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エピローグ Epilogue

とある街の酒場に、一行の姿が見受けられる。


「さてさて……お宝もごっそり手に入ったし、これからどうするかねえ?」



 ホークスが、ジョッキに満たされた冷たいエールをぐいっとあおってから、う~んと伸びをしてつぶやく。サカムビットの財宝は、麻薬で荒稼ぎしていただけあって、全てを持ち出すことができない程たっぷりとあった。当分の間、金に困る事はない。心当たりの遺跡はまだあちこちに点在しているが、今は無理をしてまで行く必要もないのだ。しかし、『盗賊として亡き師匠を越える』という夢が、彼の心を再び、危険で入手困難な古代遺跡の宝へと向かわせるに違いないが。



 一行が持ち出す事ができなかった財宝はウェイン達に渡して、エドの街の復興と難民達の新規居住地・農地の開墾のために提供した。また、戦災によって家族や家を失った人々の救済のために使われている。後世には、この時の意志を引き継いだ共同基金が自発的に設立される事になってゆく。人々のモラルが高く自治の見本となるような都市として、高名になってゆくエドの街であった。



遊歴騎士ギリアムは、エールを一気にあおると、また酒を注文する。このペースの飲みっぷりが、いつも十杯以上は必ず続く酒飲み髭オヤジだ。



「ワシは故郷に戻ってみる。しばらく戻っていなかったんでな。剛爆斧も今回の闘いでかなりくたびれておる。新しいのを作りたい。なじみの鍛冶屋がいてな。マイトとマリーの顔も見たい。カイの事も気になっておる。それに……こいつを、セラフィーの隣に葬ってやらんとな」



 今、彼の前にはもう一つ、別のジョッキが置かれており、なみなみとエールが満たされている。ギリアムは酒を注文する度に、そのジョッキも次々と新しく取り替えてもらっている。そして、カチンとそのジョッキと打ち合わせてから、一気に酒をあおるのだった。そんな彼の膝の上には、亡き親友レイドの遺骨を納めた骨壺が置かれている。その骨壺をくるむ上等な布の上にそっと片手を置き、ガンガンと飲んでいるのだ。



本当は、生きているレイドとこうして酒を共に飲みたかったオヤジだった。



 しかし、悲壮な様子は少しもない。彼は、友と過ごした青春時代の楽しい思い出を次々と胸に思い起こしている。その方が、レイドも喜ぶと感じるのだ。



 これから故郷へ帰る訳だが、結局ギリアムは腰を落ち着けてしまう。潮時を感じてはいたのだ。マリーとカイの成長振りにも驚いた。これからは、伸びてゆく若い世代を育てる決意をしたギリアムは、ミッドランド騎士団へ身を置いた。


 その武勇と頑固で実直な人柄に加え、一行と過ごした事によって視野の広がったギリアムは、やがて皆が認める騎士団長に就任する。若い騎士達から尊敬される一方で、『恐怖の雷団長』として畏怖されるギリアムだった。




「私も、ちょっとアカデミーに顔を出してきます。これだけ貴重な本ですから、アカデミーに寄贈して、誰にでも閲覧できるようにしてもらいたいですから」



 魔術師ノエルは、サカムビットの書室から持ち出してきた本の数々を抱えて、ここまでの道中歩くのが少しきつい様子であった。でも、ノエルにしては上機嫌で、時折無意識に微笑みを浮かべながら、愛しそうにその本達を撫でていた。


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≪こんなノエルに、これからちょっと先に起きる出来事≫


 自称『ノエルの一番弟子』キャロルは、よくこういう時の師匠の仕草を目撃する事がある。彼女はそのような感じで本を愛でる師匠を、以前までは微笑ましく思っていたのだが、最近は自分の目の前でそれをやられると、なぜか腹立たしくなってきている。


 そういう時に、彼女がよくノエルに何かと突っかかってくるのだが、ノエルはなぜなのか、さっぱりわかってないようだ。


 今回これから、アカデミーに帰ったノエルが、またそんな様子をキャロルの前で度々してしまう事になる。二ヶ月ほどは我慢していた彼女だが、とうとうキレてしまう。


『私とその本と、どっちがお師匠様にとって大事なんですかっ !!』

『本です』


即答するノエル(相変わらずの生真面目な顔で)。



 彼はもちろん、冗談のつもりで言ったのだが、彼女は一週間まともに口をきいてくれなくなってしまうのだ。それを彼女が冗談だと納得するまで、それくらいの時間がかかってしまう。冗談を言う時くらい、少しは笑いながら言えばいいと思うのだが、彼の癖なのだ。



