第十話 鏡の中の自分
注意
この文章は作者が書いた文章をAIに添削してもらった上で投稿しています。
間違っても作者一人で作ったものではありませんので勘違いなきようお願いいたします。
リングへ上がり、練習を再開した僕は――
ハチローの言うシャドーに苦戦していた。
『違う!!』
怒声が飛ぶ。
『まずガードだ!!』
『拳を鎖骨の位置に置け! そこがお前の定位置だ!!』
僕は慌てて拳の位置を修正する。
だが。
『違う違う違う!!』
すぐさま次の指摘が飛んできた。
『肘が開いてる!! もっと締めろ!!』
『肘裏に力を溜めろ!!』
『そこから拳まで一直線に伝達するんだ!!』
『溜めた力を逃がすな!! そのまま斜め前へ打ち抜け!!』
とにかく細かい。
拳の位置。
肘の角度。
重心の乗せ方。
一つ直せば、また次の修正が飛んでくる。
僕は苛立ちを覚えながらも、必死に動きを繰り返した。
『ハチローさん』
息を切らしながら言う。
『これ難しすぎないか?』
『ていうか、そんなに僕できてないのか?』
するとハチローは呆れたように鼻を鳴らした。
『鏡見てみろ』
『?』
『お前、マジで下手くそだから』
僕は言われるまま壁際の鏡へ目を向ける。
そして――
シャドーを始めた。
その瞬間だった。
『……』
思わず言葉を失う。
鏡の中の僕は、自分が思っていた姿とまるで違っていた。
肩は不自然に揺れ。
足はもつれ。
拳を打つたびに肘が開く。
連打は途切れ途切れで、流れもない。
セルテのような洗練された動きなど、どこにもなかった。
まるで踊れない人形が、無理やり踊らされているみたいだった。
『……なんだよ、これ』
思わず声が漏れる。
僕はもっと動けていると思っていた。
もっと速く。
もっと鋭く。
少なくとも、こんな無様な動きじゃないと思っていた。
だが現実は違う。
鏡の中にいたのはセルテに憧れる男じゃない。
ただの初心者だった。
その様子を見ていたハチローは鼻で笑った。
『何期待してんだよ』
『素人なんて最初はそんなもんだ』
そして真顔になる。
『だから基本をやる』
『ガード。ストレート。ステップ。シャドー』
『地味だろうがなんだろうが積み重ねるしかねえ』
『強くなるってのは、そういうことだ』
僕は少し肩を落としながらも、再び前を向いた。
こんな動きを本番で見せるわけにはいかない。
そう思いながら――。
右。
左。
右。
鎖骨や顎の定位置から拳を動かす。
ただそれだけの動作を何度も繰り返す。
しかし、どこかぎこちない。
やればやるほど、自分の不器用さばかりが目についた。
『はぁ、はぁ……ハチローさん』
『こんなんばっかやってて飽きないか?』
『いいから黙ってやれ!!』
ハチローは容赦なかった。
少しくらい考える時間が欲しかったが、そうもいかないらしい。
結局僕は文句を飲み込み、黙々と体を動かし続けた。
そして――
練習が終わる頃には、全身から力が抜けていた。
『ふぁあああ……』
ジムを出る。
夜風が少しだけ心地よかった。
大きく伸びをする。
『……さすがに疲れたな』
肩を回しながら呟く。
『帰って寝るか』
そう思った、その時だった。
不意に。
目の前へ一人の男が立ち塞がる。
深く被ったフード。
街灯の影に隠れ、顔はよく見えない。
『誰だ?』
僕が問いかける。
男は答える代わりに静かに口を開いた。
『君がリガくんだね?』
『喧嘩ならやらんぞ』
『違う』
男は短く否定した。
『用件は別だ』
そう言うと、彼は僕の隣へ並ぶように立った。
そして小さな声で囁く。
『WNBには気をつけろ』
『……WNB?』
『世界ニューボクシング機構だ』
男は周囲を一瞥する。
まるで誰かに聞かれるのを警戒しているようだった。
『喧嘩屋の君を快く思っていない連中がいる』
『なんで?』
『さあな』
男は肩をすくめる。
『だが、彼らは自分たちに都合の悪い存在を嫌う』
僕は眉をひそめた。
『よくわからんな』
『わからなくていい』
男はそう言って小さく笑った。
『ただ覚えておけ』
そして少しだけ表情を引き締める。
『この話は誰にもするな』
『秘密ってことか?』
『そうだ』
男は短く答えた。
『こんな真似が知られたら色々面倒になる』
『……名前は?』
僕が尋ねる。
男は背を向けたまま足を止めた。
ほんの少しだけ振り返る。
『次戦の対戦相手だ』
『それじゃ答えになってない』
男は小さく笑った。
『会えばわかる』
それだけ言い残し、夜の闇へ消えていく。
だが去り際――
彼は一度だけこちらを見た。
その目は敵を見る目ではなかった。
まるで僕という人間を値踏みするような視線だった。
『……なんだったんだ?』
僕は首を傾げる。
結局何者なのかも。
なぜ忠告してきたのかもわからない。
ただ一つだけ確かなのは――
あの男が僕を知っていたということだった。
僕は釈然としないまま家への道を歩き出した。
◆
翌日。
僕は朝早くからハチローに呼び出された。
『出稽古に行くぞ』
開口一番、そう言われる。
『出稽古?』
聞き返す僕に、ハチローはニヤリと笑った。
『まあ来ればわかる』
それだけ言うと、さっさと歩き出してしまう。
僕は慌てて後を追った。
――なんだろう。
胸の奥が少しだけ高鳴る。
その時の僕はまだ知らなかった。
この出稽古が、これまでとはまるで違う出会いへ繋がることを。




