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後継者達 Successors

「よしっと。魔法の封印はこれで解除したから。後はよろしくね、リン」


キャロルはその扉の開封に成功したようだ。しかし、まだ鍵が扉を遮っている。


「さすが、キャロル姉。賢人ノエル様の一番弟子だっただけはあるわ。後は私に任せといて」


 自称『ノエルの一番弟子』、いやいや、現在はノエルの妻(!?)キャロルと行動を共にしてまだ間もないのであるが、盗賊のリンは魔術師としてのキャロルの腕前を既に認めるようになっている。


 現在ノエルは、魔術アカデミーの次席に就任してしまっている。嫌がるノエルを、主席で彼の師匠でもあるオリビアと、キャロルが共謀してワナにはめたのだ。(かわいそうに……)


 オリビアとしては魔術アカデミーの運営に関して有能な人材が足りないという事情があり、サカムビットとの闘いの際に死にかけたという話をノエルから聞いたキャロルは、危険な修行を彼にこれ以上して欲しくなかったのだ。おかげでノエルはなかなか実戦修行できなくなり、弟子達の指導と、大嫌いな事務仕事に追われている。一方のキャロル自身は、こうして実戦修行に出かけている訳だが。



あどけない少女の面影を残している盗賊リンの、自信たっぷりの言葉にキャロルは微笑む。


「はいはい。『蒼雷のホークス』の娘だもん。信じてますって」


 どうやらリンは、あのホークスの娘!らしい。一体、ホークスの相手は誰なのであろうか? リンの面影からすると、ティナでもジュエルでもないような感じであるが……。リンは一行のうちで最も若いのだが、盗賊としての実力はかなりのものである事を、皆が認めている。さすがにあのホークスの娘といった所か。


若々しい騎士、カイが彼女の様子をうかがう。

「リン、開けられるか?」


 ギリアムの夫妻のもとで養子となり、あれからミッドランド王国の若き騎士として立派に成長を遂げたカイであった。将来のミッドランド騎士団を引っ張る男として、父親ギリアムはカイの更なる成長を期待している。彼の家柄のしきたりに従い、カイは諸国武者修行中なのだった。


「ええ。こんな鍵、父さんの作った鍵に比べたら、どうってことないの。……ほらね。つまんないなあ。こんなの、ちょっとやればあなたでも開けられるんだから、カイ」


 ものの数秒で、たちまちリンはその扉の錠を破ってしまう。リンの言葉から察すると、ホークスはどうやら盗賊稼業から足を洗って、今は鍵屋をやっているらしい。錠前を知り尽くした盗賊が作る鍵は、さぞかし堅固なものであろう。


 実は、かなり小さい頃からなぜか鍵に興味津々だったリンだ。赤子の時でも、オモチャよりも錠前を触っているとゴキゲンだったそうだ。ある日、父親のホークスが冗談半分に鍵開けを少しだけ教えてやったら、幼いリンはたちまちコツをつかんで、店中のカギを開けてしまったという。足は洗ったはずなのに盗賊の血が騒ぐホークスが、妻の監視の目をかいくぐっては娘に教えるものだから、錠前破りに関しては超一流のリンだった。



「騎士の俺が、そういう技を覚える訳にはいかんのだ」


くそ真面目な答えを当然のごとく返すカイだった。

(頑固さもギリアムゆずりかも)



側に控えていた神官戦士の女性、アヤがクスリと笑う。


「あら、ライルも結構こういうのやれるみたいだけど。あなたが剛爆斧のギリアム様と同じくらい尊敬してる、あの『聖剣士ライル』様がね。ふふっ」


神官戦士アヤはどうやら、ライルと面識があるらしい。

"ライル"と呼び捨てにする所からすると、かなり親しい間柄であるようだ。


「そ、それは本当なのかっ、アヤっ!?」


カイが目を丸くして驚いている。今や伝説となっている聖剣士ライルが、そのような事ができるとは、にわかに信じられないカイであった。


「ええ。ホント。アリアお姉様が言ってたんだもん。間違いない。ホークス様から聞いた事があるんだって」


アヤはライル・アリア夫婦と仲がいいらしい。彼女に癒しの技を手ほどきしてくれたのは、アリアであったという。そして戦士として基礎から鍛えてくれたのは、ライルなのだ。


アヤの言葉に、ホークスの娘も軽くうなずいている。


「そういえば、父さんもそんな事言ってたっけかなあ? 『あいつは、俺が出会った時には、盗賊の見習い程度の腕前はとっくに越えてた』って。『俺についていれば、きっと立派な盗賊になってたろうに。何を思ったんだか、神父なんぞになりやがって』ってボヤいてた」



