第七話 戦う意志
注意
この文章は作者が書いた文章をAIに添削してもらった上で投稿しています。
間違っても作者一人で作ったものではありませんので勘違いなきようお願いいたします。
ジャブ。ジャブ。ジャブ。
七連続で拳を突き出した直後――
《ピーッ!!》
ブザーが鳴る。
『防御!!』
僕は即座にパーリングの構えへ切り替えた。
ブザーが鳴るたび、
攻撃と防御を入れ替える訓練だ。
『流しが雑だ!!
タイミングを見極めろ!!!』
スパルタだった。
僕が息継ぎの瞬間、
ほんのわずかに気を抜いた刹那――
シュッ。
ハチローの左ジャブが、
正確に顎を撃ち抜いた。
『ぎっ!?』
『オラオラ!!
左手ェ!!!
拳は顎!!
脇は閉めろ!!
基本姿勢を崩すな!!!』
左。
また左。
気づけば、
ハチローのジャブが何度も僕の顔を跳ね上げていた。
『ぐえっ!?』
僕は――
なす術なく、一方的に殴られていた。
《ビビーッ!!》
低いブザー音がジムに響く。
『よし、休憩!!』
ハチローはそう言うと、
タオルをこちらへ放り投げた。
『しっかり休めよ?』
僕は反応する。
だが――
手が動かなかった。
タオルが顔面へ落ちる。
(……あれ?)
腕が、
小刻みに震えていた。
直後、
それを見ていたハチローが
ジム裏からドリンクを持ってくる。
『脱水症状だな。
とりあえず飲め』
『……ああ』
『昨日からぶっ続けだったからな。
そりゃ体も悲鳴上げる』
僕は自分の手を見る。
まだ震えている。
今まで、
こんなことはなかった。
そう思った瞬間――
『今までは、
なんとかなってただけだ』
ハチローが言った。
まるで、
僕の考えを見透かしたみたいに。
『体ってのはな、
本来ある程度の限界値がある』
彼は真っ直ぐ僕を見る。
『お前はこれから、
自分の体を管理しなきゃならねえ』
『体を管理……?』
僕は気の抜けた声を漏らす。
するとハチローは、
呆れたように眉をひそめた。
『お前、
普段なに食ってる?』
『何って……
パンとか、水とか』
『それだけか?』
僕は迷わず頷く。
それを見たハチローは、
額へ手を当てた。
『……まあ、そうなるか』
苦い顔だった。
『最近までスラムにいたやつが、
まともな飯を食える道理はねえもんな』
『悪いな。
スラムの人間で』
『違う、悪く捉えるな』
ハチローは低い声で言った。
『俺が言いてえのは、
それが普通になっちまってるのが問題だって話だ』
『気にすんなよ。
スラムじゃ日常だ』
『それが日常じゃ、困るんだよ』
『……なんでだ?』
僕がそう聞くと、
ハチローは即答した。
『食事が体を作るからだ』
その一言で、
僕は妙に納得した。
『なるほど』
『よく覚えとけ、リガ』
ハチローは静かに言う。
『食事も“戦い”だ』
『戦い?』
『ああ』
彼は強く頷いた。
『何を食って、
どう回復して、
どう体を作るか――
それでニューボクサーの未来は変わる』
そして、
少しだけ目を細めた。
『食ったものでしか、
人間は戦えねえんだよ』
僕は彼の言葉を、
頭では理解していた。
だが――
“食事”という言葉に、
どこか心が抵抗している。
『うーん……
食事が戦い、か……』
『不満か?』
僕は首を横に振った。
『そういうわけじゃない。
ただ――好きじゃないんだ、食べるのが』
『好きじゃない?』
『ああ』
僕は少し視線を落とす。
『生きるために必要なのはわかるけど……
なんていうか、変わらないんだ』
『変わらない?』
『味が』
ハチローは眉をひそめた。
『味がしないのか?』
僕は小さく頷く。
それを見た途端、
ハチローは何かを決意したように腕を組んだ。
『よし』
『?』
『今度レストランに連れてってやる』
『レストラン?』
『有名なチェーン店だがな』
ハチローはニヤリと笑う。
『お前の歪んだ食の認識、
一回ぶっ壊してやる』
◆
二時間後。
無理のない範囲で練習を終えた僕は、
ハチローに頼まれ、
ハチブンジの様子を見るため病院へ来ていた。
『なんで僕が……』
ぶつぶつ呟きながら、
厳重なセキュリティゲートを抜ける。
そして病室の前へ立ち、
軽く扉を叩いた。
『ハチブンジ。
ハチローさんに頼まれたんだが、いるか?』
返事を待たず、
僕はそのまま扉を開ける。
そこには――
窓の外を、
どこか寂しげな目で見つめる彼女の姿があった。
『ハチブンジ……』
『――あら。
来たのね、リガ』
僕はハチローから預かった手土産を、
ベッド脇へ置く。
だが――
『ちょっと!
