラハッド「うんうん、わかるぜ。男と女は、そういうモンだ。自然の成り行き、それもまたよし!」
ライル 「とにもかくにも、めでてえなっ! おしっ、『ノエルやったぜ祝賀祭』だ!(←祭り好き)」
ギリアム 「うむっ! めでたい事だ。(←酒が飲みたいだけ)」
ギャラハッド「おお、そうこなくちゃな!(←やっぱり酒好き)」
ホークス 「いいねえ、いいねえ♪(←酒&宴会好き)」
作者 「ああ、うっせえ……コラ! 俺の酒を勝手に出して飲むなあっ!」
ティナ 「ではでは、ここでノエルの未来の妻から、一言お願いしま~す♪(←なぜか仕切ってる)」
キャロル 「え~、今日は私のために集まって下さり(←違うと思うぞ)、本当にありがとうございま~す♪」
アリア 「お幸せに~っ!(←酒入り始めてる)」
ホークス 「いいぞ、嬢ちゃん! こういう煮え切らねえ野郎にゃ、押せ押せが一番だ」
(ノエル、ホークスにガシッと首に腕を回されてる。人の事言えねえって、ホークス)
ライルとギリアムとギャラハッドが妙におとなしくなったと思ったら、三人でアームレスリング大会をやってる模様。(なかなか接戦で燃えてる様子)ああ、筋肉馬鹿達め……あの周りだけ気温が2~3℃上がってる気が。
キャロル 「今度きちんと両親に紹介しますからねっ♪ 着ていく服を一緒に選んであげます!」
ノエル 「は、はいはい……」
なにやら気苦労の絶えないノエル。
(キャロル主導で、着々と結婚への裏工作(?)が進められているらしい)
ああ、なにがなんだか、もお……
登場人物全部揃えて大宴会したら、一つの短編作品くらいになりそうな気が。
さあ、次の外伝は、アリアのエピソードを予定しておりま~す!
彼女の初恋(?)の物語【あの人は、今】です。
ひとまずこれが最後の外伝となりまする。
その人は、漆黒の瞳と髪をした男でした。
子供のアリアが、初めて『癒しの技』ができるようになった時のエピソードです。
お楽しみに!




