人さらい? Kidnap?
ならず者達の一団に、ざっと行く手を遮られたギャラハッド。
まだ少年の年頃もいれば、屈強そうなごろつきも混じって、まずは十数人。手に手に短剣やらクギの飛び出した棍棒、鉄棒、ジャラジャラした鎖を振り回す男もいる。
この盗賊は、両手を握ったり開いたりしながら、身体中の血が逆流してゆくような心地よい感覚を存分に味わっていた。隠密行動を基本とするような盗賊にしては珍しく、ギャラハッドは派手な乱闘が大好きだった。彼の肩・胸・背中、そして腕の筋肉が隆々と盛り上がってきて、ぴったりした黒光りするなめし皮の服が弾けんばかりだ。懐から素早くサッと黒い手袋を取り出して装着する。指先が出るようになっている革手袋だ。そして両拳を一度ガシリと胸の前で打ち合わせる。
「俺様が用があるのは、あの灰色の髪したボウズだけだ。邪魔すんなよ……って言いたいトコだが、喧嘩もずいぶん久し振りなんでなあ。せっかくだから、思い切り邪魔してくれや!」
ニヤリと笑うギャラハッドに、左右から同時に男が襲いかかってきた!
左の男の棍棒をすらりとかわして足をかけて転がす。右のマッチョな男が渾身の力を込めて両手で振り下ろした鉄棒を、右手一本でやすやすと受け止めて握りしめる。
「まだまだだな。腰が入りきってねえぞ。おいっ、しっかりしろや!」
言うや否や、口にくわえていた火のついたタバコを左手で男の眉間に押しつける。たまらずマッチョな男が怯んだ瞬間、懐に入って男の股下に肩を差し入れ、ぐるりとひっくり返すように脳天から地面に叩きつけた。男は目から火花が出るような衝撃に失神する。(柔道の『肩車』という技に近い)
すかさず失神した男の足をそれぞれ脇に抱え、グッと持ち上げつつ身体を回転させてゆく。(プロレスの『ジャイアント・スイング』だ)
そのまま男の身体を豪快にぶん投げて、短剣を振りかざして自分に飛びかかろうとしていた数人の少年達と鉢合わせさせる。
「おらっ、来いっ! 次だっ、次っ! どんどん来いっ! おらおらおらおらあああ~っ!!」
両目を生き生きとした喜びに輝かせながら、その一群へ拳を構えて突っ込んでゆく。
もう誰にもこの男を止められない。
ギャラハッドは一心に喜々として拳を振るっている。その拳は全て、素早く鋭く、的確で重い。殺気立つ一団の中を、野性の闘争本能の赴くまま縦横無尽にギャラハッドの黒い影が吹き抜ける。かすり傷一つ負っていない。
さすがに三番目に喧嘩が好きと豪語するだけはある。
(一番目は、「お宝」。二番目に「女」。三番目に「酒と喧嘩」と続くそうだ。なんだかな~)
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そうしてギャラハッドが最初の一群に大体カタをつけた頃合いだった。
ふっと喧嘩への集中がわずかに緩んだ瞬間、のどへ狙いすました短剣が一本、鋭く空を切って飛んできた!
紙一重で手の甲で弾き飛ばしたギャラハッド。
その革手袋に、すうっと切れ目が入り、手の甲に血の筋が滲み出る。
その短剣を投げつけた少年が、針のように目を細めながらギャラハッドを観察している。少年のホークスだ。まだ後ろに控えて息巻いている残る子分達を一睨みして制して油断なく進み出てくる。間合いは充分に取って。灰色の髪を後ろで束ねたその少年は、慎重に口を開いた。
「貴様……何モンだ? ただ者じゃねえ。ダークウッドの一味に雇われた殺し屋にしちゃ、やり方が派手過ぎる。……っていうか、アホだ。たった一人で俺達に正面切って仕掛けてきた野郎は、お前が初めてだ。考えようによっちゃ確かに、裏をかかれた気もするが……ここまでだ。十本の矢がお前を狙ってる。でも、どうにもわからねえ。お前が殺す気があったんなら、さっきのやつら全員あの世行きになってるハズだ。何が目的だ? 俺達の所に身を置きたいってんなら、勝手にしろ。面倒なコトさせんじゃねえ」
ギラギラした視線を容赦なく向けてくる少年に対して、不敵にニヤリと笑う盗賊だ。
「何寝ぼけた事言ってやがる。俺様は最初に言ったじゃねえか。面白れえ所があるから、一緒に来いってよ。それにな、俺がおめえのトコに身を置くんじゃねえ。……ボウズ、おめえが俺のトコに来るんだ」
ギャラハッドは、ゆっくりと少年の方へ一歩踏み出す。
それを見た少年がさっと左手を振った。
瞬間、四方から一斉に矢がギャラハッド目がけて放たれる!
