第八話 導く者
注意
この文章は作者が書いた文章をAIに添削してもらった上で投稿しています。
間違っても作者一人で作ったものではありませんので勘違いなきようお願いいたします。
地獄のような訓練を始めて、
三日目。
ジャブ。
パーリング。
ジャブ。
ジャブ。
パーリング。
パーリング。
僕の体は、
早くもこのスパルタじみた猛特訓に
順応し始めていた。
『慣れてきたじゃねえか、リガ!』
ハチローがニヤリと笑う。
『いい調子だ。
さすがにタイミングが掴めてきたな』
まだ右手だけの練習。
それでも、
少しずつハチローの拳が
見えるようになってきていた。
《ビビーッ!!》
低いブザー音が響く。
僕は水分補給をしながら、
壁の時計へ目を向けた。
(……ほんとに、
こんなんで強くなるのか?)
そんな疑念が脳裏をよぎる。
だが、
そんなことはお構いなしに、
ハチローは口を開いた。
『どうだ?
やってみて、
何か気づきはあったか?』
僕は首を横に振る。
すると彼は、
少し残念そうに鼻を鳴らした。
『まあ気にすんな。
始めたてなんざ、
誰だって赤子みてえなもんだ』
そして、
僕を指差す。
『今のお前に必要なのは、
まず“型”を覚えることだ』
『型?』
『型は型だ』
ハチローは当然のように言った。
『ニューボクシングの歴史の中で、
脈々と受け継がれてきた戦い方――
それが型だ』
『へえ』
僕は適当に相槌を打つ。
正直、
まだ完全には信用できていなかった。
本当に、
こんな地味な練習で強くなれるのか。
そう思ってしまう。
――今は、まだ。
『よし』
ハチローがパン、と手を叩く。
『そろそろ次の段階に入るぞ。
基礎練だけじゃ、
お前も飽きるだろ』
そう言うと、
彼はグローブを外した。
『お前も外せ』
『次は何やるんだ?』
『シャドーだ』
ハチローは軽く構えを取る。
『凝り固まった動きから、
無駄を削る訓練だな』
そう言って、
何もない空間へ向けて
滑らかなワンツーを放つ。
シュッ。
シュッ。
空気を裂く音だけが響いた。
『……何やってんだ?』
『だからシャドーだって言ったろ』
ハチローは呆れたように笑う。
『これを極めりゃ、
お前はメキメキ強くなる』
『メキメキと?』
『その代わり――』
彼はニヤリと笑った。
『テキトーにはやれねえぞ。
強いやつほど、
こういう地味な練習を雑にしねえ』
『へえ……』
その瞬間。
胸の奥が、
妙にざわついた。
熱を帯びるような感覚。
それは、
僕が生まれて初めて感じる
“昂り”だった。
『さあ、始めるぞ!』
ハチローが再び手を叩く。
――その刹那。
《ブーッ、ブーッ》
彼のポケットから、
着信音が鳴り響いた。
『おいおい……』
タイミングの悪さに、
ハチローが眉をひそめる。
だが。
通話に出た瞬間、
彼の顔色が一変した。
『……何!?
階段で転んだ!?』
僕は直感する。
――ハチブンジだ。
『手術って……
わかった!!
すぐ行く!!』
通話が切れる。
ハチローは、
顔を覆うように手を当てた。
そして――
『リガ』
低い声だった。
『お前はここで練習してろ』
『……』
『娘が怪我した』
『わかった』
僕が頷くと、
ハチローはそのまま
慌ただしくジムを飛び出していった。
そして。
『……ん?』
僕は、
床に落ちた端末へ気づく。
『おい!』
呼び止める。
だが、
返事はない。
もう彼の姿は、
どこにも見えなかった。
『……仕方ないか』
僕は小さく息を吐く。
そして渋々、
ハチローの端末を届けるため、
ハチブンジのいる病院へ向かうことにした。
◆
病院へ到着。
ゲートを抜けた先で、
僕はハチローの背中を見つけた。
そして――
その先の光景に、
息を呑む。
血を吐きながら運ばれていく、
ハチブンジの姿があった。
(ハチブンジ……!)
思わず駆け寄ろうとして、
僕は足を止める。
ハチローと医者が、
何かを話していた。
『何が起きてるんですか!!
まさか、心臓病が……!』
だが、
ドクターは首を横に振る。
『いいえ。
おそらく風針病です』
『風針病……!?
そんな……
なんで今なんだよ!!』
僕は咄嗟に曲がり角へ身を隠した。
――下手に出ていける空気じゃない。
本能的にそう感じた。
『おそらく、
入院前に感染していたのでしょう』
『怪我の件については、
本当に申し訳ありません』
医師は苦々しげに眉を寄せる。
『看護師不在の時間帯に、
彼女を一人にしてしまった。
完全に私の責任です』
ハチローの顔から、
みるみる血の気が引いていく。
僕は張り詰めた空気の中、
ただ黙って会話へ耳を澄ませた。
『……クソッ』
ハチローが震える声を漏らす。
『なんでだ……
なんで娘ばっかり、
こんな目に遭うんだよ……!!』
涙が床へ落ちた。
『どうして一人にした!!
なんでだ!!!』
怒鳴り声が廊下へ響く。
冷静じゃない。
それくらい、
僕にだってわかった。
『この病院に任せたのが間違いだった……!
俺が、もっとしっかりしてれば……!!』
膝から崩れ落ちるハチロー。
その時だった。
『……パパ』
か細い声が響く。
『ハチブンジ!!』
『……パパ。
怪我は、私のせいだから』
弱々しく、
彼女は笑った。
『部屋から出るなって言われたのに、
勝手に水飲みに行って……
階段で転んじゃっただけ』
『喋るな!!
頼むから、もう喋るな!!』
ハチローの声が震える。
『これ以上悪化したら……
俺は……!!』
『聞いてよ、パパ』
ハチブンジは静かに続けた。
『リガのやつね。
生意気にも、
ニューボクシングって何だって聞いてきたの』
『……』
『でも私、
うまく答えられなかった』
彼女は小さく息を吐く。
『でもね。
あいつの戦いを見てたら、
少し安心したの』
『……』
『ああ、あいつ……
もしかしたら、
私のなれなかったものに
なれるかもしれないって』
『なれなかったもの……?』
ハチローが呆然と呟く。
その言葉に、
僕の眉もわずかに動いた。
『だからさ、パパ』
ハチブンジは、
少しだけ笑う。
『リガを導いてあげて』
『……』
『私の叶えられない夢を……
あいつなら、
叶えてくれる気がするの』
か細い声だった。
『なんとなく、だけど……』
ハチローは、
何も言えなかった。
◆
どうして、
あそこまで僕に期待するのか。
それはまだ、
僕にはわからなかった。
けれど――
胸の奥に残った
あの言葉だけは、
なぜか消えなかった。
『リガを導いてあげて』
僕は端末を握り締めたまま、
静かにジムへの帰路についた。




