闘いの終幕 The End of the Battle
今まで生死を賭けた死闘をしていたとは思えない、そんな相変わらずの様子を見てノエルは軽い溜息をついている。
「(懲りない人達ですねえ、ふうっ)……これで終わりましたね、ライル」
ノエルの言葉に、ライルが軽くうなずく。
「ああ、そうだな。終わった。……でも、これからだ。俺の本当の闘いは、これからなんだ。これで、やっと自分で前へ進む事ができるような気がする。あいつの……サカムビットの言ってやがった事も、当たってる所もあるんだ。あいつへの憎しみがあったから、何がなんでも俺は生き抜こうとしてたのかもしれねえ。だからよ、これでやっと、俺は本当の意味で自分の道を選べるような気がするんだ。これからが俺にとって本番なんだ。ずいぶん、遠回りしちまったけどな」
しみじみと告げるライルだが、すかさずホークスが突っ込む。
「そうそう、これからが本番だぜ。どこかに眠ってるお宝を、なんとしても見つけださねえとな。ここからが俺の本当の闘いだぜ。……さてさて、どこかねえ? かわいいかわいいお宝ちゃん♪ お前の愛しい盗賊様が、すぐに助けてやっからよっ! もうちょっとの辛抱だ。ふんふん、ここら辺じゃあねえみてえだなあ。あっちが匂うぜ……」
あちこち物色し始め、上の階へホークスは消え去る。
「もう、ホークスったら……まあ、あいつらしいけど」
ティナが肩をすくめる。
「うむ。あのしたたかさ、あやつらしいな。全く、変わった男だわい。フフッ」
何やらうれしそうに、ヒゲをなでつけながらギリアムも同意する。
そんなホークスの様子を見て、なぜかノエルまで落ち着きがなくなっている様子だ。彼はそれほど普通の財宝には興味がない男だが……
「私も、少し気になる事がありますので、ちょっとだけ失礼します」
ノエルがそそくさと離れようとしている。アリアが尋ねた。
「ノエル様、どうしたんですか?」
ちょっと口ごもりながら告げるノエルだ。
「そのですねえ。サカムビットはかなりの魔術師でした。という事は、貴重な呪文書を所蔵しているはずなのですよ。それに、金に糸目をつけずに様々な本を収集している可能性が高いのです。表向きは商人という事ですから、そうした珍しい本に触れる機会が多いはずです。そういう本達がですねえ、このまま捨て去られてしまっては実にかわいそうです! ぜひ、幾つか持ち帰りたいのですよ。……では」
はやる気持ちを抑えられないのか、足早にノエルが立ち去ってゆく。
やれやれと、肩をすくめるライルだ。
「あいつも、相変わらずだな。本となると、顔つきが変わっちまう」
腕組みをしてティナも同意する。
「ほんとね。……ライル、あなたはどうなの?」
そんな事を言って、ライルの顔をのぞきこんでくる。
「……自分じゃあ、まだよくわからねえなあ。でもよ、なんか一区切りついたって感じだ。あとはここいらを探して、『霧の華』の製造所の場所の手がかりを見つけて、そこををぶっ壊す。それに『霧の華』の精製方法を書いたモンがどっかにあるハズだ。ここか、その製造所にな。そいつを焼き捨てて、ほんとに終わりだ。それで、この薬がこの世から完全に消える。製造所を叩き潰す時にゃ、派手に頼むぜ、ティナ」
ティナは腰に手を当てて、にっこりとウィンクする。
「任せといて。フレキとキリーを、気持ち良く、思いっきり暴れさせてあげるから」
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ノエルは本を物色し始めた矢先、女魔術師アロセールの事を思い出した。応急処置は施したものの、できればアリアに癒しを施してもらいたい所だ。急いで彼が大広間を出た回廊に向かったが、そこには既にアロセールの姿は消えていた。おそらく、意識を取り戻したアロセールは『瞬間移動』で立ち去ったのだろう。何やら不安を覚えたノエルだったが、誰にも告げずに胸の内へしまいこんだ。
『霧の華』の精製方法を記述した書類は、お宝を探していたホークスが、サカムビットの執務室になっていた壁の一角から探し当てた。ゴトリと空いた壁の狭い隙間に、その極秘書類は隠されていた。厳しい顔つきをしたホークスから、ライルはそれを手渡された。
ライルはその『霧の華』精製法の記された紙に火をつける。
暖炉の中にそっと置くと、たちまち勢いよく燃え上がった。
彼はただ沈黙して、暖炉で燃え上がるその紙切れを、静かに静かに見詰めていた。
完全に灰になるまでじっと見守っていた。
そんなライルを取り囲み、仲間達も沈黙を守っていた。