その刹那、ホークスの視界からギャラハッドの姿が消えた。
ゆっくりとした一歩を踏み出した盗賊ギャラハッドは、一気に加速して信じられないくらい高く跳躍して矢をかわし、膝を抱えて空中で一回転して身をひねると、ホークスの背後に猫のように音も無くすらりと着地していたのだ。
振り向き様に短剣を引き抜こうとしたホークスだ。しかしギャラハッドはいきなり、少年の脇腹にバッと手を伸ばして、くすぐり始めた!
何もかも意表を突かれた少年は、たまったものではない。手にした短剣を取り落としてしまった。先程投げつけた短剣も地に転がっており、少年は丸腰だ。
「……ぶっ、ううう、うあははあはっ! て、てめえ! 何しやがるっ!」
「おお、そうそう。ガキはガキらしく笑え。もっとだ。もっと笑え! 腹の底から笑え! どうせおめえ、何年も笑ってねえんだろ?」
「や、やめろっ!」
ホークスの素早い拳を、この変な盗賊は紙一重でひょいひょいとかわしてしまう。かすりもしない。そして隙を見ては、ホークスの脇腹を再びくすぐってくるのだ。
「おらおら、どうしたボウズ! そんな情けねえパンチじゃ、この俺様のハンサムな顔にゃ当たらねえぞ。やっぱ、どんだけいきがっても、ボウズはボウズか」
「くそっ、くそっ、ボウズじゃねえっ。俺はホークスだっ!」
少年は今度は狙い澄ましたハイキックを、この長身の男の顔面めがけて跳躍しながら蹴り込む。何人の大人も一撃で気絶させてきた得意技だ。しかしギャラハッドは片手で軽く受け流す。二人の闘いに手が出せず、取り巻きの子分達は息を飲んで見守るばかりだ。
「やーい、ボ~ウズ、ボウズ♪ ケツの青いうちは、まだまだボウズだ」
どっちが子供なのかわからないような口調で、変な男は少年をからかう。
「青くねえっ!」
「そうなのか。どれどれ」
瞬時に少年の背後に回り込み、いきなりひょいと仰向けにして左肩に抱え上げた。すかさず少年のズボンを下着ごとペロリとまくり下げて、尻をしげしげと確認するギャラハッド。
「おお、一応、青くはねえな」
「くそっ! やめろっ! 降ろせっ!」
怒りと屈辱と恥ずかしさに、顔を真っ赤にして暴れるホークスだ。
その右肘が、ギャラハッドの脳天に炸裂した!
「うおっ!?」
思わず、少年を押さえている手が緩む。すかさずホークスが身をよじって逃げようとするが、ギャラハッドは今度は少年をうつぶせの状態で素早く左脇に抱えこむと、そのままずいずいと通りを歩き始めた。
ちなみに、ホークスはまだ半ケツ状態で、足側がギャラハッドの進行方向に向いている格好だ。ジタバタともがいて、この男の身体に拳を叩きつけているのだが、全く通用していない。この男の身体中を、針金のような筋肉が覆っているのだった。
「降ろせえっ!」
「まあまあ、ボウズ。面白い所へつれていってやるってばよ♪」
「とにかく降ろせっ!」
「遠慮するなって、ほれほれ」
「ケツを叩くなっ!」
めちゃくちゃに暴れるホークスに、ギャラハッドもさすがに手を焼き始めた。
「暴れるなって。おらっ!」
いきなり少年を抱えている左腕一本で、ぐいと上へ逆さに持ち上げると同時に、空いている右拳でホークスの後頭部へ狙い澄ました一撃を加えた。
ぐったりとする少年。
そのままギャラハッドは気絶した少年を脇に抱えて、鼻歌を歌いながら上機嫌で歩いてゆく。その行く手には固唾を飲んで見守っていたホークスの子分達が群れているのだか、気にもしない。ずんずんと歩いてゆく。
武器を構えた子分達が身構えたが……
ギャラハッドの鼻歌が止まる。その瞬間。
ぞくりとするような凄まじい殺気に満ちた冷たい眼光が、ギャラハッドの両目からギラリと叩きつけられた!
人垣が崩れ、ざっと道が開く。
ギャラハッドが通り過ぎてゆくのを、息さえも止めてゴクリと唾を飲み込む子分達。この盗賊が闇の顔を見せている間、ピクリとも身体を動かす事ができないでいる。
そこを通り過ぎると、またギャラハッドは陽気に鼻歌を歌いながら、少年を抱えてその街を立ち去っていった。
こうして少年ホークスは、変な男にさらわれた。
ギャラハッドの言う『面白い所』=『危険な古代遺跡』にて、彼は何度も死にかける事になる。




