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ギリアム vs 壊れた剣士 Gilliam vs Broken Swordsman

 ホークスが忍びと対峙している時、ライル達は奥の広大な石造りの大広間で、サカムビット本人も含め、その側近達三人と、激しい死闘を演じていた。



ライルとアリアは、正面に陣取るサカムビットへ。

ギリアムは、大剣を抜き放ち襲いかかってきた左の男へ。

ティナは、右に控える細身の男へ。

ノエルは、離れた右端の空間で、ローブを着た女へ。



それぞれが、それぞれの相手に対峙して、死力を尽くして闘っている……



---------------------------------------------



この大広間に入って、真っ先に戦闘に突入したのはギリアムだった。



 入って左側の物陰から、いきなり斬りかかってきた真っ白な髪をした男の大剣を、剛爆斧でがっちりと受け止めるギリアム。両手持ちの長大なグレート・ソードを軽々と操る、自分と同年代らしきその白髪の男の顔を見たギリアムが、目を見張って驚きの声をあげる。



「レイド!? お前かっ!?」



 それは紛れもなく彼の幼なじみだった男……レイドだった。しかし、ある事件がもとでレイドは故郷から姿を消したのだ。ギリアムが各地を遊歴し続けた理由の一つに、このレイドを捜し出したいという気持ちもあった。


それが今、このような形で実現するとは……



「やっぱり、ギリアムだ! 会えてうれしいよ。はははっ、そのヒゲ! やっぱり生やしたんだ? よく似合ってるよ。『絶対、ヒゲを生やした方が似合う』って、僕が言った通りだろ?」



 彼は一瞬パッと下がり、開けた間合いで横殴りに鋭い大剣の一撃をギリアムに繰り出す。ギリアムはレイドの方に向かって踏み込む事で、弧を描いて襲ってくるその刃の速度を殺して剛爆斧でまたも受け止め、身を寄せる。


刃をギリギリと押し込みながら、にこやかにレイドは問いかける。


「マイトは元気かい?」

「ああ。子供もいる」

「うわあ、すごいや! 見てみたいよ」


言いつつも、レイドはもの凄い力で刃を押し込んでくる。

剛腕のギリアムですら、渾身の力を込めなくてはならない程だ。


「お前がこの剣を鞘に収めてくれたなら、いつでも会わせてやる。共にミッドランドの城下街へ帰ろうぞ」


「鞘はもう無いんだ。君の姿を見たら、うれしくて投げ捨てた。だから、この剣はもうひけない。僕は、もうあそこには戻れない。母さんを守れなかった僕が帰る資格なんてない。それに、みんな僕を恨んでる。君が一番よくわかってるだろ? そんな事」



告げるレイドの言葉に、かつての事件がギリアムの胸に浮かんでくる。


---------------------------------------------


 まだヒゲの無い若き日のギリアムと親友のレイドは、ミッドランドの近くに出没するという野党のアジトへ討ち入った事がある。


 そして、見事に目的を果たして彼らが目にしたものは、心を病んでいたレイドの母を火刑にしている人々の姿だった。その当時、干ばつが続いて作物が実らず、ミッドランド周辺の地域は窮乏していた。その辺りにレイドの家もあった。彼は、心を病んだ母を支えて生きていた。


 しかし、人々は干ばつの原因を、悪魔の仕業だとした。そして、白羽の矢が立ったのがレイドの母だったのだ。暴動にも似た騒ぎの内に『悪霊憑き』として、レイドの母は火の海に飲み込まれた。


 怒り狂ったレイドは、ギリアムの制止を振り切って人々を次々と斬殺する。止めに入ったギリアムですら、凄まじいレイドの力で気絶させられてしまった。人々は、レイドをも『悪魔の子』として糾弾して襲いかかる。絶望的な窮乏に対して、この男が原因だとでも決めつけるかのようにして。


 さらに人々を血の海に沈め、その白髪を返り血で染めレイドは道を切り開き、炎に焼かれ絶命した母親の首を脇に抱えたまま、彼は行方をくらましたのだった。


---------------------------------------------


「母を守れなかったのは、お前のせいではない。もう自分を責めるな」


「いいや、違うね。僕が側に居てあげなかったからいけなかったんだ。だから守れなかった」


「あれは、あやつらが誤解して……」


ガチッとお互い、武器を弾いて間合いを取る。

レイドはニヤリと笑いながら、大きく何度も何度も首を振る。



「違うのさ、ギリアム。人は、誰かを責めずにはいられないんだ。自分の事は棚に上げて。自分の不満や心をごまかすためには、生け贄が必要なのさ。それが母さんと僕だった。いやあ、あの時は憎たらしかったねえ、ホント。やるせない気持ちになったもんさ。若かったねえ。はははっ」