そうして彼らは、サカムビットの執務室で発見した幾つかの書類から、人里離れた山奥に隠されていた『霧の華』の製造所の場所を首尾良く突き止めた。
ウェインの申し出で、エドの街の自衛団の一部がその壊滅作戦に同行して力を貸してくれた。サカムビット亡き後、その組織の者達が利権をめぐって争っている最中だったらしく、大きな抵抗もなく見事に陥落させ、一生そこで働き続ける定めであったはずの奴隷同然の人々を解放した。最後にティナがライルとの約束通り、サラマンダー達を解き放ち、その施設を焼き払う。
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ついに『霧の華』の根元を叩き潰した一行。
ティナのサラマンダー達が放った炎に燃え上がるその建物を背に、ライル達は立ち去ってゆく。小高い丘の上で、ライルは一度振り向いた。煙を上げて遠く燃え上がるその光景を、しっかりとその胸に焼き付ける。
それは、呪われた過去との決別でもあり、またそうした過去をも、自分にとって忘れてはならない大切なものとして、静かにライルは受け入れている。そしてくるりと背を向け、先をゆく仲間達のもとへと急ぎ足で向かう。
今は、あいつらと一緒にいられる時間をできるだけ逃したくはない。
少なくとも、それが許される間は。
彼は無意識にそう思っている。
そしてそれは、他の者達も同じように思っているのかもしれない。
ティナは、いつもより一層明るく振る舞っている。
痛々しいほどに。
ホークスは一段とにぎやかに場を盛り上げている。
相変わらずティナに殴られてばかりだ。
アリアはそんな様子をクスクスと笑いながら見守っているが、時折寂しげな瞳をする。
ギリアムも豪快な笑い声をあげるが、なぜかふっと黙り込む事がある。
ノエルにしては珍しく、生真面目な顔をしてあまり笑えない冗談を言ったりする。
新たな道が動き出すのを感じる。
そして、別れの予感も強まってくるライルであった。
~~~~第十一話【最後の闘い】終幕~~~~
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第十一話では、全ての決着をつけるラストバトルを核に据えて描きました。
やはり、メインはそっちなのですが、そこに至るまでに取り入れた、エドの街の解放劇のエピソードにも、かなり思い入れがあります。市民革命と、人種差別政策をミックスさせたイメージです。
それぞれの想いがぶつかる訳ですが、どちらが絶対に正しいとも、どちらが完全に間違っているとも言い切れないと、自分は思ってます(やっぱ、変ですかねえ?)。
絶対的に正しいものなんて、ありえないのではと。
ただ、自分にとっての真実を、苦しみながら手に入れてゆくしかないのではなかろうかと。
敗将ロメオスの行く末に、それを表現しております。
エドの街では、大規模な戦闘になってしまう訳なんですが、自分はそうした戦闘を描く際、『一人の人間』が見えなくなってしまう描き方は、絶対にイヤでした。それで、最も過酷な広場での戦闘シーンは、倒れゆく一人の敵兵に焦点を当てて描きました。大きな流れに飲み込まれてしまう一人一人の人間に、それぞれの想いがあるのです。『敵』『味方』という枠組みだけで描きたくなかった。人間としての顔が消えてしまうのは、絶対にイヤでした。ですから、これ以上大規模な戦闘には、一行に身を置かせる事はできません。そうした表現が難しくなるからです。
(まあ、彼らはそんな闘いには参加しないでしょうけどね)
アリアの言葉が、こうした自分の想いを代弁してまとめてくれております。
(それにしても、その歳でここまでしっかりした女の子も珍しい……)
ちなみに、自分はキリシタ○でも何でもありません。
踏み絵は多分踏めます(おい!)。
「浄土宗? 浄土真宗だっけか? どっちやったっけ?」ってな感じです(笑)。
ですからアリアは、『なんちゃって修道女様』。
ホントに信仰持ってらっしゃる方達には、怒られてしまうかも……
ラストバトルは、ほんとに自分でも燃えてました。
「ここで燃えなくてどうするよっ!?」ってな具合で……
激しくも美しい闘いを演出したくて、力が入りまくりました。
いかがでしたでしょうか?
長々とした物語に、ここまでつき合って下さった皆様、本当にありがとうございます。
次回からは、いよいよ【エピローグ】です!
別れの時が迫ります。
あの男女の関係に、一つの区切りが訪れます。
どうしようか迷いましたが、やっぱりこの物語を書き始めた当初の通りにしました。
何章かに渡って、最後の締めくくりを描いていこうと思います。
どうぞ、お楽しみに!