なんとライルは今、神父をしているらしい。



 とても想像できない姿である。おそらくは、アリアに無理矢理仕立て上げられたのだろう。しかし……とんでもない神父のような気がする。アリアの頭痛の種が尽きないように思うのだが。


 実際、隠れて酒をこっそり飲むわ、剣の修行は続けているわ、乱闘騒ぎが起きれば喜々として必ず首を突っ込むわ、夜にこっそり抜け出して酒場でねーちゃん達を口説いているわで……。後でアリアに見つかって、怒り狂った彼女に半殺しの目に遭い、床に正座させられて説教されるのだが、懲りないのだった。土地の者達には、陽気で親しみやすく、それでいて、いざという時は剣を取って闘う頼りになる名物神父として慕われているようだが。



 アヤとリンの言葉に、男らしい眉をぎゅっとしかめて、カイが腕組みをして考え込んでいる。青年のカイには髭はさすがにまだ無いが、まるでギリアムそっくりな仕草である。


「何っ!? 『聖女アリア』様に、『蒼雷のホークス』殿も、そんな事を言っておられるのかっ!? ならば、本当の事なんだろうな……むう……」


 カイはかなり衝撃を受けた様子である。子供の頃少し会っただけだが、子供ながらにライルの頼もしさが強く印象に残っている。そんな男の噂を聞くたびに、描かれている高潔な姿に憧れてきたカイであった。


 どうやらギリアムは、実際のライルの様子をあまり子供のカイには話さなかったらしい。多感な時期の子供の夢を壊したくは無かったのだろう。



そんな様子のカイに、同じく武者修行をしている格闘家のギャリックが屈託無く笑う。


「はははっ。英雄なんて、案外そんな風かもしれないぜ、カイ。俺はそういうほうが好きだけどな。面白えじゃんか」


 真面目なカイとは対照的に、陽気で大雑把な性格をしているギャリックだ。へっぽこ釣り師の医者フォレスの小屋へ怪我をする度に通っては、修道女のシャリーに呆れられていた腕白坊主も、見違えるほどに筋骨逞しく成長を遂げている。


「筋肉馬鹿のお前に、俺の複雑な気持ちはわからんのだ、ギャリック !」


「なんだと、この石頭の腐れ騎士がっ !!」


「何っ !!」


……だから、事あるごとに、二人はこうして衝突するらしい。


 それを見たウィードが呑気な顔をして割って入る。ウィードは風の精霊使いで、アヤ以上に弓がうまい男だ。一人別れたティナがエドの街に立ち寄った時、少年のウィードに出会い、精霊使いとしての卓越した才能を見抜いた。数年かけて彼を鍛え上げ、風の精霊と契約させてやるまでに至る。ちょっと軟派な感じがする優男になっているウィードは、汗臭そうなギャリックとカイとは別の意味で対照的だ。


「まあまあ、二人とも。僕が見るところ、どっちの言い分も正しいと思うよ」


「何おう~!?」

「き、貴様っ !!」


 ウィードの言葉に、ギャリックとカイはさらに怒りが増したようだ。全く悪気はないのであろうが、彼はこうした喧嘩の仲裁には向かない性格のようだ。


「こらっ、ウィードっ! 話を余計にこじらせてどうすんのっ! 男ども、いい加減にしろ !!」


見かねたアヤが、次々と男達の頭を殴り飛ばしてゆく。


「いてっ!」


マジで痛そうなギャリックである。格闘家のはずなのだが、アヤの拳は別モノらしい。(フォレスやシャリーが傷口に塗りつける『コレ』の痛みも別モノらしいが)


「いきなり殴る事は無いだろう、アヤ。もっと淑女らしくだな……ブツブツ」


カイは憮然としている様子だ。

しかし、騎士としてレディには優しく接するべきだ。


「ひどいなあ、もう。髪が乱れちゃったじゃないか」


ウィードは髪を整え直す。

髪型や服装には、かなり気を遣っているようだ。



男どもは、口々にボヤいているものの、アヤには全員頭が上がらないらしい。


「相変わらずねえ。うるさくて回復ができないじゃない、全く……」


先程使った精神力の回復を図っていたキャロルがボヤいている。しばらく様子をうかがっていたリンが、たまらず声をあげた。


「ちょっと、みんな! 扉はもう開いたんだけど……」



とりあえず、にぎやかさは確実に受け継いでいるようだ。

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