もっと丁寧に置きなさいよ!』
突然怒鳴られ、
僕は思わず肩を揺らした。
『……ごめん』
そう謝ると、
ハチブンジは少し意外そうな顔をする。
『ちゃんと謝れるのね。
スラムの子って、
もっと礼儀悪いイメージだったけど』
『母親によく言われてたんだ』
僕はぼんやりと、
昔の記憶を思い返す。
――自分が悪い時は、
ちゃんと自分から謝るのよ?
懐かしい声が、
脳裏に蘇った。
『どうしたの?』
ぼんやりと記憶を辿る僕を、
ハチブンジが怪訝そうに見つめる。
『いや、なんでもない』
僕はふと思い立ち、
彼女へ質問を投げかけた。
『なあ、ハチブンジ』
『なに?』
『ニューボクシングって、
なんなんだ?』
『……端的に言ってちょうだい』
困ったように眉を寄せながら、
彼女は言う。
僕は少し考え、
言葉を探した。
『駆け引き、かな』
『駆け引き?』
『ああ。
ニューボクシングってさ、
どんな駆け引きをする競技なんだろうって思っただけだ』
するとハチブンジは、
呆れたようにため息をつく。
『そんなの、
パパに教わればいいじゃない』
即答だった。
けれど、
僕が聞きたかったのは、
ハチローの答えじゃない。
『……君の考えを聞きたい』
その瞬間。
ハチブンジの表情が、
ほんの少しだけ変わった。
『そういうことね』
彼女は静かに息を吐くと、
真っ直ぐ僕を見つめ返した。
『駆け引き自体は、
そこまで難しいものじゃないわ』
『……』
『先に触るか。
触らせないか』
彼女はゆっくり続ける。
『自分の流れに引き込むか。
相手の流れを断ち切るか』
その声には、
どこか確信があった。
『その中で、
いかに“相手のやりたいこと”を封じるか――それが大事なの』
『やりたいことを……』
僕は小さく呟き、
頭の中でその言葉を反芻する。
するとハチブンジは、
さらに言葉を重ねた。
『でも――』
彼女は、
僕の胸元を軽く指先で押す。
『あんたには、
もっと大事なものがあるんじゃない?』
『大事なもの?』
『“戦う意志”よ』
『戦う……意志?』
『ええ』
彼女は静かに頷いた。
『ニューボクサーが、
絶対に手放しちゃいけないもの』
その目は笑っていた。
けれど同時に、
どこか寂しそうでもあった。
『不幸なんて、
いつ降ってくるかわからない』
『……』
『ニューボクサーっていうのは、
そういうものと隣り合わせの職業なの』
病室に、
小さな沈黙が落ちる。
そして彼女は、
少しだけ目を伏せた。
『だからね』
その声は、
どこか掠れていた。
『私は、
あんたに負けてほしくない』
『……』
『私が、
勝てなかったから』




