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NEU BOXER  作者: 乙籠一
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第九話 音速のセルテ


注意

この文章は作者が書いた文章をAIに添削してもらった上で投稿しています。

間違っても作者一人で作ったものではありませんので勘違いなきようお願いいたします。



ジムへ戻った頃には、外はすっかり暗くなっていた。


僕は軽く息を吐く。


――練習しろ。


ハチローに言われた言葉が脳裏をよぎる。


僕は気持ちを切り替えるように、再びリングの前へ立った。


だが――。


『……で、何すりゃいいんだ?』


思わず呟く。


ハチローがいない今、何から始めればいいのかわからなかった。


ジャブか。


パーリングか。


それともシャドーか。


考えれば考えるほど、逆に手が止まっていく。


静まり返ったジム。


しばらく黙り込んだ末、僕は一つの結論へ辿り着いた。


(……動画見ればいいじゃん)


我ながら雑な発想だった。


だが、今の僕にはそれしか思いつかない。


僕はジムの隅に置かれた映像端末へ歩み寄り、何の許可もなく電源を入れた。


《ビビビーッ――》


起動音が鳴る。


そして最初に映し出されたのは――


とあるニューボクサーの映像だった。


《なんてスピードだ! 

一瞬で腹を撃ち抜いたァアアアア!!!》


最初に流れたのは、いくつものKOシーンを繋ぎ合わせたハイライト映像だった。


縦横無尽のポジションチェンジ。


死角から突き上げるようなボディアッパー。


対戦相手は反応する間もなく沈んでいく。


映像は次の試合へ切り替わった。


《目にも止まらぬ攻防だ! 

三連ジャブからの先出しカウンターを決めたァアアア!!!》


踏み込みながら放たれる三連ジャブ。


それに合わせるように、相手の右クロスが飛ぶ。


――決まった。


誰もがそう思った瞬間だった。


セルテはわずかに頭をずらしながら前へ踏み込み、右ストレートを叩き込んでいた。


相手の拳は空を切る。


そしてセルテの拳だけが届く。


まさに攻防一体。


芸術と呼ぶに相応しいカウンターだった。


『すごい……! まるで芸術みたいなKOだ……!』


ハイライト映像が終わる。


続いて画面には、彼を知る人々のインタビューが映し出された。


《彼は天才じゃない。 

だけど誰よりも堅実に努力し、 

スーパースターまで登り詰めた男だ》


《子供の頃の彼を知ってるよ。 

足は遅いし、どんくさいし、 

正直スポーツ選手向きには見えなかった》


《けど彼は諦めなかった。 

血の滲むような努力を積み重ね、 

今じゃ世界屈指のスピードスターさ》


《キラークロス。 

ソニックステップ。 

マッハボルケーノ。


 彼のコンビネーションは、 

どれも確かな技術に裏打ちされている》


《彼の武器は才能じゃない。


 昨日の自分を超え続ける意志だ》


次々と語られる逸話。


僕は自然と画面へ引き込まれていった。


『音速のセルテ……』


思わず息を呑む。


映像は彼の練習風景へ切り替わった。


《あなたの強さの源は何ですか?》


インタビュアーの問いに、セルテは穏やかな笑みを浮かべる。


《努力だよ》


《どんな努力ですか?》


《特別なことはしてないさ》


そう言って彼は肩をすくめた。


《ステップ。 

ミット打ち。

筋力トレーニング。


 そしてシャドー。


 僕の力は全部、 

そういう地味な積み重ねでできている》


次の瞬間。


彼のシャドー映像が流れた。


シュッ。


シュッ。


シュシュシュシュシュッ―――。


凄まじい速度。


拳が幾重にも重なり、残像のように視界へ焼き付く。


(これがシャドー……!? 

早送りじゃないのか!?)


僕は思わず前のめりになる。


すると再び、関係者たちの証言が始まった。


《彼のシャドーを初めて見た時の衝撃は忘れられない》


《無駄がないだけじゃない。


 速くて、美しかった》


《彼は常に自分より速い相手を想定して準備している》


《だから強いんだ》


《シャドーは無駄を削る練習だけど、 

彼は削りすぎだよ》


インタビュアーが笑う。


《おかげで隙を探すのに苦労した》


(なるほど……)


僕は思わず唸った。


(このシャドーにも、 

ちゃんと意味があるのか)


そして再び、セルテ本人のインタビューへ戻る。


《シャドーは僕を変えてくれた》


《シャドーがなければ、 

僕はここまで速くなれなかったと思う》


《みんな派手な技を探したがる》


《でも僕は、 

地味な部分を磨く方が好きだった》


《差がつくのは、 

案外そういうところだからね》


セルテは少し照れくさそうに笑う。


そして真剣な眼差しで続けた。


《みんな僕を速いと言うけど、 

僕は速さを追いかけたことはない》


《リングで大切なのは、 

知性と準備、そして覚悟だ》


《速さはその結果に過ぎない》


《それがあれば、 

人は何度だって変われる》


その言葉は、不思議なくらい胸に響いた。


(これが……音速のセルテ……!)


次の瞬間。


ゴンッ!


頭上に拳が落ちてきた。


慌てて顔を上げる。


そこには――


額に青筋を浮かべたハチローが立っていた。


『おいお前。

 人のビデオを勝手に見るとは、

 いい度胸してるな?』


僕は黙る。


反論できなかった。


するとハチローは、大きくため息を吐いた。


『はぁ……』


そして映像端末へ目を向ける。


『見られちまったなら白状するがな』


少し照れ臭そうに頭を掻く。


『それは俺の原点たからものだ』


『原点?』


『ああ』


ハチローは鼻を鳴らした。


『俺がニューボクシングにのめり込むきっかけになった男だ』


そう言って、画面の中のセルテを指差す。


『だから壊したら許さん。 

お前のファイトマネーから差っ引く』


『それは困る!』


僕は即答した。


ハチローは一瞬だけ吹き出し、すぐに真顔へ戻る。


『まあ今回は勘弁してやる』


そして僕の肩を掴んだ。


『とにかく今は練習だ。 

さっき言ったシャドーをやるぞ』


『え、今から!?』


『当たり前だろ』


次の瞬間。


僕は首根っこを掴まれ、半ば強引にリングへ引きずり戻されていた。


――だが。


頭の中では、セルテの言葉がまだ消えていなかった。


《速さはその結果に過ぎない》


その意味を、僕はまだ理解できていなかった。


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