 おわびとしてにキャロルに、雰囲気たっぷりの高級な店でディナーをオゴる事を要求されてしまう事になるノエルだ。彼女はノエルに正装してくるように強制し、自身はすごく大人っぽい服を着て登場する。それが、なかなかどうして、似合っているのだ。


 約束の日の夜は食事だけで別れるのだが、それがアカデミーの生徒達の間で噂になってしまう……しかも尾ヒレをつけて。その事がアカデミーでかなり問題になってしまい、呼び出される二人。なぜかキャロルは、ある事ない事申し立てて……ノエルは相応の懲罰を受ける事になってしまう。



そういう事があった後で、さすがに少々怒ったノエルが二人きりでキャロルに迫り……


彼女は、

『本当にそんな風になったらって思ったら、自分でもわからないうちに、あんな事を口にしてしまってたんです……』と。


そして、自分の偽りのない真実の想いをノエルに告げて涙して謝り……


『アカデミーを退学して、一生、二度とお師匠様の前に姿を現さないようにします』


とまで、本当に思い詰めていて……


 女性のそういった涙には、あまり免疫のないノエルであって……思いやりのある優しい性格の彼であって……心から泣き濡れて自分を慕う彼女を放ってはおけなくて……。


まあ、そういう感じで……そういう事になってしまう。


結果的には、ゆくゆく噂を正式な形で皆に認められる事になり、やがてはお互いにお互いの存在を、心から必要としあう関係に落ち着く二人だ。



後にキャロルに再会したジュエルは、すっ飛ばしてそこまで至ったキャロルに驚嘆していたようだ。


『これこれ、キャロルよ。どこまでいったんじゃい? 白状せい、ほれほれ』

『そのう……最後まで』

『は、はいっ !?』


片手を耳に立てて、目を丸くして聞き返すジュエルだった。



 しかし今この時のノエルは、そのような波乱が自分の目の前に待ち受けている事を知るよしもない。彼がこれから間もなく口にするであろう、『運命の冗談』が、高くつく事になるのか、そうでないのかは、ちょっと何とも言えないが。


≪話を本編に戻しま~す。失礼しました≫

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そんなギリアムとノエルを見詰め、軽くうなずいてライルはにっこりと告げた。



「そうか……二人とも、世話になった。いつかまた会おう。いや、多分俺の方から、お前さん達の力を借りに行くことになるような気がするが」


「おぬしになら、貸す力は売るほどあるぞ。嫌だと言っても、押しつけてやるわい。気が向いたら、いつでも声をかけてくれい。当分の間、ワシはミッドランド城下町にいるつもりだ」


 ジョッキを置いて、ニヤリと温かな眼差しをライルに返してくる頑固オヤジだ。彼にとってライルは、お互い真剣勝負をした好敵手でもあり、戦友でもあり、また息子のような存在にもなってきていた。他の仲間達も含め、もう家族のようなものだ。



生真面目な魔術師ノエルも、微笑みながら告げる。


「いつでも、大歓迎です。皆さんと、この旅に加わって、かなり質の良い実戦修行ができました。新しい知識達にも出会えましたし。この本達で勉強を終えるまで、私は魔術アカデミーに顔を出してますから。留守でも、弟子に伝言を預けて頂けたら大丈夫ですから。今まで行った事のある場所なら『瞬間移動』の呪文ですぐ駆けつけます。私でよければ、また誘ってください、ライル。効果的な修行になります」


 サカムビットの屋敷から持ち出した本の一冊を、無意識に撫でているノエルだ。そんな彼に、盗賊ホークスがやれやれと、肩をすくめている。


「相変わらずだねえ、ノエルってのは。もうちょっと女にも目がいくと、変わってくるんだろうがねえ」


あきらめたように首を振ると、盗賊はジョッキを飲み干す。

そんな盗賊に、今度はティナが尋ねてくる。


「ホークス、あなたはどうするの?」


「まあ、一仕事ついたし、ちょっと羽を伸ばしてえ気分だな。心当たりの遺跡は、まだまだある。でも、手強いのばかりだから、急がなくてもそうそう他の奴達の手に渡ることはねえはずだ。一服してから、また狙いに行くさ。ティナこそ、どうするんだよ?」


