二番目の? The Second
最後にティナはリデルの前に立つ。
「リデル。あんたにはホントに世話になったわ。色々、ありがとう。情けなかったけど……かっこいいトコもあったぞ。あんたは決して、『つまらないヤツ』なんかじゃない。私がしっかり見てたから、絶対に間違いない。……でも、男があんまり泣くなよ。あんたは、ちょっと泣き過ぎ。ほらっ、言ったそばから、また泣きかけてる」
ティナとの別れを前にして、子犬のように瞳をウルウルとさせているリデルだった。
この短い滞在で、彼はティナに心惹かれていた。
彼女の強い所だけでなく、弱い所も好きになっていた。
「は、はい。ごめんなさい……」
「謝る事はないっての! そのクセも直しなさい。ホントに、もう……」
そんなリデルを可愛くなって、思わずぎゅっと抱きしめてやるティナの瞳にも、ちょっと涙が滲んでいた。
「じゃ、私行くから。元気でね、リデル」
立ち去ってゆくティナの背後から、リデルが声をあげた。
「あの、ティナさあんっ!」
「何?」
立ち止まって振り返るティナだが、リデルは顔を赤くして、もじもじしている。
「あの、そのう、えっと、なんていうか……」
「あ~っ、もう! そういうのをやめなさいっての! はっきり言え!!」
イライラするティナを察して、彼は心を決めて、耳まで真っ赤にして、ありったけの勇気を振り絞って大声で叫んだ。
「は、はいっ! ぼ、僕、二番目の男になってみせまあすっ!! ティナさんの一番大好きな人にはきっと負けるけど、でも、ティナさんが二番目に好きな男になってみせまあすっ! きっと、きっとまたティナさんに会いにいきますからっ! どこにいても、絶対、捜し出しますからあ~~っ!! 大好きでえすっ! ティナさあん~っ!!!!」
見送りにきていた群集が、一斉に盛り上がってヒューヒューと歓声をあげている。
瞬時に駆け戻ってきたティナが、あまりの恥ずかしさに頬を染め上げながら、リデルの頭をパコンと殴った。
「い、いたいっ!」
「アホかっ! そんな恥ずかしい事、こんな所で言うやつがあるかっ! 時と場所をもっと選べっ!!」
「だ、だって、ティナさんがはっきり言えって……」
殴られた頭をさすりながら、リデルが口を尖らせている。
「……ったく。フフッ。ま、期待しないで待ってるから」
「ま、待っててくれるんですね!?」
「さあね。私は気まぐれだから。早く頑張った方がいいかもね~♪ じゃ!」
にっこりとティナは立ち去ってゆく。
リデルの叫び声が、そんなティナを見送る。
「は、はい! 頑張ります! 僕、料理人になって、自分の店を持つのが夢なんです。もっともっと修行を積んで、一人前になりますからあ~っ!!」
ぶんぶんと大きく手を振るリデルに、肩をすくめながら手を振り返すティナ。
ライル達と別れてから、彼女は新たな元気を手にしていた。
それは特に、このリデルの存在が大きかったと、思わないでもない。
臆病で、情けなくて、泣き虫で、
すぐに謝るし、男らしくなくて……
料理や洗濯や掃除が好きで、
つくづくマメで、純情で……
でも、人間として何か大事なものを、その心にしっかりと持っている男。
「(ホンっトに、面白いヤツ。……どうなんだかねえ? フフッ)」
彼女は、何やらとてもうれしそうに微笑む。
ティナを路地裏で襲おうとしたあの二人の男達には、この彼女の心からの魅力的な微笑みを引き出す事など絶対にできないだろう。彼らのような人間には、この彼女の微笑みを見る資格がないのだから。
そんな人間達がいくら金を積んだとて、見る事は不可能だ。
この心温まる微笑みは、金で買えるものではないのだから。
金で買えない何かを、彼女に与えた人間だけが見る事を許される。
ティナは空を見上げてみる。
気持ちの良い青空が、どこまでもどこまでも続いている。
ティナの心も今、この綺麗な空のように爽やかだ。吹き付ける風も柔らかで心地よい。
「(さあて、どうすっかなあ? ……そうだ、シャリーに会いに行こう! あの子と一緒に温泉に行く約束したんだもの。温泉かあ……いいかもね~♪)」
自分を待っていてくれる少女の所へと、ティナは軽やかに歩いてゆくのだった。
この何年か後……
『二番目の男』は、見事に『炎の女神』に再会する。
ティナはウィードを風の精霊使いとして鍛え上げ、シルフと風の契約を結ばせて世に送り出した後、再び剣を取って闘う事になったライルに力を貸して、アリアと再会を果たした直後だった。
その後……
とある小さな町で、とびきり美味しいと評判の料理店を切り盛りする夫婦の姿がある。