レイドは、心底うれしそうだ。そして、再び鋭い斬撃を打ち込んでくるのだ。


何か、不可思議な感じのする男だ。

その表情に浮かべる感情と行動が、全く一致していない。


そして、その口振りもその年齢と風貌からは、かけ離れている。

どこかが、壊れているような……



 ギリアムは紙一重でそれをかわす。なおもうれしそうな声で、レイドは尋ねてくる。鋭い攻撃の手を全く休めること無く。時には身をかわし、時には剛爆斧で受け止め、ギリアムは防御に徹している。できれば、この男とは積極的に闘いたくはない様子だ。


「そうだ! セラフィーは、どうしてるんだ?」

「病で死んだ」


 それを聞いて、レイドの表情がかげった。攻撃の手が一瞬止む。セラフィーとマイト、そしてギリアムとレイドは、仲の良い青春時代を過ごした間柄だ。



「そうだったのか……。ま、仕方ないか。人はいつか死ぬしな。早いか遅いか、ちょっとした違いだけだ。よし、ギリアム。彼女に会わせてやるよ。セラフィーも君に会いたいはずさ。子供の頃から、彼女はずっと君の事が好きだったんだもの。……いやいや、セラフィーに会うのは、僕の方か? 君は強いからねえ。僕の方が死ぬかもしれない。う~ん、それはそれでいいかもしれないなあ。でも、こんなおっさんになっちゃったしなあ。セラフィーが幻滅しないといいんだけど」



 そんな事を陽気に告げながら、先程より一層激しい攻撃を何度も仕掛けてくる。ギリアムが防ぎ切れないほどに。ようやく、ギリアムも剛爆斧で反撃を始めた。そうでもしないと、しのぎきれないのだ。しかし、レイドはやすやすと回避している。



「ワシがセラフィーに会う事などない。あいつは天国にいる。ワシは地獄行きだからな」


それを聞いて、ますますうれしそうにレイドは笑い声をあげた。


「ははははっ、そりゃそうだ。うまいことを言う。それじゃあ、僕もセラフィーに会うのはダメみたいだなあ」


「そういう事だな」


「そりゃまた、残念! ま、世の中、自分の都合通りにはいかないものなんだしねえ」


 頭上から落ちてくる剛爆斧を、レイドは身体をさっと回転して空を切らせる。そのまま回転をつけて、下からすくいあげるようにして、ギリアムの脇下を大剣で狙い撃つ。防御から攻撃に転じる間、全く無駄がない。


 鋭い攻撃に、ギリアムは自ら斜め前に転がり込んで、その凶刃を間一髪でかわしているが、兜が剣先にかすって弾け飛ぶ。遙か遠くまで飛んでいったギリアムの兜が、石畳の上に騒々しい音を立てて転がる。


 凄まじい威力の斬撃だ。重量のあるグレート・ソードから繰り出される一撃の破壊力は、ライルの操るバスタード・ソードの斬撃をも越えるだろう。



少し間合いをとって、お互いに隙をうかがっている。

円を描くように、二人はジリジリと動いている。



「できれば、おぬしとは闘いたくはない。セラフィーに、おぬしの事を頼むと言われておる」


「そうかあ……なんか、うれしいなあ。あのセラフィーが。君しか見ていなかったのに。僕には少しも心を向けてくれなかったのに。ふうん……。うん、じゃあ、よろしく頼むよ、ギリアムっ!」



 そう叫ぶと、一気に飛び込んできたレイドが、袈裟懸けに渾身の一撃を打ち込んできた。ギリアムも下からすくいあげるようにして打ち込んだ剛爆斧で、その必殺の一撃をガチィンと受け止める。その衝撃で、お互いの武器から火花がパッと飛び散る。


再びギリギリと大剣と大斧を押し込みあう二人。


「どうしても闘うのか?」


「セラフィーに頼まれたんだろう? それは、こういう事なのさ。僕をくい止めるんだ。それが君が頼まれた事なんだ。……ああ、うれしいよ、ギリアム。いつか、いつか君とこんな風に闘ってみたかったんだ! 命を賭けた真剣勝負を。―― そうなんだ、そうなんだよっ!! 今やっとわかった。この時のために、僕はここに身を置いていたんだって。君が必ずやってきて、僕と闘ってくれると心のどこかで待ってたんだ、きっと!」


どこかつかみどころなく、どこか心が壊れているようなレイドだった。



 レイドはバチッと剛爆斧をかち上げ、ギリアムの足元を電光石火の勢いで横払いになぎ払ってくる。バッと後方に跳躍して、それをかわすギリアム。すかさず間合いを一気に詰めたレイドが、大剣を水平にして身体ごと稲妻のごとき突きを繰り出してきた。


着地を狙われたギリアムは、それを左右にはかわす事ができない!


