リデル Liddell
圧倒された男達は、少しも武器を向ける事なく、たちまち我先にと走って逃げ出してゆく。ティナの噂を耳にしていれば、無理もないが。
「キリー!」
ティナの命令に応え、素早いキリーが背を向けて逃げ出した男達の正面にまわりこんだ。目の前に猛り狂うサラマンダーを目にして男達は立ち止まり、恐怖に目を見開く。
「フレキ!」
足の止まった男達の背後からは、フレキが迫って男達の頭髪を焦がす。
「「うわあああっ!!」」
慌てて武器をやみくもに振り回す男達だが、サラマンダー達に当たるはずもない。仮に命中したとしても、ただの鋼鉄の武器では無意味だが。フレキが二人の手にひどい火傷を負わせ、男達は熱さと痛みで悲鳴をあげて武器を取り落とす。
さらにはキリーが手加減してやりつつも、男達のズボンに火をつけた。
大事な部分の周りも燃え上がっている!
二人は悲鳴をあげて半泣きになり、下半身の炎を消そうと躍起だ。熱い、熱いのだ !!
(おそらく当分、使い物にならないだろう(何が?))
消えそうにないと判断して、二人ともズボンも下着も脱ぎ捨てる。
(お見苦しくてすみません。一応モザイクをかけておきました(自主規制))
男達の様子を見て取り、ティナはキリーを呼び戻して、逃げ道を開けてやった。
男達はその逃げ道にすがるように、大事な部分を両手で隠しながら必死で逃げていった。(髪は焦げてちぢれあがり、尻は丸出しだ。ドリフのコントのようだ)
ティナは大きく溜息をついて、髪を掻き上げる。
「はあっ、ま、こんなとこかしら。キリー、フレキ、しょうもない事で呼んでごめんね」
キリーの身体の炎の勢いは衰えない。
まだ物足りないようだ。
『マスター、あんなの私も許せません。マスターは、お優しいです。私なら迷わず焼き殺しています』
フレキは相棒の怒りを見て微笑む。
『フフッ。あれは、ある意味、男にとっては焼き殺されるよりもきついものだぞ、キリー。我が主よ。私達は、いつでも、どんな時でも力をお貸しします。貴女は決して、一人ではございません。私達がどこまでもついています。どうか、どうか忘れないでいて下さいませ。貴女の悲しみは、私達の悲しみ。貴女の喜びは、私達の喜びなのです』
一心にそう告げるフレキだ。キリーもうなずき、同じような想いを込めてティナを見詰めている。
ティナの瞳に、思わず涙がにじむ。きっと、先程の酒場であびるように酒を飲んでいた時、フレキもキリーも、自分をとても心配していてくれたのだろう。
「うん……ありがと。フレキ、キリー」
忠実に自分に仕える一方で、それ以上の気持ちも健気に向けていてくれる、このサラマンダー達の存在にティナの心は何度も救われている。改めて、彼らに感謝の気持ちが沸き上がるティナだった。
自分は決して、一人ではないのだ。フレキとキリーが側に居てくれる。それに、ライル達とも心はつながっている。
「(彼らなら、こういう時何と言うだろうか、どうするだろうか?)」
そう心に問いかけるだけで、それぞれの仲間達の声とその答えが彼女の胸に返ってくる。
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『まあ、ああいう奴等にゃ、いいクスリだな』
『馬鹿な奴等だねえ。まずは面白い話で女を笑わせてやるもんだぞ、普通。やり方がいけねえな』
『おぬしらが人の事を言えたものではないとワシは思うがな』
『そうですよ! 大体、二人とも節操がないです。ノエル様を見習って下さい!』
『嬢ちゃん、ノエルだって同じだぜ。ムッツリってやつだ。俺と旦那は正直なだけだ。男はそういうもんなんだ』
『ノエル様まで!? そ、そうだったのですか……』
『あのう、アリアさん。納得しないで下さい』
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心からの微笑みを浮かべると、ティナは再びサラマンダー達をピアスへ封じ込んだ。