離れた土地からも、その噂を聞きつけてわざわざ足を運んできて、その味と店の雰囲気、夫婦の人柄にすっかり心惹かれてしまい、何度も通ってきてくれる客もいるくらいだ。
夫よりも年上の美人妻は、明るくて気が強く、訪れる男達にも女達にも人気がある。こじんまりとした店をてきぱきと切り盛りし、酒に酔って手を出してくる男には容赦ない鉄拳を飛ばす、紅玉のピアスをした魅力的な女性だ。どうやら、彼女の鉄拳欲しさに通ってくるような、こりない馬鹿男達も中にはいるようだ。
(美人に怒られると、何やらうれしいらしい)
そうした彼女の勇姿を見たくて、若い女達も訪れてくる。威勢良く男達を叱り飛ばし、時には温かく励ましてやっている彼女の姿を見ると、とても元気が湧いてくるのだった。また料理だけでなく、自家製のデザートも素晴らしくて手頃なお値段なので、お茶をしに昼間に通う女性陣も多いのだ。それに美人妻が的確に勧めてくれる、宝石のアクセサリーの助言も大人気だ。
(彼女が貸してくれた宝石の装飾品を身につけてデートをし、意中の男性を見事に射止めた女性もいるそうで、なんだかジンクスのような噂が女性達の間で広まっているようだ)
腕利きの料理人の夫は、普段は物静かでおとなしい男だが、仕事に集中している時は顔つきが変わる。妻へ料理や客への心構えに関する指示を出している時は、妥協はしない。『お客様の喜ぶ笑顔』のために、彼は真剣だ。この時ばかりは、気丈な妻も素直に夫の言葉に従っている様子だ。普段は頼りない感じのする年下の夫だけに、かえってこうして男らしい顔を見せてくれる時が、妻にはうれしい時間なのだ。
そして今日は、妻にとってうれしい日だ。
簡略な婚姻の誓いだけで済ませてしまい、店を軌道に乗せるのに忙しく過ごしてきた夫婦が、旧友たちを店に呼んで、ささやかではあるが華やかにお披露目する日がやってきたのだ。
かつて、彼女と共に旅をした一同が、もうすぐやってきてくれる。
今か今かと、その時を待つ。
……店のドアを開ける音。
彼女は喜びに顔を輝かせて、彼らを出迎える。
「いらっしゃいませ! ようこそ、私達のお店へ! ライル、ホークス、ギリアム、アリア、ノエル♪」
かけがえのない大切な友人達の輪の中へ、今一度飛び込んでゆくティナだった。
夫のリデルは、そんな妻を見守って優しく微笑んでいた。
~~~~外伝1【二番目の?】終幕~~~~
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外伝の最初は、『ライル戦記』のエピローグで、一番切ない別れ方をしてしまったティナのその後を描きました。
「彼女には、なんとか幸せになって欲しいなあ」という気持ちが、『ライル戦記』を書き上げて一段落ついて、「しばらく書くのは休もう」と思っていた自分の心を動かしてくれました。
このエピソードのネタばらしをしちゃいます。以下が核となってます。
・ティナに素敵な(?)お相手をと
・弓道部だったので、それもネタに
(高校時代にやってました。二段です)
・福岡県で起きた立てこもり事件
(実の姪を人質に立てこもり、警官突入20分前に九歳の女の子は殺傷されていたそうです……。これを耳にした時、怒りと悲しみがこみ上げてきました。なんとかならんものだったのかと。だから物語を書いて、どうしてもハッピーエンドにしたかったのです)
ホントは4~5回くらいに収める予定が、もお……
いままでのクセが、なかなか直りませ~ん。
遊んでる部分やら説教臭い部分とかを削ってしまって、必要なトコだけ残せばなんとか収まるんでしょうけどね~。
元気な彼らを見てると楽しくてウズウズしてきて、ついつい、ど-しても遊んでしまうのです。
彼らのやりとりの中で、自分が感じる事を表現に盛り込んでしまうのです。はい。
次回の外伝は、【ライル戦記】本編にて、エドの街で敵軍の総司令官として対峙した敵役・ロメオスのその後です。
『民族管理政策』を掲げ、自らの理念に基づいて多くの人々に『平和』をもたらそうとした若きロメオス。
しかし、その結果は『敗北』でした。
価値観の崩壊、地に墜ちた名誉……
自分を信じ、命を落とした部下達の心に、どう報いたらいいのか?
これから自分は、何を信じて生きてゆけばよいのか?
一人悩み、苦しみ抜いた末に、彼は自らの両目を潰しました。
『心の目』で見るために……
身も心もボロボロになった彼が辿り着いたのは、『穢れの谷』。
そこは、死を待つ人々が細々と暮らしていたのでした。
その場所で、彼はハリセンを振り回す威勢の良い一人の女性と出会うのでした。
心の闇の中から、再び彼が立ち上がるまでの大きな転換期を描いてみました。