戸惑うティナだった。見詰めてくるホークスの視線から目をふせてしまう。チラリと一瞬、ライルに視線を向ける。


「私は……まだ決めてない」


そんな彼女の視線の動きを、ホークスが見逃すはずがない。


「ふうん……なるほどな。ライルの旦那と別れたくねえって顔に出てるぜ、ティナ」


ホークスの言葉に、思わず顔じゅう真っ赤になってしまうティナ。


「そ、そんな訳ないじゃないっ !! もうっ!」

「ティナさん、顔が赤いですよ。ふふっ」


アリアが慌てたティナを見て、クスクス笑う。


「なによう。アリアはこれからどうするの?」

「わ、私は……そのう……まだ決めてません」


アリアはうつむいてしまう。やはり、ライルの側に居たいのだ。


そんな二人の様子を見て取ったホークスが、どうしたものかと、ニヤニヤしながらライルを見やる。


「やれやれ。嬢ちゃんもライルといたいってか? もてる男はつらいねえ、旦那」


アリアも、顔を赤らめて何も答えられない。

ライルはホークスのからかいを無視して、エールを飲み干す。



 彼は戸惑っているのだ。これまで、そのような事を考えている余裕などなかった。心に荒れ狂っていた嵐は、そんな感情に目をむけるゆとりを許してはくれなかった。二人の気持ちは薄々は感じ取っていたが、自分がどうしたいのか、はっきりとは意識していない。



なにやら、気まずそうにしているライルを一心に見詰め、ティナは切り出す。


「あなたは……これからどうするの? ライル」


 ティナがライルの顔を覗き込む。アリアも耳を研ぎ澄まして、じっと見詰めている。ライルはティナの問いかけに、彼女の方を見るでもなく、目を細めて遠い眼差しをしている。


「そうさなあ……しばらく、何も考えたくねえような感じだなあ。今回の怪我が完全に治るまで、ちょっとのんびりしてみてえような気がする。金にも困らねえしな」


 アリアの癒しで、かなり治ってはいるのだが、『癒しの技』は人が本来持っている回復力を手助けするのが本質だ。普通に治る過程を辿ってはいる。だから、ひどい怪我になると傷跡も残るし、癒した古傷が後に痛む事もある。身体の奥深くに蓄積している疲労や痛みは、癒しの技では取り去る事が難しいのだ。それにはやはり、ゆっくりとした静養が一番だ。



ホークスがそんな様子のライルと、ティナ、アリアを見回して、口を開く。


「そうか。ならよ、俺がいつも一仕事終わった時に行ってる、とっておきの温泉宿があるんだ。今回も、まずそこでのんびりしようかって思ってたところだ。そこへ行ってみないか、ライル? 傷の回復には打ってつけだし、静かでいい所だぜ。まあ、ちょっと遠いけどな。よかったら、ティナもアリアも来るといい。一見の価値ありってやつだ。温泉だけじゃなく、景色も料理もいいんだ。俺のとっておきの場所なんだ。……な? 行こうぜ。みんなで行ったほうが、きっと楽しくなる。どうかな?」


そんな提案を持ちかけてくる。

三人は目を輝かせて大きくうなずいた。


「温泉か……疲れをとるには、一番かもしれねえな。よし、行ってみよう」


「じゃ、私も行く。温泉って大好きなの」


「あの、私も行ってみたいです。温泉って、今まで入ったこと無いですから」



 ホークスの助け船に、ティナとアリアも嬉しそうに賛成した。予想通りの答えに、ホークスは胸の内でこっそりと自分自身にボヤいている。


「(ま、まずはこんな所でよしとするかねえ。ホント、つくづく俺って、お人好しだよな)」


そういう訳で、ギリアム、ノエルはそれぞれ別れた。

それぞれ、堅い握手を交わして見送った。


一方ライル、ホークス、ティナ、アリアは、連れ立って山奥にあるホークス秘蔵の温泉地へ向かった。

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