腰をついている臆病な若い男は、そんなティナの勇姿にポーッと見とれている。その童顔は、夢を見ているようにボンヤリとしている様子だ。ティナが彼の側に寄って声をかける。
「さ、もう大丈夫だから。立てる?」
「綺麗だあ……」
若い男は思わず、そうつぶやいている。
心ここにあらずと言った感じだ。
ティナは怪訝そうに眉をひそめる。
「はあ?」
「綺麗なんです……」
「ホントに、大丈夫なの? まあ、私が綺麗なのは当たり前だけどね~♪」
若くてかわいい感じの男の子にしみじみとそう言われて、ティナは悪い気はしない。酒が入っている事も後押しして、なかなかゴキゲンである。彼女はニコニコと、その男の手を取って、引っ張り起こして立たせてやる。
男は、まじまじとティナを再び見詰めて、憧れに満ちた声でつぶやく(禁断の一言を)。
「それに、男らしくて……」
瞬間、ティナの鉄拳が男の頭をパコンと殴り飛ばしている。
「い、痛いっ!」
「誰が男だっ! この胸を見ろ! このナイスバディーにケチつける気かあ~っ!!」
先程は怒りと戦闘時の緊張で、酒の酔いが一時的に止まっていたのだが、今再び酒癖の悪い酔っぱらいに戻りつつあるティナだった。人畜無害そうな若い男の頭を両手でぐいと掴むと、自分の胸に押しつけて両腕でがっしりと抱え込んだ。
「うぶほっ」
男の顔面がティナの豊かな胸にめりこんでいる。驚いてもがく男だが、ティナは少しも腕を緩めてくれない。いつものティナなら、こんな事はしないものだが……いかんせん、今はかなり酒が入っているのだった。
「ほらあっ、これでも私が男だってのかあ~っ!! どうせ私はね、気が強すぎて乱暴で、料理も針仕事もヘタクソな、がさつなヤツですよっ! 女らしさなんて、かけらもござんせん !! でもね、でも……私だってね、こんな私だって、一応、女なんだからね~~っ! 好きな男と別れりゃ、ヘコみもするわい! 結婚だってしたいって思うし、子供だって……」
息苦しい……というか、息ができないのだが、ちょっと気持ち良くて、男は抵抗するのを中断し、その感触にしばしボーッと浸ってみた。ティナは自分の世界に入ってしまっている。
「なのに、なのにさあ、なんで私には、あんな男達しか寄って来ないんだあっ!! ……うううっ、うぐっ、ひっく、うわあああああっ……男なんて、男なんて、大っ嫌いだあ――っ!! アホんだらあ~~っ!」
もう、手がつけられない。荒れまくっているティナだった。
なおも愚痴り続けるティナなのだ。そろそろ男はヤバくなってきた。さすがに呼吸を止めているのも限界に近づいてきていたのだ。声をあげてみるが、ティナには聞こえてないらしい。
苦しい。
とにかく息ができない。
男は必死でもがくが、ティナの弾力のある胸は、服ごしでも男の鼻と口にぴったり吸い付いて離れない。押しても引いても密着してくる。ご乱心のティナは、さらに両腕に力を込めて離すまいとするのだ。
結果は当然……
もがいていた男の腕が、ダラリと垂れ下がる。身体中の力が抜けている様子だ。感情を爆発させて一段落したティナが、ようやくそれに気づいた。
「ちょ、ちょっとあんた、しっかりしなさいってば!」
腕を解いて、男を乱暴に揺さぶる。男は白目を剥いて、揺さぶられるままに首をガクガクさせるのみだ。
「う、ウソお!?」
慌ててペチペチと、男の頬を平手打ちするティナだった。酔っているので、あまり力加減ができてないようだが。
「……い、いたいっ!」
ちょっと強めの一撃が頬に炸裂した時、ようやく男が息を吹き返した。
「はあ、驚かさないでよ、もうっ!」
「は、はい! すみません、ティナさん」
「ん? 何であんた、私の名前知ってんの?」
「あの、さっきの男達が言ってたし……それに僕、この街で闘ってらっしゃったティナさんを、遠くから見た事がありますから」
「ふうん。そうだったんだ。あんたみたいのがねえ。へええ」
どうやら、あの闘いにこの男も居たらしい(補給班だったが)。なにやら、ティナにじっと見詰められて男は顔を真っ赤にしているが……
「あの、いや、うう、そのう……ぼ、僕、料理が好きなんです!」