切っ先がギリアムの鎧の継ぎ目に正確に吸い込まれ、その肉まで埋め込まれる。



 しかし、ギリアムは最後の瞬間、思い切り後方に自ら飛ぶ事で、かろうじて大剣の勢いを殺して致命傷を避けた。剛爆斧を持ったまま、後方にもんどりうって転がるギリアムに、先程レイドに弾き飛ばされた兜がぶつかる。


レイドがこの隙を逃すはずがない。さらに間合いを詰めて、上段から床に転がるギリアムに向けて必殺の一刀を叩き降ろそうとする。


 ギリアムは床に転がる兜を片手に掴んで、素早くバッと立ち上がると同時に、その兜をレイドの顔面めがけて投げつける。レイドは一瞬立ち止まって、身をひねってその兜をかわす。それは刹那の時間だった。しかし、ギリアムにとって己の最大の必殺技を解き放つのに、かろうじて間に合う時間を与えてくれた。


「ぬおおおおっ!! 剛爆円舞っ !!!! 」


 ギリアムの全体重と渾身の力を込めた剛爆斧が、凄まじい回転と共に、うなりをあげてレイドに襲いかかる。大剣を振りかぶっていたレイドは、避ける事が適わぬと悟って、その大剣を上段から剛爆斧目がけて叩き降ろす。この斧を弾けば、彼の勝利だ。ギリアムの手元に武器はない。


が……


 レイドが叩きつけた大剣の刃を断ち切り、さらにはレイドの鎧をも断ちきって、剛爆斧が彼の胸にめり込む。その凄まじい衝撃でレイドは後方に吹き飛んだ。折れたグレート・ソードが彼の手から弾け飛ぶ。床にたたきつけられたレイドの横に剛爆斧が転がる。胸骨までも断ちきったその深い傷口から、とめどなく血が溢れ出してくる。



勝負はついた。


 ギリアムは、仰向けに倒れるレイドの側に膝をつき、そっと抱き起こす。口から血の泡を吐きながら、レイドは弱々しい声でうれしそうに告げる。


「……やっぱり、君はすごいや、ギリアム。さすがだよ。強いなあ。あんな技を隠してたのか。僕も必殺技の一つや二つ、作っておけばよかったなぁ。あ~あ、負けちゃった。昔は僕の方が強かったのになあ」


「おぬしも強かったぞ、レイド。ワシが今まで闘った、どの相手よりも強かった」


心から告げるギリアムだ。

それを聞いて、レイドの顔に無邪気な笑顔が浮かぶ。


「そうなんだあ……うれしいなあ……。もう一回、君と闘いたいんだけど、ちょっと無理みたいだねえ。僕、そろそろ地獄へ行かないと……」


「レイドよ。ワシもじきに地獄へ行く。その時は、二人で地獄の鬼どもの酒を奪って、共に酌み交わそうぞ」



にっこりと笑いながら、微かにうなずくレイドだった。


「いいねえ、それ。ま、期待しないで、気長に待ってるよ。君はまだまだ……くたばりそうには……ないと思うんだけどなあ……」



レイドは逝った。


ギリアムは、彼のまぶたを閉じさせてやる。

その彼の死に顔は、罪のない子供のように純粋で穏やかだった。


多分、彼はあまりにも純粋過ぎたのだろう。


 だから、ひどい仕打ちをした人々がいる故郷に帰ることができなかった。だから、最期まで母を守れなかった自分自身を許すことができなかった。友の力を頼る事を、自分で許せなかった。できなかった。


「安らかに眠れ、レイド。我が友よ。我が幼なじみよ……」


かつての幼なじみの亡骸を腕に抱え、静かに告げるギリアム。

冷たくなってゆくレイドの顔に、熱い涙が降りそそぐ。


声を殺して漢泣きする剛勇の騎士だった……

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