「はあ???」
「掃除とか、洗濯とか、お裁縫とかも好きなんです」
なんだか、男はいきなりよくわからない事を告げる。しどろもどろで動揺している様子だ。
「はあ……そうなんだ。んで?」
「そ、それだけです……」
ガクっとするティナだ。
「それだけかいっ! あんたねえ、普通、そんな事よりも先に言う事があるでしょ? 初対面なんだしさ」
「あ、そ、そうでしたっ! す、すみません。助けてくれて、ホントにありがとうございました、ティナさん」
礼儀正しくペコリと頭を下げる男に、つられてお辞儀を返してしまうティナだった。
「いえいえ、どう致しまして。……って、ちが~う !! あんたの名前よ、名前っ! 大体ねえ、助けてもらったのは、私の方じゃないの! ホントに助かったわ。ありがと」
「い、いいえ、とんでもないですっ! 僕、ああいうの全然ダメで……やっぱりすごいです、ティナさんって。助けてくれて、ホントにありがとうございました」
深々と礼儀正しく頭を下げる男に、またもつられてお辞儀を返すティナだった。
「いえいえ、どう致しまして。……って、ちが~う、もうっ !! あんたの名前よ、名前っ!」
なんだか、この若い男を前にすると、ティナのいつもの調子が狂うような感じがする。一人で傭兵をしていた頃、サラマンダー達を傷つけたライルを捜し出し、闘おうとした時の感覚と似ているような、あれとはまたちょっと違うような……
「ぼ、僕はリデルと言います」
「そ、じゃあ、リデル。ありがとね。あんたの根性、私がしっかり見てたから。かっこ悪かったけど……かっこ良かったぞ。フフッ。じゃあね、さよなら~♪」
「あ、はい。おやすみなさい、ティナさん」
フラフラとティナが歩いていく。やっぱり足元が危なっかしい。リデルはちょっと心配で、その後ろからついて歩いてみた。予想通り、路地裏のゴミ箱に足をとられて、ティナの身体がぐらつく。
その瞬間、さっと前に進み出たリデルが、ティナの身体を支えてやっていた。ティナが足でこつけたゴミ箱が倒れ、またも生ゴミの異臭が漂ってしまう。ティナはその臭いに顔をしかめた。またも吐き気がしてくる。身体も思うように動いてくれない。
「……いいってば。私は一人でだいじょーぶなのっ! フレキとキリーがいてくれる。みんなの声も胸に聞こえる。だから、私は一人で生きていけるの! そう、一人で……」
そう告げて、もがいて身を離そうとするティナの目尻には涙がにじんでいた。
「人間って、支え合って生きていくものですよ、ティナさん。こうやって」
リデルは有無を言わさず、ティナの腕を自分の肩に回し、自分の腕をティナの腰に回して支えてやる。そうして二人は、ゆっくりと歩いてゆく。
「なによう。いっちょまえの口きいちゃってさ~。泣きべそかいてたくせにぃ~」
そう憎まれ口を叩きながらも、抵抗しないティナだ。
こんな時、誰かにこうして支えてもらえるのは、やはり……ありがたいのだった。
いくら彼女が強くても、小さな小さな人間なのだ。強い所もあれば、弱い所もある。
リデルの温かい身体のぬくもりが、心地よく伝わってくる。なよっとしてると思ったが、意外と……。やはりそこは男の子だ。それらしい体つきではあるようだ。女性とは違う。
からんでくるティナをよそに、リデルは顔をしかめる。
「うわ、お酒臭いですよ、ティナさん」
「うっさいわねえ。はあああああっ~~」
カチンときて、思いっきり息を吐きかけるティナだ。
「かなり飲んでますね……もうっ、子供みたいですよ」
「子供は、あんたの方じゃないの! リデル」
「これでも、なんとか二十は越えてるんです」
「へええ、そうだったの。ふうん……でも、年下に決まってる。あんたのが子供! ……うぷっ!」
「ちょ、ちょっと、ティナさん!?」
「うええええええっ~~~」
前かがみになって、思いっきり吐いてしまうティナ。
「(ダメだ、こりゃ……)」
リデルはティナの背中をさすってやりながら、いか○や長助のように胸の内でボヤいていた。




